Red Crow

紅姫

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番外編 アウトリーチ 〜差し伸べられる手〜 

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ーユウィリエがまだハービニーにいた頃


「そういえば、僕、リュウの昔のことってあまり知らないかも」

その話は、そんなルナの呟きから始まった。



「そうか?」

と俺が言うと、ルナは力強く頷いた。

今は夕食後で、特にすることもないので食堂で皆で話をしていた。
そんな中で、ルナが思い出したように呟いたのだ。

「ないよ。あんまり、そういう話しなかったじゃん」

「そうだっけ?」

確かに…話したことはない気もする。
と、言っても…。

「特に面白い話はないよ?」

「そんなことないでしょ」

「俺も聞いてみたいな。国をおさめる総統の昔話」

ルナの発言に、ルークも同調する。
我が意を得たりとばかりにルナが言う。

「だよね!皆だって聞いてみたくない?」

「聞いてみたいですけど…でも無理に話させるのは…」

キースはこちらを気遣ってそう言う。

「話すのはいいけど…何が聞きたいんだよ。ほんとに面白い話なんてないぞ」

せめてお題を決めろとみんなに振る。

「はい!はいはい!!」

ピシッと手を上げて言ったのはゾム。

「なんだ、ゾム」

「オレ、リュウの浮いた話が聞きたい!」

そんなことを言った。

「浮いた話って?」

「恋愛話のことだよ」

浮いた話の意味が分からなかったのかノアがマオに聞き、マオがそれに答える。

「ないよ、そんなの」

「えー!!」

驚きの声を上げたのは、ルナだった。

「リュウ、さすがに無いってことないでしょ?」

ゾムも続く。

「そんなに意外ですか?リュウさんくらいの身分があれば許嫁とかは居たとしても、恋愛したことないっていうのは納得がいきますけど」

「あ~、確かに」

キースの発言にルークは頷く。

「馬鹿だなぁ。だからこそじゃないか」

チッチッチッと指を振りながらルナが言う。

「許嫁がいたりして、恋愛なんてしなくていい状態でも、女には惹かれるものでしょ?たまたま城下に出て見つけた平民の女の子に恋したりさぁ!」

「ルナさん、それは夢の見過ぎな気がします。そんなの小説の中の話ですよ」

「いや、でもルナティアの言い分も分かる気がするな」

「ルーク君!君はこっちの味方だったでしょ!」

「味方って、俺は中立の立場で物言ってるつもりなんだが…」

「まぁ確かに、ルナの話はちょっと夢見すぎかもな」

「ゾム!君が聞きたいって言ったのに諦めるのか!」

と本人をおいて盛り上がっていく。

「…」

「ねぇ、リュウ」

ノアが俺に声をかけてきた。

「なんだ?」

「本当にないの?」

「ないよ」

「気になる子とか思い出に残ってる子くらい居たんじゃない?」

マオも聞いてきた。

「思い出に残ってる子ねぇ…」

頭の中で昔の記憶を引っ張りだす。


「あ…」


そんな声が無意識のうちに漏れた。

「なになに!思いあたる節があるの!あるんだね、リュウ!」

「やっぱり、絶対あると思ったんだよ!」

ルナとゾムが詰め寄ってくる。

「いや、でも…お前たちが望んでるような話じゃないぞ」

「そんなの、聞いてみないとわからないよ!話してみてよ」

全員の視線が俺を見ていた。

「後で文句とか言うなよ…」

俺は話しはじめた。

















✻✻✻✻✻


ー19年前、俺が8歳の時


その頃の俺はまだ父親がおさめる国にいて、身分的には『王子』って呼ばれていた。そんな頃の話だ。

季節は…春だった。

父親がおさめる国は戦時国で、国に来る他の国の役人もやっぱり戦時国の人達で…。

俺はそんな国で育ったけど、何故兵や武力なんて必要なのか分からなくてな。王子のくせに、そういう人達と交流しようとはしなかった。
父親もそれが分かってたのか…無理に俺をその人達と会わせようとはしなかった。

でも、その日は珍しく父親が一緒に来いと言ったんだ。

どこか他の国に行くみたいで、俺は車の後部座席、父親の隣に腰掛けて揺られていたよ。


着いたのは…なんて国だったかな。ただ、戦時国であることは国の雰囲気ですぐに分かったな。

俺は父親に連れられて、その国の城の中に入った。そこには、他にも多くの戦時国の連中がいて、その近くには俺くらいの子供の姿もあった。

近くでその城の従者たちが話していた話では、どうもその集まりは、戦時国同士の協定の話もそうだが、今後その後を継ぐであろう子供達の顔合わせの機会に設けられていたらしい。
だから、俺くらいの子供が多くいたんだな。


会議が始まる時間になったら、俺達子供は親から離されて、城の近くにある城下の公園に連れて行かれて、遊んでろと言われた。
公園の出入り口とかに兵がいて、監視されてる感じがして気分が悪かったな。
公園には俺のような身分のある子供だけじゃなくて、平民の子供もいてな。肩身が狭そうだったな。


