Red Crow

紅姫

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幼き書記長が望むもの④

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Side ルーク


武器を片付けて、ユウィリエと共に風呂場に向かう。

「そういえば…ユウィリエの着替え…無いな」

自分のは、風呂場に常備してるからいいし、大人のユウィリエのものならあるだろうが…流石に子供用は無いだろう。
すっかり失念していた。
今の今まで気にもとめなかったからなぁ…。
と、言うのもあの薬は無機物にも効くのか縮んだユウィリエにあわせて小さくなっていた。そのため、服のことなんて考える必要がなかったのだ。

「脱いですぐに洗濯機に突っ込んで、乾燥機にかければ大丈夫か」

とりあえず、そういう事にしておく。


脱衣場で服を脱ぐ。

「ね!とって!」

と、ユウィリエが言った。

「ボタンか」

「ん」

そりゃ、3歳児にボタンは無理だわな…。

ボタンを外してやり、ついでに脱がせる。真っ白な素肌が覗いた。
…何というか、これは駄目だ。

「?」

「後は自分でやれ」

「ん」

バサバサと服を脱いでいくユウィリエ。
俺も自分の服を脱いでいった。



「先入ってて」

と風呂場に続く扉をあけてユウィリエを促す。
風呂を見回しているユウィリエを見守りながら、インカムを操作した。

「なぁ、ユウィリエの服洗濯するから、誰か終わった頃に乾燥機にかけてくれないか」

全員に繋いだから聞こえているはずだ。

『いいよ、僕やっとく』

「頼むな、ノア」

これでよし。
インカムを外して、服の上において、俺も風呂場に入った。




「ユウィリエ、洗ってやるからおいで」

と、椅子を叩けばちょこんと座る。

「お湯かけるからな、目、閉じてろ」

「ん」

返事を聞いてから、シャワーをかける。

タオルに石鹸をつけて泡だて、ユウィリエに渡す。

「頭は洗うから、身体は自分で洗いな」

「ん」

小さな手では余るタオルをどうにか掴みながら、ユウィリエは身体を洗っていく。
シャンプーを手に取り、ユウィリエの頭をこする。
サラサラとした髪は、触り心地がいい上に、泡立ちもいい。

「流すぞ、目、瞑れ」

「ん」

泡を流す。
濡れたユウィリエの髪はいつにも増して艶があるように輝いた。

「よし、風呂入っていいよ」

「ん!」

椅子から下りて、風呂の方へ行くユウィリエ。

俺は自分の身体を洗いながら、ユウィリエの様子を観察する。

広い風呂の中を、ご機嫌に泳いでいる。
風呂で泳ぐのはどうかと思うが、他には誰もいないし、この広さ思わず泳ぎたくなる子供心もわかる気がする。
俺も同じ年くらいなら、ばちゃばちゃと水しぶきを上げ、泳いだだろう。

こうして見ると…本当に子供らしい。
大人のユウィリエには見られない無邪気さがある。
アイツにもこんな時代があったのかぁ、なんて失礼な感想が浮かぶほどだ。

「望み…か」

ポツリと呟く。

普通の3歳児には、多くの望みがあるものでは無いだろうか。
あれが欲しいこれが欲しいと言ったり、絵本の中のヒーローに憧れて冒険したいと思ったり。

ユウィリエにはどんな望みがあるのだろう。

今日、色んなやつがユウィリエと過ごして、色んなことをしたはずだ。
その1つでも、ユウィリエの望みを叶えたものがあっただろうか。


シャワーで泡を流して、思考を一旦やめる。

俺も風呂に入ると、ユウィリエは泳いで俺の近くにやってくる。
水しぶきが顔にかかる。

「ね!だっこ!」

「あ?」

「だっこして!」

「なんで」

「おれ、あし、つかない」

「あ~」

だから沈まないように泳いでたのか。

抱き上げて、支えてやる。
ウー、気持ちよさそうにユウィリエが声を出す。

「なぁ、ユウィリエ」

「ん?」

「…いや、何でもない」

お前の望みは叶ったか、何て聞いたって意味がないだろう。

「♪」

少なくとも、今、ユウィリエが満足そうならそれでいいような気がした。


ちょうどいい温度の湯は何時間でも入ってられるが、時間が時間なので上がる。

脱衣場には、乾いたユウィリエの服があった。後で、ノアにお礼を言っておこう。

「ほら、拭きな」

バスタオルで、ユウィリエを包む。
パタパタと拭きだすユウィリエを見ながら、俺も体を拭き、服を着る。かなりラフなもののため、時間はかからない。最後に、インカムをつける。

