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番外編 『家族』
しおりを挟む「ここに来るのも久々ですね」
「キースなんてまだマシな方さ。私なんて…もう片手じゃ足りないくらいの年は帰ってないぞ」
ハハッと笑ってユウさんは言った。
目の前には小さな家。
僕とユウさんを育ててくれた師匠の住む家だ。
今日は、久々にこの家にやってきた。
初まりは3日前。
「なぁキース、3日後一緒に師匠の所に行かないか?」
とユウさんに声をかけられたのだ。
「3日後ですか?」
「あぁ」
「いいですけど…また急ですね」
「理由としては2つ。1つはたまには帰るのもいいなと思ってた事。もう1つは3日後、大概のやつが城からいなくなるから次いでに私らも行こうかなと思ったから」
「居なくなるんですか、皆さん?」
「あぁ、ノアは墓参りに行きたいと休みの届け出を出してきてルークもそれに付き合うらしい。
マオはこの前提出した魔薬の認定のために、外出。マオにはゾムを護衛としてつけようと思ってな」
「それで僕らもいなくなったら…リュウさんとルナさんだけになりますけど…大丈夫なんですか?」
「大丈夫って…何が?」
「いや…警備とかですよ」
ユウさんはポカンとしたあと、何かを思い出したように「あ~」と言った。
「その点は、問題ないよ」
「でも…」
「大丈夫大丈夫、何かあったらルナがどうにかするよ」
「はぁ…」
「それより、行くってことでいいか?いいならリュウに言うよ」
「あ、はい。大丈夫です」
「じゃあ、3日後な」
ということで、こうしてやってきた訳だ。
「師匠、居ますかね」
「居るさ。……ただいま」
ノックもせずに扉をあけて、ユウさんは中に入る。
行儀が悪いような、自分の実家のようなものなのだからいいのか…。
ユウさんに続いて中に入る。
まるで変わらない、質素な部屋がそこにはあった。
片付けが苦手な師匠。相変わらず部屋は汚いが、だからこそ、帰ってきたという感じがする。
「居ないですね…」
ただ、家主の姿は見えない。キョロキョロと周りを見ながら、部屋の中を歩く。
「キース」
「はい?」
「そこにいると危ないぞ」
「え、どういう…」
ことですか?と聞くより前に、ユウさんに手を引かれる。相変わらず、近づいてくるのに気づかなかったなぁなんて思った。が、その思考はすぐに霧散する。
シュッ
と僕の顔の横ギリギリを何かが通り過ぎ
ガンッ!
と音を立てて、僕の後ろにあった壁に突き刺さった。
恐る恐る後ろを振り向く。矢が壁に刺さっていた。
視線を前に戻し、ちょうど目の前の壁を見るが特に変化はない。
一体どこから…?
周りを見たあと、結局分からずユウさんを見る。
ユウさんは首をすくめたあと、指を一本立てた。
上?
視線を上に上げる。
「あ…」
「やっと気づいたな」
音もなく降りてきた師匠は服についた埃を払い
「ちょっと警戒があまいんじゃないか、キース?ユウィリエなんて入ってきた瞬間にワタシを見つけていたぞ」
と笑った。
「相変わらず趣味が悪い」
とユウさんが言った。
「どこが」
「私がキースの手を引かなかったら、間違いなくキースに当たってた」
「まあな」
「私が気づかなかったらどうするつもりで?」
ユウさんが、眉をひそめて言うと師匠は笑った。
「お前が気づかないわけ無いだろ。それに、こんなのお遊びだ。年寄りの戯れさ」
「戯れの域を超えてるし、そもそも、師匠はまだ50代でしょ。年寄りなものか」
ユウさんは呆れたように言った。
師匠はまだ笑っていた。
師匠、フィリクス=オルコット
ユウさんが言うとおり、50代のはずなのだが…
焦げ茶色の艶のある髪、落ち着きつつも野心を感じさせる金色の瞳、適度に筋肉がついていることが分かる身体。端正な顔立ち。
総じて若々しく、30代と言っても通じると思う。
「戯れってのは冗談さ。お前達の実力がどうなったか知りたくてな」
と、目を細める師匠。
その目に見られると、僕はいつも背筋を正してしまうし、緊張する。
僕とは反対に、余裕そうなユウさんは首をすくめた。
「キースはまぁ、ユウィリエの力を借りたとはいえ、以前よりはいい。もう少し警戒はすべきだがな
ユウィリエは相変わらずだな」
「師匠の修行のおかげさ」
「フッ、それは嬉しいねぇ。
ま、立ち話はココらへんで。とりあえず、座りな。お茶でもいれる」
「あ、これお茶菓子。味は保証するよ」
「こりゃどうも」
師匠が台所へ行くのを見ながら、僕とユウさんは席についた。
「とりあえず、これ返すよ」
とユウさんは、師匠が席に着くと白い箱をテーブルに置いた。
「一応、メンテナンスはした」
「ほう」
師匠は箱を開けて中身を出す。
少し変わった形をした黄色い銃が握られていた。
「MOTHER戦で使わせてもらった。助かったよ」
「そりゃ良かった。それでこそ貸したかいがある」
