Red Crow

紅姫

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監獄の陰謀①

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その客人が来たのは、私がノアと共に城下の街の視察に行っていた時だった。
そのため…。

「…」

「…」

城の玄関の扉をあけて、私とノアはポカンと中を見ていた。


「だから!駄目だって言ってるだろ!!」

「落ち着いて、リュウさん!」

「警察に協力するのは国の義務だ!従ってもらう!」

「嫌だ!!」

「ウィルフレドさん、そんな言い方じゃ従う気になりませんよ」

「なんだ、イヴァン!?お前まで俺にケチつけるのか!」

「ケチつけるとかそういう事じゃなくてですね…」

「何回同じこと言われたって駄目なもんは駄目だ!俺は認めない!!」

「リュウさん、一度落ち着いて話を聞きましょう」


リュウが珍しく声を荒げていて、それをキースがおさめようと頑張っている。他の幹部連中も居て何度かこの国を訪れている国際警察の2人組を監視するように見つめている。

「何やってんだ?」

そう声をかければ、視線は私に集まる。

「ユウさん!!助けてください!僕じゃ手に終えません!」

キースが今にも泣きそうな顔で私に助けを求めるように抱きついてくる。
キースを受け止めつつ、私は再度皆に視線を向けた。

リュウは今にも噛みつかんばかりに国際警察の人たちを見ているし、他も今だに視線は国際警察に向いている。国際警察の二人はと言えば、どこが居心地悪そうに視線を彷徨わせている。

「え、何事?」

と、呟いたノアの発言はまさに私の心の代弁だった。








「取り乱してしまって申し訳ない」

所変わって書記長室。
とりあえず、場所を変えて話をすることにしてホールから移動したのだ。
リュウは今だに興奮がおさまらないのでルークに頼んで他の部屋に居てもらっている。
本当はキースに頼みたかったが…今だに私から離れようとしないので仕方ない。
私とキースが国際警察の人たちに対面するように(と言ってもキースは私胸元に顔を押し付けているので対面はしていないが)座り、ほか連中は周りに立っている。
ノア以外は、険しい表情で警察を見ていた。

