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番外編 きょうだい
しおりを挟む「妹や弟が欲しかったなぁ…」
そう言ったのはノアだった。
ある日の昼下がり。書記長室で私達はとりとめもない話をしながら仕事をしていたのだ。
部屋には、ノアの他にゾムとルークもいる。
ここ最近、書記長室に私とノア以外の奴がいる事は日常茶飯事になっていた。
別に、うるさくするわけでもないので許可しているが、何故いきなり?という疑問は浮かぶ。
聞いても答えてはくれないのだが…まぁ嫌なわけではない。
今日はゾムとルークが書記長室を訪れ、それぞれ武器の整備をしたりしながら話していた。
話題はコロコロ変わっていた。が、私の記憶が確かなら弟、妹なんて話ではなかったはずだ。
「どうしたんだ?いきなり」
「いや…欲しかったなぁって思ったから」
ジッとこっちを見ているノア。
ゾムやルークは、あ~と言いたげに私を見る。
なんだ?その私以外が通じあってる感じは。
「姉さんがいた事が嫌だった訳じゃないけど、年下のきょうだいが居たら…どんなだったかなぁって…」
「きょうだいねぇ…」
ゾムが持っていた銃をテーブルに置き、布で手を拭く。
「お前、居たのか?きょうだい」
「いや、ひとりっ子だ。そう言うルークは?」
「きょうだいは居なかったが…まぁ、前いた国では王女とほぼ兄妹みたいな関係だったし。妹が居たらこんな感じかと思いはしたな」
「へー」
「だから…どちらかと言えば…」
ルークがチラリと私を見る。
「年上のきょうだいが欲しかったな」
「あ、分かる」
ゾムもそれに同調した。
「頼りになる兄貴が欲しかった」
ゾムまで私を見る。
まぁ…年上のきょうだい、と考えたときにこの城の中では年上な私を思い浮かべるのは自然かもしれないが…。いいのか?兄貴がアサシンで?
「きょうだい、ねぇ」
呟くと、ルークが口を開く。
「ユウィリエには…居ないか」
「居るけど?」
「「「はぁ!?」」」
3人が同時に声を上げた。
「あ、いや…居た、だな。今はもう居ないから」
「…」
「そんな目で見るな、ルーク。別に私が殺したわけじゃない」
「本当か?」
「あぁ」
流石に私だって身内を殺すのは躊躇う。
無論今、私の身内がリュウを傷つけるというなら問答無用で殺すが。
「お兄さんとかか?」
「いや、妹だ。と言っても双子だったから姉とも言えるかもしれないけどな」
「双子の妹…」
3人はジッと私の顔を見た上で、
「そりゃまあ…」
「さぞ可愛い子だったんでしょうね…」
と何を思い浮かべたんだか、そう言い頷きあう。
可愛い子、ねぇ。
「そうだったら…良かったんだけどな…」
「え?」
「私と妹は双子だったけど…似てなくてな」
「そうなの?」
「あぁ」
私は、そこで目を伏せた。
これ以上は話す必要がない。少なくとも…今はまだ。
「兄貴と言えば…リュウには兄貴が居るぞ」
「リュウに?」
「あぁ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。それおかしくないか?」
ルークが慌てたように言う。
「リュウイに兄貴が居るなら、ウェンチェッター家の当主はリュウイの兄貴になるはずだろ?」
「あ!確かに…」
「ルーク、それは違うぞ」
ノアがルークの質問に頷き、ゾムがそれを否定した。
珍しい。
「なんでだ?」
「家の当主ってのは、確かに長男が継ぐイメージがあるけど実は意外とそうでも無いんだ。
現に、俺が前、仕えていたシモン=ロッサーはロッサー家の三男だったし、シモン以外にも長男じゃない奴が当主になってる家は結構ある。
次期当主を決めるのは、その親…つまり現当主だからな。継がせたい奴に継がせることが多いらしい。
まあ…突如現当主が死んじまうこともあるから、そのときは長男が継ぐらしいけど、大概の当主は子供がある程度育ってきたら遺書書いて継がせたい奴を決めとくのは結構有名な話だぜ」
ほう、なかなか詳しいじゃないか。
「ゾムの言うとおりだ。ウェンチェッター家の前当主はリュウに継いでもらうことを望んだんだ」
「へー、可愛がられてたんだね」
「あの溺愛ぶりは凄かったぞ…」
私は昔を思い出して言う。
「…本人には全然伝わってなかったけど」
「ふーん、で?リュウイの兄貴は今どうしてるんだ?どっかで国王してるとか?」
「いや…それは…」
私が言葉を濁すと、3人は首を傾げる。
「それは…今は内緒。それと話しちゃってなんだが…リュウにはあまり兄貴の話はするな」
「え?」
「リュウと兄貴は…まるで水と油だったからな…」
「相容れなかったと…」
「なんとなく分かるな。昔、ウェンチェッターって言えば戦時国の筆頭だったと聞く。その影響を強く受けて育ったであろう兄貴と、それを否定したリュウイじゃ、仲良くはなれなかっただろうな」
「そういう事」
「何か、悲しいね。兄弟なのに…」
「兄弟のあり方なんて、その家それぞれさ」
「なぁ、ユウ」
とずっと黙っていたゾムが口を開く。
「ユウはリュウの兄貴と会ったことあるんだろ?どんな奴だったんだ?」
「あるが…どうしてそんな事聞く?」
「ちょっと、想像できなくてな」
「兄貴の顔をか?そりゃ見たことないんだから当たり前だ。リュウとは似てなかったし」
「いや…そうじゃなくてさ」
首を傾げてみせる。
ゾムは苦笑して話を続けた。
「リュウってさ…そりゃユウが居ないと混乱が酷くなったり、ちょっとワガママだったりしするけど…そんな明確に人を嫌うタイプじゃないだろ?
だから、ユウが嫌ってたって断言するくらい明確だったなんて信じられなくてさ」
思わず目を見開いた。
そして、笑い声が漏れる。
「な、なんで笑うんだよ!」
「そりゃ、ゾムらしくないからじゃないか?」
ルークが冷静に返すが、私は首を振る。
「ゾム、私みたいだ」
「え?」
「私も昔、同じ事をある人に言ったよ」
呼吸を落ち着ける。
「ゾムの言うとおり、リュウはそういう人じゃない。だからこそ、私はリュウを慕うんだ。
リュウの兄貴は…まさに戦時国の人って感じの人だった。実力至上主義とでも言うのかな。
私も好きにはなれなかったよ」
「へー。ユウも嫌うなんて珍しい」
「そうか?」
「ユウィリエもリュウイに負けず劣らずお人好しだからなぁ」
「お人好しは人殺しなんてしないさ」
私は笑ってそれだけ言った。
3人もそれ以上聞こうとはしなかった。
時期が来れば話す、ということを察してくれたのだろう。
自然と話は変わっていく。
その様子を見ながら、一度書類作成に使っていた万年筆の先を拭く。
頭の中では、リュウの兄貴との事が浮かんでは消えていく。
ほんと…今思い出しても…
あの時、殺さなかった事を後悔するのは、アンタだけだよ
綺麗になった万年筆のペン先をインクの瓶に浸しながら、私は目を細めた。
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