Red Crow

紅姫

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幼き書記長が望むもの②

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Side ルナティア


「で、こうなった原因として考えられるのはその液体なんだよな?」

と、全員が一つのテーブルを囲むように席についたのを見てリュウがマオに言った。
ユウ(仮定)はキースの膝の上に大人しく座っている。さっきまでのあの暴れっぷりは何だったんだ。

「そうとしか思えないんだけど…」

「あの液体、薬って言ってたよね…?大人を小さくしちゃう薬なんか作ってたの?」

「そんなわけ無いだろ」

僕の質問にマオは頭を振った。

「自分が作ってたのは傷薬だよ。この前、城下の街のお医者さんに頼まれたんだ」

「傷薬でこんな事になるか?普通」

「…傷薬は2種類作ってたんだけど、ユーエにかかったとき2つが混ざったんだ。そのせいで、化学反応が起きて、こんな魔薬を作り出しちゃったんだと思う」

「魔薬かぁ」

「なるほど…」

「ま、それしかないか」

と、ルークとキースと共に頷く。

「魔薬?」

ノアが呟き、リュウやゾムも首を傾げた。
説明は、専門家に任せるべきだろうと思い、マオを見る。

「昔、世界に魔法を使える人がいたって話は知ってるよね」

そうマオが前置きすると、三人は頷く。

「今は科学が進歩して、魔法なんてものは無いと言われてる。でも、それだと説明がつかない事件・事象とかがあったから魔法はあったって話だよな?」

「そう、そのとおり。でも、説明がつかないとはいえ医者や科学者がそれを認める訳にはいかない。
そこで、魔法のような効果をもつ薬があったんじゃないかって仮定をして研究がされているんだ。
その過程でできた薬が『魔薬』って呼ばれる。
と、言っても意図せず作り上げられることも多くてね。過程とかそういう事を抜きにして、魔法のような効果をもつ薬を魔薬と呼ぶことが多いんだ」

「へぇ、つまり今回のもその意図せずっていうのに該当するってことか」

「そうなるね。
魔薬は指定薬物になるから…後で申請用の書類作らないとな…。
多分、未だかつて子供化するなんて薬作られてないだろうし」

「未だかつてって…他にも見つかってるのか?」

「うん。今現在で発見されてるのは10種類だったかな」

「他に魔薬が存在するかなんて今はどうでもいいさ。それよりも、魔薬って効果はどれくらい続くんだ?流石にずっとこのままって訳じゃないだろ?」

リュウがチラッとユウ(仮定)を見る。
確かに、ずっとこのままだとかなり困ることになる。僕にもそこまでの知識は無いし、ルークもキースも同様か、視線はマオに集まった。

「とりあえず、対抗薬を作るけど…その…」

マオが言いづらそうに言葉を濁す。

「どうしたの…?」

「言いにくいんだけど…魔薬の効果がいつ切れるかっていうのは…分からない。前例があるならまだしも、今回出来たのは新薬だし…それに…」

「それに?」

「対抗薬を打ったとしても、ユーエが元に戻るかは分からない」

対抗薬を使っても戻らないかも?

「え、どういうこと?」

さすがの僕も頭が混乱してきた。それじゃあ対抗薬の意味がない。

「実はね、昔、自分みたいに魔薬を意図せず作って、それを誤ってある国の国王が飲んでしまうっていう事件があったんだ。
身体に異常は見られなかったんだけど…国王の記憶の中から女王、彼の妻の記憶が全てなくなるという事態が起きた。
対抗薬を作って、彼に飲ませても彼の記憶は戻らなかった。
それから…1ヶ月くらい彼らはそのままの状態で生活をすることになる。あくまでも分からないのは女王の事だけだから問題はなかったんだけど…女王は耐えられなくて、ある日の晩、国王の前で泣きながら謝った。
すると、何をやっても戻らなかった記憶が戻ったんだ。