「いえ、ウチの総統の方こそ迷惑かけたようで…。それで?」

「あ、まずはコレを」

と名刺がテーブルに乗せられる。そういえば、この二人から名刺なんて貰ったことはなかった。

ウィルフレド=パクストン
イヴァンジェリン=ブレナン

数度会ってるのに、名前を今知るとは変な話だ。

「どうもご丁寧に」

「それで…本題に入らせてもらいます」

言いにくそうにイヴァンジェリンが言葉を濁し、口を開けては閉める。

「ユウィリエ=ウィンベリー」

見兼ねたのかウィルフレドが口を開いた。

「はい、何でしょう」

「お前を逮捕する!」

「はい?」

そういうことしか私には出来なかった。




「やっぱり辞めましょう、ウィルフレドさん。こんなのおかしいです」


ポカンとウィルフレドを見ていた私を他所に、イヴァンジェリンがヤメヤメと手を動かして言う。

「イヴァン…」

「ウィルフレドさんだって分かってるでしょ」

「そりゃ…そうだが…」

「あのー」

深刻そうに話す二人の間に口を挟む。

「申し訳ありませんが、説明願えますか?」

「そうですよね。ユウィリエさんには知る権利がありますよ」

「だが、あの話は…」

「いいじゃないですか、ユウィリエさんは信用できます」

「うーん…」

ウィルフレドは悩み、数分後

「分かった。話そう」

と言った。






「事の始まりは、国際警察の最高指揮官が変わったことなんです」

「最高指揮官が…変わった?」

私は首を傾げるふりをして、ルナに視線をやる。

『知ってたか?』

『知らない』

目で聞けばそう返された。

「知らないのも無理はありません。私達も急に伝えられたことですし」

「それで?」

「新最高指揮官、サンバドール=オーウェルは、今までの国際警察はあますぎたと言って目標をたてたんです。その1つに賞金首リスト登録者の逮捕量増加があります」

「はぁ…」

「サンバドールは一気に全員は無理だろうからと、とりあえず20人の賞金首をピックアップしました。それがこれです」

紙が渡された。

そこには名前や異名が書かれていた。
『赤烏』『プロスペロ=クック』『レタ=ハウ』『青蜂』『利戦士』『ルース=キーリー』『モーリーン=エイベル』『誘い鼬』『暴れ鼠』『アスドバル=オードニー』『エンピディオ=ギボン』『荒毒』『カリオペ=サール』『鉄蠍』『プリモ=エイマーズ』『炎樹』『黄蝶』『ルシール=ミクソン』『カシルダ=パース』『真帝』

「…」

見知った名前がチラホラある。

「赤烏は正確にはリストに名は載ってませんが、有名すぎるほど有名なアサシンなので名前を入れたそうです。他は完全にランダムて選ばれました」

「それで?私がこのリストに載ってるアサシンだから捕まえに?」

疑問形で聞くが…まぁ、リストにはバッチリ名前が載ってるので否定もできないが、最大限とぼけようとは思う。

「ち、違いますよ!ユウィリエさんを疑ってなんていません!これもサンバドールが考えた作戦なんです」

「作戦?」

「はい、いまリストに上がった名前の人は顔はわれてませんが特徴が分かっている人達です。なので…その…簡単に言いますと、その特徴に合致する人を世界中から集めれば一人は確実に本人だと…」

「は?」

何だその無謀というか馬鹿らしい作戦は。
幼児だってもう少しまともな作戦考えられそうだ。

「それで…ユウィリエさんは、その…赤烏の特徴と酷似しているので対象になりまして…連れてこいと」

「…なるほど」

どうやら、前言は撤回しなくてはならないようだ。もはや見事とすら言える。ちゃんと本人にたどり着きやがった。

「でも、ユウィリエさんが赤烏なわけ無いですし、居なかったことにして帰ります。無実とわかっている人を捕まえる気にはなれません」

うーん…ただ、迎えに寄越したやつが無能だったな。問答無用で捕まえに来るやつだったら…その時は返り討ちにしてたな。間違いない。

「…いいですよ、別に」

「え?」

「行こうじゃないですか、国際警察に」

「ちょっと!ユウさん!何言い出すんですか!!」

キースがバッと顔を上げて言う。

「まぁ聞け。このまま私を連れ帰らないとお二人にも迷惑がかかるし…それに、一度くらい監獄に入ってみるのも悪くない」

私はキースの腕を体から外して、立ち上がる。

「私は行きますよ。ただ、出来れば手錠は勘弁ください」

「も、もちろんです。でも…本当にいいんですか」

「総統さん、また暴れるのでは?」

「でしょうね。なので少し時間をください。説明してきますから」

部屋を出て、総統室に向かう。
途中、ピピッとインカムから音がした。

『…』

相手は何も話さなかった。が、誰かは分かったので一方的に話す。

「すまんがまた私の留守中アイツを頼む。あまり長くなるとは思えないし…せいぜい5日くらいだと思う」

『3日が限界だ』

「分かった。3日でケリをつけてくるよ」

『…』

無言を了承と受取、通信を切った。
さて…リュウになんと説明しようか…。







どうにかリュウを説得し、私は国際警察の二人と共に車に乗り込んだ。
ココから警察まではかなり距離がある。ただ車に揺られるのもいいが…期限が設けられた以上情報収集しておくべきだろう。