大事そうに銃を見る師匠。
カラー武器『黄』の一つ。
師匠の愛銃だ。
「いつの間に借りたんですか?」
「それは内緒。ね、師匠」
「あぁ」
二人はクツクツと笑う。
そんな様はよく似ている。
そしてよく知っている。内緒と言うということは、二人は絶対口を割らないことを。
ならば、話題を変えればいい。
「お元気そうで、何よりです師匠」
「まあな。今では何もすることがなくて、すっかり隠居生活だがね」
「何言ってんのさ、自分で望んでそうしてるくせに。まだ、師匠には力だって何だって残ってるでしょ」
「後は若いのに任せたいのさ。RedCrow程世間を騒がせる自信もないしな」
「貴方がまた仕事を始めたとなったら、世界中が大騒ぎになるだろうよ、『金獅子』さん?」
『金獅子』それは、師匠のアサシン名だ。
師匠が現役の時には『世界最強』と言われていたらしい。
と、言っても今はアサシンの活動は辞めているが。
「まぁ、アサシンに戻れとは言わないけど、そんなに暇なら傭兵とかまたやればいいじゃん」
「もう隠居してたって暮らせるだけ稼いでるからいいのさ」
僕が師匠の元へ来たときには、すでに隠居していたが、ユウさんがいた時は傭兵として働いていたらしい。
まぁ、ユウさんは3歳のときには既に師匠の所へいたみたいだし、その時師匠は30代。仕事をしてるのが普通なのだ。
…そうだ。僕は師匠にその事で聞きたいことがあったのだ。
…でも、ユウさんが居ると聞きづらい…。
困ったなぁと思っていると視線を感じて前を見る。師匠と目が合った。
「ユウィリエ」
「ん?」
「紅茶、おかわり入れてきてくれないか。お前のほうがワタシより上手いだろ」
「…まぁ構わないけど」
と、ユウさんは立ち上がって僕らのカップを持って台所へ歩いていく。
「お湯もないから沸かせよ」
と師匠はユウさんの背中にいい、僕を見た。
「これで暫くは戻ってこないぞ、なんだ?話は?」
笑う師匠に、この人には敵わないな…と改めて思った。
「実は…」
僕はユウさんが小さくなった時の事情を手短に説明した。
「なるほど…そんな事がな」
「ユウさんは本当に3歳のときにはココに?」
「あぁ」
「どうして?」
「…。ワタシが連れてきたからさ」
師匠は懐かしむように言った。
「あまり深くは言えん。ユウィリエの過去はそうおいそれと話せるものじゃないからな」
「それはわかってるつもりです。深く聞くつもりはありません。ユウさんなら、言うべき時が来たら教えてくれるでしょうし」
「なら、何が聞きたかったんだ?」
師匠は首を傾げる。
そんな姿初めて見た気がする。
「ユウさんは師匠から見てどんな子でした?」
「…なぜ、そんなこと聞く?」
「さっきも言いましたが、ユウさんは子供になったとき『さみしかった』と言っていました」
「あぁ、確かに聞いたが?」
「でも、『師匠の所へ帰りたくない』とは言いませんでした」
「…」
「気になってました。『さみしかった』のに『帰りたくない』わけじゃない。それは何故かなって。だから…師匠に聞いてみたかったんです。ユウさんはどんな子だったのか。どんな様子だったのか」
「…」
師匠は懐かしむように遠くを見ていた。
台所の方からピーー!と音がする。お湯が沸いたらしい。
「『行ってらっしゃい』『おかえり』と言ってくれる子だった」
「え?」
師匠は立ち上がり、近くの本棚から古い本を取り出してテーブルに置いた。
子供向けの本のようだ。
「昔、ユウィリエに読み聞かせてやった本だ。家族の話が書かれてた」
「師匠が…読み聞かせ…」
全く想像つかない…。
「読んでやった後からユウィリエはワタシが出かける時には『行ってらっしゃい』、帰ってくるとどんなに遅くても起きてきて『おかえり』って言ってくれてた。笑って、嬉しそうに…」
師匠は微笑む。
とても優しい、暖かな笑みだった。
「血の繋がりはないし、あまり一緒には居れなかったが…少なくともワタシは、ユウィリエを家族だと思っていたよ」
「それは、私もだけど?」
「!?」
いつの間にやら師匠の後ろに立っていたユウさんが言った。
「なんの話ししてたんだ?最後しか聞けなかったけど、何で師匠そんな小っ恥ずかしいこと言ってるんだ?」
カップを置きながら、聞かれる。
なんと答えればいいのか…。
「昔の話をしてたのさ」
師匠はそれだけ言い、カップに口をつけた。
「…そう」
ユウさんもそれ以上聞かなかった。
でも、僕は確かに見た。
二人がほぼ同時に小さく微笑むのを。
なるほどなぁ…。と僕は二人を見ていた。
ユウさんが『帰りたくない』と言わなかったのは…ユウさんも師匠を家族だと思い、ココが帰る場所だと思っていたからだ。
「いい家族ですね…」
二人に聞こえないように、僕は呟いた。
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