Red Crow

紅姫

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監獄の陰謀②

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数時間後、私達は国際警察に着いた。

「私が案内します。どうぞ」

「一応、犯罪者という体で来たんですから、ご丁寧に扱う必要はありませんよ」

車の扉を開けてくれた上に、何かと気を遣ってくれるイヴァンジェリンに言えば思い切り首を振られる。

「そんな訳にはいきません。ユウィリエさんが犯罪者だなんて思ってませんし、わざわざ私達のためにご足労いただいたようなものですから」

「…そうですか?」

…私、犯罪者なんだよなぁ
そう思いながらイヴァンジェリンのあとに続く。



「ココが、留置所です」

「コレが…噂の…」

「えぇ」

見えてきた大きな建物を見上げる。


国際警察の留置所はかなり有名だ。
地上20階、地下2階からなるその建物。地上部分は所々窓と思わしき凹みがあるがそれ以外はシミ一つ無い真っ白な壁で覆われている。
『白磁の監獄』
それが、この留置所の通り名だ。

犯罪者なら絶対に来たくない、と言う建物だ。


「どうぞ、お入りください」

黒塗りの重々しい扉が開かれ中に入る。
中は外の白壁とは対象的にほぼ黒や灰色て統一されており、窓があるのに光が入らない。そのせいか、とても重々しい雰囲気がある。

「この部屋で説明をします」

1階部分、端の部屋に案内される。
黒革のソファに腰掛けると、テーブルに監獄の見取り図と思わしき紙が乗せられる。

「改めまして、今回はご足労いただきありがとう御座います」

「いえ…その…いいんですか?」

私が歯切れ悪く言ったためか、イヴァンジェリンは首を傾げる。

「ここに来るまで、持ち物検査とかそういうのやりませんでしたよね?いいんですか?」

「あぁ…本当はやるよう言われているんですけど、ユウィリエさんは大丈夫でしょ」

どこからそんな自信が来るのか…。
ちなみに…私は一応武装している。ナイフ数本が服の中にある訳で…。
信頼されててラッキーと思うべきか、もっと危機感を持て警察と思うべきか。

「説明しますね。今回、ユウィリエさんに入ってもらうのは地上部分の監獄になります。本当は地下の個室に案内したいのですが…個室には入れたい人がいるみたいなので申し訳ありません。個室以外の部屋は各階20部屋ずつ6人部屋になってます。」

知ってる。と思わず言いそうになった。
一応アサシンとして白磁の監獄の事は調べている。

「それでこれが、今どこにどれ位の人数が入れられてるのか表したものなのですが…」

とプリントを指差す。
最上階は最高指揮官達がいる部屋のはずだ。
プリントには細かく19部屋の区切りと階層が書かれており、部屋の中と思われる場所にシールが貼られている。
少し低めのテーブルを覗き込むようにしてプリントを見る。

……。

「どこに入りたいか希望を言っても?」

「もちろんです。それも指示されてますから。今はまだ犯罪者と決めつけられないから意向を聞けと」

後半の言葉をイライラしたように吐き捨てるイヴァンジェリン。

「なら、私ココにします」

地上7階、20番の部屋を指差した。

「え?すでに5人入ってますよ?しばらく、収容者は来ませんし…誰もいない部屋のほうが良くないですか?」

「いいです、ココで」

「…そうですか?ならそう伝えてきます」

イヴァンジェリンが部屋を出ていくのを見届けて、私はそれを握りつぶした。
クシャ…と小さい音がした。









ガチャンッ

「どうぞ」

鉄格子の一部が開き、そこから中に入った。

「ユウィリエさん、本当にごめんなさい。早く出られるように私も全力を尽してあのバカを説得します」

意気込んで去っていくイヴァンジェリンの足音が消える。

「遅いぞ」

「時間は決まってなかったろ?」

聞こえてきた言葉に返しながら、5人に近寄った。

「よぉ、お前ら。Bee以外は久しぶり」

「本当に久しぶりだねぇ、烏」

笑いながらそう返してきたのは『鼠』ことコンラド。
周りには『蜂』フレデリック、『蝶』ジェセニア、『蠍』ルカ、『鼬』マリクルスが座っていた。
ジョセニアとルカのあいだに座りながら尋ねる。