「ウィルフレドさん、少し伺っても?」

「何です?」

「国際警察の最高指揮官が変わった経緯について知りたいんです。前指揮官ヒューバート=マクラウド氏が失態を犯すとは私には思えません」

前最高指揮官、ヒューバート=マクラウドの事はよく記憶している。というのも、一度ミール国を訪れたことがあるからだ。
彼の雰囲気を私は今でも思い出すことができる。
賢く気高き者がもつ雰囲気を彼は持っていた。カリスマ性とでも言うのだろうか。それなりの年齢だからこそ感じられる落ち着きも相まって、流石は最高指揮官だと思ったものだ。
話してみても、彼が賢いことはすぐに分かった。しかも、ただ賢いだけではなく、自分の無知な部分をきちんと受け入れられる人だった。
賢き人は大概自分の知らないことを否定しようとするが、彼にはそれがなく、私は感心してしまった。
この人が最高指揮官なら、国際警察も捨てたもんじゃないな、と思ったものだ。

そんな彼が最高指揮官を辞したことがどうしても理解できなかった。


「…」

ウィルフレドは口を開けては閉める。何か言いたいが、言っていいか分からないという感じだ。

「いいじゃないですか話しちゃえば」

ウィルフレドの隣に座っていたイヴァンジェリンが口を挟んだ。

「ウィルフレドさんが話さないなら私が話します。ユウィリエさんの言ってることは最もなんですし」

その言葉には、前最高指揮官への敬意と現最高指揮官への軽蔑が感じられた。
ウィルフレドも内心ではイヴァンジェリンと同じ気持ちなのか、心が揺れ動いているのを感じる。

「分かりました、お話します」

決心がついたのか、ウィルフレドは膝の上の手をギュッと握って口を開いた。

「前最高指揮官ヒューバート氏は失態を犯したわけではありません。
最高指揮官が変わったのは、圧力のせいです」

「圧力?」

「ウドーという国をご存知ですか?」

ウドー…。

「確か…刑期を終えた犯罪者を積極的に受け入れている国ですよね?」

噂は聞いたことがある。
犯罪者を受け入れていながら、治安がいい国。
戦争でも元犯罪者が多いせいか、かなりの実力があるとかないとか…。

「ウドーをおさめているのが、サンバドールの父親です。こう言ってしまっては何ですが…国際警察はウドーにかなりの恩があるんです。放置していては厄介な元犯罪者達を面倒みてくれるわけですから」

それは納得できる。
犯罪者と言っても終身刑や死刑になる奴などひと握りだ。殆どはまた世界で生活していく。でも、再犯などの危険もある。
そんな人物をまとめてくれるなら、警察だってその国を見張ればいいわけで…仕事が断然楽になる。
そんな国からコイツを国際警察に入れたい、と言われれば断れないだろう。

「事情はなんとなく理解しましたが…何故最高指揮官にまで?」

「それが…」

「バートランドのせいですよ」

「おい!」

とイヴァンジェリンの出した名前に、ウィルフレドが過剰反応した。

バートランド…。

「バートランド=サッチャーのことですか?国際警察内でNo.2の」

「そうです!あの男が裏で手を回したんです!あの男、ヒューバートさんの事嫌ってましたし、何か企んでるんですよ!」

「企む?」

「はい!」

「具体的に何やってるのか分かってるんですか?」

「それは分かりませんけど…」

いきなり勢いがなくなるイヴァンジェリン。
しかし…気になる話ではある。

「サンバドールという男はどういう奴なんですか?」

「…」

「…」

二人は顔を見合わせた。
ウィルフレドが肩をすくめれば、イヴァンジェリンが口を開く。

「いけ好かない男ですよ。そりゃ顔は整ってる方だと思いますけど…それを鼻にかけてる感じがしますし、常にニタニタ笑ってて気色悪いったらありません」

かなり偏見はあるだろうが、信じるには値する情報な気がした。

「俺も好かないですね…。こう言ってしまっては何ですが…俺は今まで何人もの犯罪者を見てきて、人を見る目はあるつもりです。あのサンバドールとか言う男は犯罪者たちと同じ気配がする」

うーん、目の前に極悪非道のアサシン赤烏がいるのに、『人を見る目はあるつもりです』と言われても、説得力に欠けるが…。まぁ…一応記憶にはとどめておこう。


なんとなく、もう話すのは躊躇われ、私は口をつぐみ、二人も声をかけなかった為、無言の中車は国際警察に向かっていった。
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