後で、その原因について調べてみると、その薬を飲んでしまった日、国王と女王は喧嘩していて、国王は心の中で女王が謝ってくることを望んでいた。
その望みが叶ったから、薬の効果が切れたんじゃないかっていう話なんだ。

他にも魔薬関連で起きた事象に置いて、飲んだ人の望みや思いなんてものが、あるきっかけで叶うと元に戻るって事は何度かあったんだ。


もう何が言いたいかわかると思うけど、今回ももしかすると…」

「ユウさんの望みを叶えないと、元には戻ってくれない。ということもあり得るんですね」

「いやいやいやいや、ちょっと待ってくれ」

ルークが焦ったように言う。

「ユウィリエの望みなんて…分からんぞ。聞こうにもこんな小さくなってる訳だし」

「いや、今までの事象の望みの種類も2つあってね。薬を飲む前の望みを叶える場合と飲んだ後の望みを叶える場合とがあるんだ。

だから、今回のは…対象自体が変わってるわけだし、今の状態のユーエの望みを叶えればいいと思う」

「今の状態って言ってもなぁ」

「そうですね…」

視線は自然とユウ(仮定)を向く。
確かに…さっき、ユウは止まるように言っても走り続けたりしてたし…言葉をきちんと理解してくれるかも不安なところだ。

「とりあえず、聞いてみないと…。ユウさん」

とキースが声をかけるがユウ(仮定)は反応しない。
ボーッと天井を眺めている。

「ユウさん?」

キースがポンポンと小さな方を叩くと、ようやくキースを見た。
これはもしかして…。

「自分のこと分かってないとか…ないよね」

それでは八方塞がりどころの問題じゃない。

「流石にそれは…。ユウさん、お名前言えますか?」

ユウさんと呼んでいて名前を尋ねるというのも変な話だが、今は仕方ない。

「おれ?」

と、自分を指差すユウ(仮定)。自分のことを『おれ』と言うとは…ユウっぽくない。

「そうですよ、お名前は?」

「おれは…ゆうぃりえ=うぃんべりー」

と舌っ足らずにいう。
ユウ(仮定)はユウで確定なようだ。
それに質問の意味をきちんと理解できているようだ。

「やっぱり、ユウさんなんですね。おいくつですか?」

「んー?」

と、ユウは小さな手を見て、いち、に、と指をおる。

「みっつ」

と指を3本立てて言った。

「3歳か。どおりで自分が知ってるユーエより小さいと思った」

「マオはユウといくつの時に会ったの?」

「初めて会ったのは6歳だな」

つまり、今のユウはマオにとっても予測不能ってわけか。

「ユウさん、何かお願い事とかありますか?」

「え?」

「叶えられることなら、叶えますよ」

「んー…」

少し悩んで、

「おれぇ」

と話し出す。
これは、もしかすると簡単に終わってくれるかも、と思わず前のめりになる。

「おなかすいた!」

机に倒れた僕は絶対に悪くない。悪くないと言い張る。

「ハハハ…」

リュウは乾いた笑い声を出してるし、ルークに至っては額に手を当てて上を見てる。

「僕、何か作ってくるよ」

とノアが厨房に向かう。

「どうする…?」

「とりあえず、ユウさんの面倒みながらお願い事聞いていくしかないんじゃないですか?」

「そうだな…。皆仕事あるだろうし、交代で見てくか」

「マオはとりあえず、薬の作製してね。ユウの面倒は他の人たちで見るし」

と、相談していく。
そこに、ホットケーキが乗った皿を持ってノアが戻り、予定を組んでいく。

とりあえず、1時間ずつ交代で、ノア、僕、ゾム、キース、ルーク、リュウの順で見ていくことに決定した。
マオはできるだけ早く対抗薬を作るためと、相談が終わると医務室に向かっていった。

「じゃあ、今の時間はよろしくお願いします、ノア君」

とキースがノアにユウを預けるのを見届けて、僕らも仕事に向かう。
少なくとも1時間は時間が使えなくなる。早めに終わらせないとなぁと思うと自然と部屋へ向かう足は早くなった。

