どこの戦時国のか分からない王子たちと話す気にはなれなくて、俺は公園のベンチに座ってた。

戦時国の子供ってな、やっぱり気性が荒い奴が多いんだよな…。平民の子を虐めるやつがいたり、王子同士で喧嘩する奴がいたり…。
でも、時間が経てば子供の間でも上下関係ってのができてくるもので、何個か派閥ができてたな。

「おい」

そんな様子を見てたら、ある派閥の奴らが俺の前に立っててな。
その親分的なやつは俺でも知ってる有名な戦時国の子供だったよ。
俺よりも4歳くらい年上で…身体が大きくて、太ってたな。

「なに?」

「お前だろ?旧家の息子って」

俺は顔をしかめたね。
俺は自分の旧家の息子って言う身分が好きじゃなかったからな。

「…」

「ハッ…。親父たちが旧家の息子も居るから、丁重に扱ってこいって言ってたが、こんな弱っちそうな奴だとはな」

旧家の息子が全員強いわけじゃないだろうし、俺は力に興味はなかったからな。鍛えてもいなかったし、歳にしては細身で小さかったのもあって、馬鹿にされたんだろうな。

「こんなのが息子なんて…こりゃウェンチェッター家はかわいそうだな」

「ホントっすね」

なんて言って笑われたよ。
イラッとは来たけど…俺は怒らなかった。
でもそれが逆に相手の気に触ったようでな。

俺は襟首掴まれてた。

「なんだよ、すました顔しやがって!旧家の息子は、身分の低い俺達みたいな奴には興味ありませんってか!?」

抵抗しようにもできなくてな…。それがまた興奮を煽っちゃって…。

俺は襟首を掴まれたまま、ソイツとその取り巻きに持ち上げられてたよ。足を持たれて、ベンチから浮かされて…。めちゃくちゃ怖かったな。俺は目をぎゅっと閉じてたよ。


でも、それはすぐに終わった。


襟首と足を持っていた奴らの感触が消えたんだ。
俺は、地面に落とされた。ちょっと痛かったけど、襟首掴まれてたときの痛みと恐怖よりはマシだったから、気にならなかったな。
恐る恐る目を開けたら、ソイツらは地面に倒れてて、

「ちくしょう!」

って怒鳴ってどこかに行った。


その様子をポカンと見てたら…

「大丈夫?」

目の前に現れたその子がそう言ったんだ。


「大丈夫…」

「そう、なら良かった」

その子は俺に手を差し伸べてくれて、俺が手を取ると引っ張りあげてくれた。

見たことない子だったな。
でも、警戒心とかはなかった。差し伸べてくれた手が暖かかったからかもな。

「ねぇ、ちょっと話さない?」

そう聞かれて、俺は頷いていた。



さっきのベンチに腰掛けて、隣にその子が座った。

「大変だったね、変なのに絡まれて」

「うん…」

「抵抗すればよかったのに」

「そんなの嫌だよ」

その子は首を傾げてた。

「俺は他人を傷つける力に興味がない。そんな力欲しいなんて思ったこともない」

「なんで?」

「誰かが誰かを傷つける、そんなのがそもそも間違ってるだろ。一体、どんな理由があれば人を傷つけていい理由になるんだよ」

「ふーん。じゃあ、君は戦争とか嫌いなの?」

「嫌い。大嫌いだ。
何も知らない人を殺さなきゃならないし…中には一般人だっているんだ。
そんな人たちにまで銃や剣を向けるなんて…。

俺の父さんも国王で…戦時国だから一般人にまで徴兵令を出す。それを見ると…本当に申し訳なく感じるよ。その人たちにだって家族がいるのに…そんなのに出させちゃってさ…」

「へぇ」

その子になんでそんなことを話してるんだろうと思った。でも、一度口に出し始めると、止まらなくなる。


「いずれ…俺も国をおさめる立場になる。でも…はっきり言って不安だよ。他の奴らはさ…戦争をすることに疑問なんてまるで感じてない」

俺は公園で騒ぐ、他の王子たちを見た。その子も隣で視線をそちらに向けた。

「ああやって、人と喧嘩するみたいな感覚で戦争するんだよ。俺には…そんなの耐えられない。

俺は…誰もが平和に安心して暮らせるような国がつくりたいんだ。でも、誰も理解してくれない。父さんはそれを聞くといつも言うよ『お前は旧家の人間として名を轟かせねばならない』って。

そんなの…俺は望んでないのに…」

話しながら、俺は俯いてしまった。
自分で言ってて、現実を突きつけられている気がした。



暖かな何かが乗った。
ソレは優しく俺の頭を撫でる。



その子を見ると、優しく微笑んでいた。
撫でてくれているのはその子の手だった。

「私はいいと思うよ。君の考え」

「…え?」

「自分の思いと父親の言葉との間に壁を感じてるみたいだけどそんなに悩むことじゃない。
君の父親は『名を轟かせろ』っていうんだろ?別に戦時国として、とは言ってないじゃないか。
君が望むその平和な国が作れたら、自然と君の名前は世界に轟くと思うよ」