「女も同じ部屋でいいのか?」

「無理して頼みました。ワタクシ達だけ仲間はずれは嫌ですもの」

「そゆこと」

ネーと顔を見合わせるジェセニアとマリクルス。

「烏」

「ん?何だ、蠍」

隣でルカが言う。

「良くココがわかったな」

「あ~、このメモのおかげさ」

とポケットにつっこんでいたクシャクシャの紙を出す。
テーブルをのぞき込んだ時、手が触れたテーブルの縁に貼られていたメモだ。

「流石は烏。気づいたか」

「ちょっとぉ?何言ってるのさ~。あの烏だよ?気づかないほうがおかしいでしょ~?蜂だってそれが分かっててメモを貼ったわけだし」

ルカの言葉に反論するコンラド。
フレデリックも頷いている。
多分私以外は、ほぼ同タイミングでやって来て、示し合わせてここに来たのだろう。

「そろそろいいか?全員揃ったことだし、始めよう。774の臨時集会をな」

フレデリックの言葉に皆頷いた。

「今回は国の情報とかは置いておこう。この状態について話そうじゃないか」

「そうだねぇ。なんたってオレっち達がこんな所に入らなきゃないんだか」

「アサシンなんだから当たり前じゃない、鼠」

コンラドの言葉にマリクルスが言う。
まぁ…そうだわな。

「でもさぁ何もオレっち達を選ぶ必要なくない~?烏以外は最近まるで暗殺してないわけだしさぁ」

「私だってしてねぇよ」

思わず反論する。フレデリック達の戦争に参加してたから本当にしてない。…少なくとも1ヶ月はしてない。

「鼠の言うとおりですよね。烏はともかく、ワタクシ達なんかより『Shadow』の元アサシンを捕まえたほうが国際警察的にもプラスのはずなのに名前すら出ていませんし」

「蝶に同意だ」

ルカが言う。

「Bee、お前の意見は?」

「そうだな…。Shadowが対象外になった理由は何となく察しがつく」

「何だ?」

「顔がわからないから捕まえられないんだろ。俺達は、多少顔立ちの情報があるからな」

「なるほど、確かにそうですね」

「それで?烏。お前の知ってることを話せ。何か情報持ってるんだろ?」

「流石はBee。察しがいい」

私は先程車の中で聞いたことを皆に話した。





「ふーん、そんな事がねぇ」

「本当に企みなんてあるんでしょうか?」

コンラドとジェセニアが言い、他は黙っている。

「烏の意見は?」

ルカが呟き私を見る。

「そうだな…。企み云々は置いておいて、今回のこの事態は2つの捉え方ができると私は思っている」

「2つの捉え方?」

「あぁ、1つはそのまま単純に犯罪者を捕まえたいがための行動。もう1つはブラフ。私は後者のほうが可能性が高いと思っているよ」

「ブラフ…全くわからないのですが?」

ジェセニアが首を傾げる。他もわかってない様子だ。

「裏に何かあるってことさ」

「何故そう思う?」

「…まぁお前たちだからこそ分からないんだろうけどな」

と前置きしてから口を開く。

「こんなこと言ってはなんだが…私は自分の容姿がかなり変わっていると思ってる」

「なあに、急に」

マリクルスの言葉を無視して続ける。

「髪の色だって普通の茶髪と違うし、目の色だってこんなキッパリした赤色のやつと出会ったことがないからな」

「それで?」

「世界には3人自分と同じ顔のやつがいると言われている。だがそれはあくまでも顔が分かっているから言えることなんだ。
もしも、情報が全て揃っていない状態なら、対象者は圧倒的に増えていく」

「あのさぁ、そろそろ結論言わない~?」

「…」

私は皆を一瞥してから、口を開く。

「簡単に言えば…お前たちの情報は平凡だってことだ」

「まって…凄く話が飛んだ気がする。ちゃんと説明して」

はぁ…とため息をつく。

「例えば…Beeを例に取ろうか。Beeの容姿で一般に知られているのは、茶に近い金髪と同じ色の瞳だろ?だが、そんな奴世界にいくら居ると思う?
金髪たって、はっきりとした金髪の奴のほうが稀で、大概はBeeみたいな色だし、髪の色と目の色が同じなんてよくある事だ。
Beeの特徴と同じ人を世界から集めたら、何万人になることか。

その事がお前たちにも言える。そんな人数一気に集められるわけないじゃないか。

だから…思ったんだ。私達が選ばれたのはあくまでもブラフ。誰かの容姿と酷似したやつをこの場に連れてくるための理由づけなんじゃないかって」

「なるほど…可能性はあるな」

「地下の牢獄には誰かを入れる予定があると言っていた。怪しいのはそこだな」

「じゃあ、さっさと見てこよう」

と、言ったのはマリクルスだった。
彼女の性格からしてかなり意外だ。

「珍しく乗り気じゃないか、鼬。行ってこいよ」

「あ?何言ってんのさ、アンタも行くんだよ烏」

だと思った。

「あたし、地下1階に行くから、2階はよろしく」

しかも何気に遠い方を任された。
まぁ…しゃあないか。
初めての天井裏を平気で移動できるのなんて、私とマリクルスくらいだし。

「分かった。じゃあ、行くか。Bee、可能性は低いが誰か来たら適当に誤魔化せよ」

「わかってるさ」

返事を聞くと同時に、私とマリクルスは飛んだ。





























❈❈❈❈❈

ーー白磁の監獄最上階

彼は優雅にワイングラスを揺らしていた。

その姿がとても様になっているのは、ひとえに彼がとても整った顔立ちをしているからだろう。
男にしては長めの髪は見ただけでサラサラであることがわかる。切れ長な瞳。薄い唇。
一般的に『かっこいい』と評される顔である。だが、どこか嫌悪したくなるような雰囲気をたたえている。

トントンッ

扉のノック音。

「失礼します」

低い声がし、男が入ってきた。
大柄の男だ。彼とは対象的に短く刈り上げられた髪。日に焼けた肌。服の上からでもわかる筋肉。太い眉と鋭い瞳。
彼に睨まれようものなら、やってもいない罪を認めてしまう奴すらいそうだ。

「サンバドール様。先程、奴の収容に成功しました」

男は彼、サンバドールに言った。

「そうか、よくやったバートランド」

「お褒め頂光栄です。他ターゲットの収容も着々と進んでいます。全員とらえるのも時間の問題かと」

サンバドールは口元に笑みを浮かべた。

「もうすぐか、我らの野望が叶うのは…」

「えぇ」

バートランドと呼ばれた男も、クッと口角を上げた。
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