「ふいた!」

「つぎは服、はい」

肌着を手渡せば袖を通していく。上着も渡し、ボタンを留めてやれば、風呂に入る前と同じ姿のユウィリエの出来上がりである。

後は…。

「髪乾かさないとな、おいで」

ここにはドライヤーも備わっている。
椅子に座らせ、ドライヤーのスイッチを入れる。

温風をかければ、ふわっと持ち上がる髪。
手櫛をかけながら根元にも温風が行くようにする。
女じゃないのでドライヤーのかけ方など知らないが…こんな感じでいいだろう。

十分に乾いたと思ったところで、ドライヤーのスイッチを切る。
乾いた髪を手で触ると、細い髪が指に絡む。
本当に触り心地がいい。
見ているだけでサラサラなことは分かっていたが、触ってみるとそれだけでなく、スルリとしながらも手に馴染む感じがする。

「…」

コチラを見上げるユウィリエと目があった。

「あ、悪い」

ずっと触り続けていた。それが嫌で見上げたのかと思い謝る。

「ん?」

「嫌だったろ?触られるの」

と言うと首を振る。

「おれ、なでられるの、すき」

俺の手に頭を寄せてユウィリエは言った。

「…そうか」

俺は寄ってきた頭を優しく撫でた。

思いの外、甘えたがりなのかもしれない。

そんなふうに思った。



ピピッ

と音がして

『ルーク?今君のところにユーエ居る?』

マオの声がした。

「あぁ」

『そうなのか、てっきりリュウのところかと思ってた。なら、総統室に来てもらえる?薬出来たんだ』

「分かった、すぐ行く」

通信を切り、ユウィリエを見る。

「ユウィリエ、行こうか」

「ん」

椅子からおりたユウィリエと手をつなぎ、総統室を目指した。

















Side リュウイ


俺の部屋にはユウとルーク以外の皆が集まっていた。
薬ができた事を知らせたら、皆来たのだ。

トントン

「どうぞ」

扉が開き、ユウを連れたルークがやって来た。

「ユーエ、こっち」

とマオがユウィリエをソファーに座らせ、腕を出すように言う。

「注射打つけど、大丈夫?」

「ん」

ユウは頷く。そういうのは、怖くないらしい。

「じゃあ、打つね」

薄桃色の液体の入った注射器の針を腕に刺し、液体が入っていく。
俺らは固唾を呑んでその様子を見守った。

上手く行けば…コレで戻るはずなのだが…。


………。
……。
…。

「戻んないね」

ルナが呟いた。
そう、ユウに変化はない。子供のままだ。

「やっぱり願いを聞かないといかないって条件があるということですね」

「そして、まだ叶ってないって事だね」

視線は、自然とユウに向く。
ユウはキョロキョロと俺らを見回していた。

「とりあえず、皆仕事に戻りな。これからは俺がユウを見とくから」

と声をかけた。

「そうだねぇ、ユウいつ戻るか分からないし、最悪の場合を考えとかないと」

ルナが伸びをしながら言う。

「最悪の場合?」

ノアが誰ともなしに聞く。

「ユウィリエが元に戻らない場合を考えるってことだよ」

ルークが答えた。

「そんな…」

「でも、ありえないことじゃないですね…」

「うん。まだ、そうなるかは分からないけど、今は…それぞれの仕事をやっていこう。それが一番だ」

皆頷き、部屋を出ていこうとする。
俺はユウに近づいた。

「ユウ、今からは俺と一緒にいよう。何がしたい?」

「…」

ユウは俺を見て

「おにいさん、だあれ?」

と聞いた。

「俺はリュウイ。リュウって呼んで」

「りゅう…?えらいひと?」

なんで、そんなこと知ってるんだ?
首を傾げてしまう。

「あ、俺が教えた。リュウがこの国をつくったって」

と、ゾム。なるほど…

「そうだよ。偉い人だよ」

とユウに言う。すると、俺を見上げてユウは口を開いた。

「ねぇ、おれ…」

「ん?なあに?」

「おれ、かえらなきゃ」

「帰る?」

皆が立ち止まってコッチを見た。
ユウはそれに気づかないようで、俺に訴え続ける。

「そろそろ、かえらないと、ししょー、しんぱいする」

「し、師匠?師匠ってフィリクスさんのことですか?」

キースが聞く。