「笑わないのか…?」

「笑う?なぜ?」

その子は優しく俺に言ってくれた。

「私は、見てみたいと思ったよ。君の理想の国を。誰もが平和に安心して暮らせる国なんて、素敵じゃないか。
なんの考えもなしに戦争する国なんか創るより、ずっといい」

「!」

俺は驚いて目を見開いた。
俺の考えをきちんと理解して、賛同してくれた。
それが何より嬉しかった。

「ただ…これだけは覚えておいて。何かを守りたい、そう思うのはいい事。でも、それには、やっぱり力は必要なんだよ。

力がなくちゃ守れるものも守れない。人を傷つける力はいらなくても、人を守る力は持たなくちゃいけないよ」

「…うん」

その子の言葉はとても重く、そして正しい気がした。

「分かればいい」

そう言うとその子は立ち上がって俺の前に立った。

「君、名前は?」

「え?」

「名前」

「リュウイ。リュウイ=レラ=ウェンチェッター」

「リュウイ、レラ、ウェンチェッター」

覚えこむようにその子は言い

「うん、覚えた。またね、リュウイ」

手を振ってかけていく。

「ま、待って!」

思わず呼び止めるが、その子は振り返るものの足は止めない。

君の名前は、とか、この国の人なの、とか聞きたいことは沢山あった。でも、口から出たのは

「また会える?」

その一言で。
その子は、笑って

「またね」

と繰り返し、走っていってしまった。


数分後、父親達が迎えに来て、俺は国へ帰った。













✻✻✻✻✻

「へぇ、そんな子と会ったんだ」

「いいですね、感動的です」

「その子、今はどこにいるのかな…」

「どうする?戦時国のトップとかになってたら」

「冗談でもやだな」

「意外とミール国に移民としてもう来てたりするんじゃない?」

と、また俺を抜いて盛り上がり始める。
今回はそれにノアとマオも加わっていて、余計賑やかだ。


どうやら…少し勘違いしてるみたいだな…。
とそんな事を思いながら、皆の様子を見ていた。


俺の遡っていた記憶は少し時間を経て、また違う場面を蘇らせた。












それは、俺が18歳のとき。
ウェンチェッター家には、18歳になったら一人、自分の従者をもつ。という代々受け継がれてきた伝統があった。

多くは父親の国の兵の誰かを選んだりするのだが、俺は兵が嫌いだったので、一般への公募という形になった。
様々な試験を受けて、総合成績上位5位までが、俺と面通しをし、俺が気に入った奴を従者にするというものだった。

俺は従者なんて欲しくなかった。
ましてや、その試験というのは知力よりも体力や武力などに重きをおいたもので、勝ち上がるのは脳筋ばかりだろうと予想がつくものだったからだ。

案の定、5位から2位までは脳筋だった。
筋肉しかない大柄の男達。
面通しは座ってやってもいいと言われたが、俺は終わったらすぐに帰りたくて立って行っていた。
と言っても俺は話す気にもなれず、前に立っただけで「嫌だ」と言って突っ返していたんだが…。
それに怒ったのが2位の男だった。
ピキピキと眉を動かして、俺に近づき、その手を上げた。

兵達は、面通しの邪魔にならないようにと離れたところにいて…とても間にあわない場所にいた。

その腕が振り下ろされる瞬間、


男が後ろにぶっとんだ。


その様をポカンと見つめた俺に

「大丈夫?」

と、あの時と同じように声がかけられた。


前にはいつの間にか声の主が立っていた。

10年という歳月で成長はしているが、あの時と変わらない明るい茶色の髪も優しく輝く赤い…ルビーのような瞳も何も変わっていなかった。


「お前…あのときの…」


俺の呟きは小さかったが、彼にはきちんと届いていたようで…。

「覚えていてくれたんだ」

と心地の良い声が言った。


なぜここに?
ここには、あの試験の上位5人しか来れないのに…。
いや…違う。ここに居るならあの試験を彼は受けて…そして勝ち上がったのだ。
5位から3位はもう返した。2位はそこで伸びてる…。つまり…


「君が…1位通過者?」

彼は優しく微笑んで、片膝をついて俺を見た。
必然的に俺は彼を見下ろすことになる。

「覚えていていただき光栄です、リュウイ=レラ=ウェンチェッター王子。

私は、ユウィリエ。ユウィリエ=ウィンベリー。

貴方が望む理想の国を共に創りたく、こうして参りました」

彼、ユウィリエは俺に片手を伸ばす。


「私の手をとっていただけますか?」


俺の前に差し伸べられた手を、俺は握った。



















今考えれば…。
と、俺は騒ぐ皆を見ながら俺は思う。

今考えれば、初めてユウにあった時もあの試験会場でユウにあった時も、ユウは俺に手を差し伸べて…その手をとったことから、全ては始まったんだよな…。


今では、ユウだけでなく俺を支えついてきてくれる仲間がこんなにも居る。



「どうしたの?リュウ」



見られていることに気づいたノアが俺に声をかける。
皆も話を一旦やめて、俺を見る。


「何でもないよ」


と、笑いながら…

俺はこの幸せを噛みしめた。
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