偽物令嬢と獣の王子様

七瀬りーか

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おまけ:初夜*

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 侍女たちが気を付けていたことのひとつに、決してエリック王子を式当日まで花嫁の部屋に入れてはならないというものがあった。

 彼女たちは、リリアとして城に入っていたノラが初日に肩にかけていた黒い上着の持ち主を早々にエリックだと察していた。
 優秀な彼女たちは、夜な夜なやって来る王子に気付きつつ、悲鳴を上げて追い返す気配のないグレイフィール家の令嬢を「なんて先進的な」と生暖かい目で見守り、そそくさと二人の空間を作るべく退散していたのだ。

 しかし。
 結婚となれば話は別。
 万が一早々に子宝に恵まれたとしても、結婚より時期が前だと知れればその存在に傷が付く。
 決して王子を入れてはならないと、彼女たちの鉄壁に抜かりはなかった。


◇◇◇◇◇◇◇


 つまり、半年以上手を握る以上の触れ合いを許されていなかったノラにとって、その夜の緊張感は尋常ならざるものだった。

 結婚が決まった後、グレイフィールのお屋敷で、使用人のお姉さま方からさんざんいらぬ知恵を仕込まれた。
 痛い、と皆口を揃えて言っていた。
 どうしよう、できるだろうか。

 蒼白になったノラは、初夜のみ花嫁が身に付ける真っ白なナイトドレスを纏っている。
 なんとも心許ない薄い生地で、脱がされるのを前提としているような前身ごろがリボン一つで止まっているそれを、着ていると表現していいのかさえノラには疑問だった。

 だが、今更逃げられない。今日、彼と添い遂げると誓ったのだから。
 思い切りよく控えの間から王子の寝室に入ったノラは、ベッドの上に腰かけていた彼の視線を受けるなり真っ赤に頬を染めた。

「あ、明かりを消すか?」
「はい……」

 消え入りそうな声で返事をしたノラに、エリックはランプの灯を消し、手を差し出しす。部屋の中は、漏れ入る月明りがわずかに差すだけで暗い。それでも、その手はしっかりとノラの目に映っていた。

「怖いか?」

 怖い、というと少し違うかもしれない。
 大きな手を取り、導かれるままにベッドに腰掛けると、ノラはふるふると首を振った。
 これまで“恩人さん”と触れ合ったなかで、痛い思いはさせられたためしがない。
 想像が追いつかない行為に対する不安はある。
 手を握ったまま、エリックが少し笑った。

「怖くなったら、いつでもやめる」
「……だ、大丈夫です。私、できます」
「無理も我慢しなくていい。お前が閨事が嫌いになったら困るのは俺だ」
「ねやごと? って何です?」
「それは……今はわからなくていい」

 言葉を濁した彼がぎゅっとノラを抱き締める。いつもより薄い生地の衣類を着ているのは彼も同じのようで、そのしっかりとした胸板の感触に、ノラの鼓動は速度を上げた。
 抱き合ったまま、ごろんとベッドに倒れ込むと、額に唇が押し付けられた。

「ノラ」
「……はい」
「一生大切にすると誓う」
「はい」

 ノラが嬉しさに小さく微笑むと、大きな手が頬を包んだ。
 そっと目を閉じる。大丈夫、何をされても、きっと平気。

 唇と唇が触れ合う感触。もう何度もそれは繰り返してきたはずなのに、今日はいつにも増してどきどきする。横になっていてよかった、どんどん力が抜けていく。
 膝が震えて、体が少しずつ熱を帯びていくのがわかる。
 啄むように角度を変えて唇を重ねるうちに、軽く下唇を食まれるとノラはいつも甘い吐息を漏らしてしまう。その隙をついて舌が侵入し、あっさりとノラの下を絡めとる。
 それだって初めてのことではないのに、びりびりと痺れるように体が芯から震えた。

 どんどん何も考えられなくなっていく。
 長い時間をかけて、彼の舌がゆっくりと、くまなくノラの口内を侵し尽くす。緊張がほぐれていき、代わりにもっとという欲求が沸き上がってきた。
 控えめにノラが舌を絡ませて応えると、大きな手が腰を引き寄せた。

「……んっ……」

 自分を覆った圧倒的な体躯と逸る思いに体が震えた。
 大きな手がノラの体を形作るように、ゆっくりと全身を辿る。
 あえて核心を避けるような手付きに、足先まで力が入り、無意識に膝をこすり合わせた。