「ん、ししょー」

「ユウさん、こんな小さい時から師匠の所に…」

「キース、今はそんなの関係ないでしょ。それよりも、ユウの帰りたいって発言のほうが重要」

と、キースとルナが話し出す。

「ねぇ」

とユウがまた口を開くと、誰もが黙った。

「おにいさんたち、ししょーの、しりあい、でしょ?
きょう、おれの、あそびあいて、たのまれたんでしょ?」

キョロキョロと皆を見て、ユウは笑う。

「おれ、きょう、たのしかった。

いつもは、ずっとひとりで、いえにいて…ずっと、ひとりで…。

でも、きょうは、ずっと、おれのそばに、だれかがいてくれた。いっしょにあそんだり、おでかけしたり、おふろはいったり…。

おれ、すごくうれしかった。

このくにの、ひとは、しあわせだからわらうっておにいちゃんのいってた。おれ、そのいみ、わかった。
だれかが、そばに、いてくれると、あったかくて…、しぜんと、わらえるの。これが、しあわせでしょ?

おれ、ここで、みんなといれて、しあわせだったよ。

でも、かえらなきゃ。
おれ、だいじょうぶだから。また、ひとりに、なっても、だいじょうぶだから」

そう言ったとき、ユウの目から涙が流れた。

「あれ…なんで…?なんで…なみだ、でるの?
かなしくなんて、ないよ?ほんと、だよ?

おれ、おれ!」

「ユウ」

俺はユウを抱きしめていた。

「ユウ、俺達はユウの師匠に言われて、ユウの相手をしたわけじゃないんだよ。

俺達はユウの仲間だから、ずっと側にいたんだ」

「おれ、の?」

「うん。一人になんかしないよ。みんな、ここに居る。ユウの側に居る。
だから…いいんだよ?無理しなくて」

「あ…ああ…」

ユウの目に涙が溢れ、俺の服をぬらした。

「おれ、おれ!ずっと、ずっと、ひとりで。ずっと、ずっとさみしかった!
だれかに、そばにいてもらいたかった!
こうやって…」

ギュッとユウは俺にしがみつく。

「だきしめられたかった…」

ドッと体重が俺にかけられる。

「ユウ?」

ユウは目を閉じていた。
眠っているようだった。

そして、



シューーー




とユウの身体を白い霧が包んだ。


霧が晴れると、子供のユウは居なくなり、元通りのユウが眠っていた。

「戻った…」

「よかったぁ…」

皆小声で言い合う。

「とりあえず、医務室に。何にもないと思うけど一応検査するよ」

「僕が運びます」

マオの言葉に頷き、キースがユウを抱き上げた。























Side ユウィリエ


目を開けた。
飛び込んでくる光に目を細める。

私は…一体…。

ココは…医務室か?なんでこんな所に?


思い出せ…そう、私は医務室のマオの所を訪ねて…それで…。


カラカラと音がしてカーテンが開けられる。皆の顔が見えた。

「皆…」

「ユウ!よかったぁ」

私に抱きついてくるゾム。…って

「お前、大丈夫だったのか?何かの薬浴びそうになったろ?」

「大丈夫だよ」

「そうか」

なら良かった。咄嗟に庇ったがもしもの事があったら…。

「…なんだ?」

皆が私を見ていた。
なぜそんな目で私を見る?

「いや…何でも…」

「なんだよ、言いたいことがあるなら言えよ」

「ユウらしいなと思ってさ」

「はぁ?」

リュウの言葉に、首を傾げる。


「心配してたのはこっちだったからさ、ユーエ、ほぼ1日寝てるから」

「1日?そんなに寝てたのか?」

確かに…ゾムを庇ったあとからの記憶がない。
でも…。

「どうしました?ユウさん」

「あ、いや…なんか…」

私は、目を閉じる。
うん、やっぱり。

「眠っている間、すごく幸せな夢を見ていた気がするんだ」

この心を満たす感覚は…間違いなく幸せで。

「覚えてないけど…そんな気がするんだ」

そう言いながら、皆を見る。

「どうした?お前ら」

皆、私から視線をそらしたり、顔を覆ったりしている。

『なんでもない/よ/です!』

皆、一斉にそう言った。
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