Side ノア


厨房にユウが食べ終わった皿を片付けて、食堂へ戻る。

「はい、コレ」

と、ジュースの入ったコップを渡すと、差してあったストローで飲みだすユウを見る。

高すぎて床に足のつかない椅子に座り、パタパタと足をばたつかせている。
その姿はやはり子供だなぁと感じる。

「なんか、不思議な感覚だなぁ」

とユウの隣に腰掛けて呟くと、チラッとユウが僕を見た。
笑って、何でもないよ、と首を振ると、ユウはまたジュースを飲むことに集中しだした。

本当に不思議な感覚だ。
僕はこの国の幹部の中では一番の年下で、家族と暮らしていた時も姉は居ても弟や妹は居なかった。
近くに自分よりも小さな子が居るなんて、不思議を通り越して違和感すら覚えそうだ。

ズズッ

と音がした。ユウがジュースを飲み終えたようだ。


「それちょうだい」

「ん」


素直を差し出すユウ。

「ちょっと待っててね、すぐ戻るから」

立ち上がって厨房に向い、シンクにコップを置く。
食堂の方からガチャガチャと音がする。次いで、ユウの騒ぐ声。
やっぱり…。

「もう、待っててって言ったのに」

ドアノブと格闘しているユウを抱き上げる。
逃げ出すかもと思って鍵をかけといて良かった。

「ああああ!!」

と叫び、手をバタバタさせるユウ。昔の僕ならこの抵抗でユウを離していたかもしれないけれど、今なら大丈夫。

「もう…。どこか行きたいなら一緒に行こ」

そう言えば、ユウの抵抗はピタッとおさまった。
キースの時と同じように。

ジッと僕を見たかと思えば、器用に僕の腕の中で向きを変えて、僕の首に小さな手をまわす。
これは了承と捉えていいのだろうか。

「どこに行く?」

「どこでもいい」

それは…一番困る答えだなぁ。

「城の中でも歩いてみようか?」

「ん」

鍵を開けて、食堂から出る。
とりあえず…一周するか。

ユウを落とさないようにしっかりと支えながら歩きはじめた。



城のすべてを見せ終わる頃には、一時間が経過していた。

次は…ルナの番か。
僕はユウを連れて、ルナの部屋へと向かった。


扉を叩き中に入る。

「…」

僕は思わず、ぽかんとしてしまった。

「ふーん!よく来たね!」

ルナの歓迎?の言葉を聞きつつ、ユウを下ろし、ルナの近くにあるテーブルの上のものをマジマジと見つめた。

パズルにトランプ、オセロ、知恵の輪…etc…

大量のおもちゃが乗っている。


「何これ」

「何って、おもちゃさ」

「何でこんなに沢山…」

この城の中にこんなにおもちゃがあるとは知らなかった。

「あぁ、知らないもんね。昔、この国ができ初めのときとかは暇だったから、よくこうゆうので遊んでたんだよ」

「はぁ…」

「毎回毎回、ユウが圧勝しやがってさぁ…」

「だろうね」 

その様が容易に想像できる。

「でも、今のユウなら勝てるでしょ!」

「大人気ない!」

「いいの!さあ、ユウ!まずは何して遊ぶ?トランプ?オセロ?」

3歳にルールが分かるものだろうか…。
ユウは一度、首を傾げたかと思えば、クルッと向きを変えて開けっ放しだった部屋の扉から飛び出していった。

「あ…」

「そうかそうか、最初は鬼ごっこ希望か。待てコラーーー!!!」

その後を追いかけていくルナ見て


「ルナ…意外と足速い」


そんな言葉が口からこぼれた。

僕もユウを追うべきだろうか…。いや、ルナは追いかけるのも遊びと捉えているみたいだし任せていいか。
僕も仕事をしなければ、ユウが小さい以上僕ができる仕事はやっておかないと…。


僕はルナの部屋から出て、書記長室へ向かった。
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