 はやく、もっと。
 そんなふうに体を揺らしたノラの胸のふくらみを彼の手が包む。

「……ん、っ……あ……」

 既に硬くなった先端を掌で転がされ、待ちかねていたかのようにじわりと蜜が溢れた。
 双丘を揉みしだく手がそのままするりとリボンを解き、優しくナイトドレスを剥ぎ取られると、再び恥ずかしさや心細さがこみあげて来る。
 それを押しとどめるように情熱的なキスが落とされ、同時に肌の上を熱い手が彷徨った。

「ん、っ……はぁ……」

 キスの合間に抑えきれない声を上げるノラを解放し、エリックの唇が首筋を伝って胸元に辿り着いた。息がかかるだけで体がぴくりと反応する。頂にぬるりと舌が這わされて思わず体が跳ねた。

「あっ、あ……だめっ……!」
「気持ちいいじゃなくて、“だめ”か」

 わからない。気持ちいいって、どんな感覚だっただろう。
 そんな難しいことは今考えられそうもない。
 舌が動くたびに下腹部が疼き、体が熱くなっていく。

 翻弄されるままに喘ぐノラの足の間に滑り込ませた彼の手が静かにそこに伸びる。
 滑らかな生地の下履きの上から、ごつごつとした指が優しく割れ目を行き来する。もどかしさに涙を浮かべたノラがふるふると首を振ると、彼はするりと下履きをも取り去ってしまった。
 ゆっくり、指が秘裂を広げた。そっと花芽を擦られただけで腰が浮く。

「あっ……あ、あっ……!」

 だめ、また、真っ白になりそう。
 縋るようにエリックに手を伸ばすと、キスが降りてきた。密着した体から伝わる熱、塞がれた声、徐々に強くなる彼の指遣い。

「んっ──!」

 びくびくと体を震わせながら達したノラの中からとろとろと蜜が溢れてくる。
 息が上がったノラの唇に口付けてから、徐々に降りていく彼の唇が、臍のあたりにも落とされる。力なく投げ出された足を押さえて、エリックがそこに顔を埋める。

「や、だめっ……あっ……!」

 ぬるりと舌が這わされて、指が溢れ出した蜜を絡めて入り口を押し広げる。ゆっくりと、時間をかけて入って来る異物にくらくらする。引けそうになった腰はしっかりと固定されて動けない。入り込んだ指が中で蠢く度に堪えきれない声が零れた。

「んっ、それ、あっ……あ、……だめ……っ!」

 片方の手が伸びて来てノラの手をぎゅっと握った。
 舌先が肉芽を捉えながら指は慣らすように中を掻きまわす。淫靡な水音が自分のものなのか彼の唾液のせいなのかもわからない。ただ、意識が遠くなりそうなほどの快感がノラを飲み込もうとしていた。

 ノラも彼の手を握り返す。
 達したばかりの敏感な秘芽にざらりとした舌の生々しい感触を感じると同時に、目の前がまた真っ白になった。
 容易く二度も果てたノラの体から完全に力が抜けると、エリックは体中にキスを落とし、その体を抱き寄せる。
 なすがままのノラに口づけ、耳元で優しく囁いた。

「痛かったらちゃんと言え」

 何をするの──
 頷くこともできないノラの秘口にあてがわれた指先が押し進むと、先ほどより圧倒的な異物感が体を突き抜けた。

「わ、あっ……!」

 二本の指が同時にノラの蜜壺を蹂躙する。
 もうだめ、もうおかしくなる。
 必死にエリックにしがみ付きながら声を上げるノラの首筋に、そっと唇を寄せながら彼の指は何かを見つけ出したように一点を執拗に責め続ける。

「あ、あっ……んっ、あ、ぁっ……!」

 蜜壺の奥まで搔き乱した指がそろりと抜かれると、既に濡れたノラのそこを更に蜜が濡らしていく。
 完全に力が抜けたノラの唇に、エリックが優しくまたキスをする。

「ノラ、愛してる」

 小さく頷いたノラのわずかに残った思考力も絞りつくすような深い口付けのあと、エリックが自らの衣類を脱ぎ去ったのが気配で分かった。
 覆いかぶさった彼の素肌が自分の素肌が触れ合うだけで、じわじわと愛しさがこみあげてくる。大きく開かされた足の間に体を挟み込んだまま、彼が何かを入り口のあたりにこすりつけて、またノラの体はびくりと反応した。
 指とは違う、その熱。

「痛かったら言っていい」

 これからが、皆の言っていたそれなのだと本能的に察して頷く。

「あっ──!」

 押し入って来る。
 目の覚めるような異物感。
 入らない、そんなの、むり──!

 見上げたそこに、苦しげに自分を見下ろす金色の瞳があった。
 きゅ、と胸の奥がまた温かくなる。手を伸ばすとぎゅっと抱き寄せてくれる。体が密着すればそのぶん深くまでノラの花芯にそれは突き立てられて、じわりと痛みが広がった。

 痛い。でも、我慢できないほどじゃない。この腕の温もりと引き換えなら。

「ノラ」
「……は、い……」
「痛くないか?」

 抱き合ったまま言う声は優しい。
 こくりと頷くと、入っていた熱いそれがゆっくりと抜かれていく。はぁ、と息を吐いたのも束の間で、抜けきらなかったそれは再びノラを穿った。

「あっ……! はぁ……んっ……」

 押し広げられ、徐々に馴染んだ中でじわりと蜜が広がっていくように、痛みも甘く変わっていく。ゆっくり、何度もそれを繰り返すうちに、知らず声が上がっていた。

「あっ、あっ……んっ……」

 全然、痛くない。たぶん痛いけど、それだけじゃない。
 今ならわかる。たぶんこれが、気持ちいいということ。

「……エ、リック、さま……」
「どうした?」

 ゆっくりとした動きを止めたエリックが腕の中のノラを見下ろす。目を合わせて言うのは恥ずかしい。熱を発する彼の首元に顔を埋めて小さく言った。

「……き、もち……い、い……あっ……」

 中の質量が増した気がした。甘えたように縋りつくノラを優しく引きはがして口付けると、エリックはそのまま奥まで腰を沈める。

「あっ……!!」

 一気に引き抜かれたそれが再び深くまで沈むと目の前が激しく揺れる。目を開けていられなくなったノラの体をきつく抱き締めたまま早まる律動に息もできない。

「あっ、あぁ、んっ……んっ…あっ!」

 抽送に合わせてノラの声と水音と肌がぶつかり合う音が響く。
 蕩けていきそう。
 激しく突きつけられる彼の欲望にノラ自身が絡みついているのがわかる。
 先ほどまでのゆっくりとした動きとは比べ物にならないほど猛り打ち付けられる熱杭に全ての感覚が麻痺していく。

 熱い、抱き合った彼の体も熱くなっている。
 じっとりと汗の浮かぶ額に髪が張り付く感覚も。
 彼の動きに合わせて体が揺れる感覚も。
 体内の中枢を突きあげられているこの感覚も。
 たまらなく愛しい。

「あっ、あ、あ──っ、んっ……はぁ、あっ……!」

 指先まで痺れ切ったノラの体をぎゅっと抱きしめたまま、唐突にエリックが動きを止めた。
 金色の双眸が艶めかしい色をはらんで至近距離で自分を見下ろしている。また下腹部が疼いて、自分の中が蠢きながら彼を飲み込もうとしているのがわかった。
 彼が小さく吐息を漏らした。その男の色香にざわりと体が反応する。
 ノラの唇に口付けて、エリックは「ノラ」と名前を呼びながら組み伏せた体を固定するようにきつく抱き寄せた。

「あっ、あ、──っ!」

 再び激しい動きに気が遠くなる。
 熱い、もうだめ、わからなくなる、何も、考えられない──
 本能のままに喘ぐノラの耳元で、エリックが低く唸った気がした。そして、体の奥で、熱い何かが弾けた。彼が動きを止めたことが終わりを意味するのかどうかもわからないまま、ノラはぐったりとしがみついた腕から力を抜く。

 額に、瞼に、頬に、鼻先に、唇に。
 軽く触れるだけの口付けがたくさん降ってきて、大きな手が髪を撫でてくれる感覚が心地いい。痛みなんて消し飛ぶくらいには心が満たされていく。だけど、どんなに求められても今夜はもうこれ以上はむり、とノラは少し笑いながら息を吐き出してそのまま意識も手放した。
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