自己顕示欲の強い妹にプロデュースされる事になりました

白石マサル

文字の大きさ
140 / 167
第10章~彼氏彼女の事情~

裏の顔

しおりを挟む
 空いた口が塞がらないとはこの事だろう。
 柚希の説得は難しいと思っていたら既に別れていた。
 あんなにスペックを重視して、利害関係が一致してるから付き合ってると言っていたのにだ。
 
 俺があまりのショックに固まっていると

「ちょっと! そんなに驚かなくてもいいでしょ」
「はっ! す、すまん」

 柚希は「全くもー」と言いながら頬を膨らませる。
 柚希のお蔭で段々と思考能力が戻って来た。

 ひとまず聞いておかなきゃならない事がある。

「どうして別れたんだ?」

 景山の事について話したのは今日が初めてなので、柚希の意思で別れた事になるのだ。
 あれだけ周囲に自慢していたのにどうして? と思うのは自然だろう。

「お兄ちゃんがさっき言ってた事を私も聞いたの。しかも、被害者本人から」
「えっ!? いつ聞いたんだ?」
「一昨日の夕方。沙月ちゃんと遊んでたら女子大生4人がいきなり話しかけて来たの」
「それで?」
「景山さんと付き合ってる事へのやっかみだろうなって思った。逃げようにも相手は4人だし、沙月ちゃんも居たから逃げれないと思って大人しくしてた」

 沙月を見捨てない辺りは昔から変わらず友達想いなんだよな。

「黙って頷いたら『ここじゃ話せないから近くの喫茶店に行こう』って言われて付いて行った」
「うん」
「それで、話を聞いたら景山さんの女癖の悪さや強姦まがいの事をしてるって」
「よく信じたな」
「……こういう事あまり言いふらす様な事じゃないんだけど、4人の内の一人がリストカットの痕を見せてきて――それでこの人たちは嘘を言ってないんだなって思った」
「……そうか」
「その人達の話を聞き終わった後に沙月ちゃんが景山さんに言い寄られた事を泣きながら話してくれた。『友達の彼氏を悪く言えないから黙ってた。ごめんね』って」

 沙月も沙月で苦しんでたからな。
 柚希に言えた事で楽になっただろうか。後で電話してみよう。

「それで昨日の放課後に本人に直接聞いてみた。最初は知らバックレてたけどそのうち開き直って『俺に抱かれるんだから光栄だろ? お前も俺の肩書目当てで付き合ったんだから同じだろ』って言われたからこう言ってやったの」

 そう言って柚希は立ち上がり、俺を虫を見る様な目で睨むと凍える様な声で言う。

「アンタみたいなクズ初めて見た。もう二度と私の前に現れないで、サヨウナラ」

 再現と分かっていても拭い切れない程の恐怖に苛まれた。
 柚希のこんな冷たく感情の消えた声は初めて聴く。
 前から思ってたけど女の人って声帯二つ持ってるんじゃない?

「そ、そうか。その後はどうなったんだ?」

 いまだに恐怖で震える身体にムチを打ち質問する。

「さぁ? 固まってたからそのまま帰ってきたから分からない」
「な、なるほどな」

 きっとさっきの俺みたいになってたんだろうな。
 まぁ、アイツの場合はざまぁみろって感じだが。
 
 柚希もこれに懲りて無暗に肩書だけで彼氏を選ぶような事はしないだろう。……しないよな?
 等と考えていると柚希が

「次はイケメンで優しくて正義感の強い人がいいなぁ~」

 と言いながらスマホを操作している。
 全然懲りてないじゃないかチクショウ!

「まてまて、そんなに焦って彼氏作んなくてもいいだろ。もっと真剣に考えろ!」
「もー、うるさいなぁ。お兄ちゃんには関係……ちょっと待って!」
「は?」

 急に黙り込んで何やら考え事をしだした。
 たまに俺をチラッと見たと思ったら何やらブツブツ言っている。

「……だから……はず。だから……で……」
「お、おい、柚希」
「……すれば……ける、そうすれば……私が……」

 全然俺の声が届いていない。
 一体何をそんなに真剣に考えてるのか分からない。
 せめてロクでもない事でありません様に!

 数分が経ち、突然バッとこちらに顔を向けられる。
 その表情は笑っていたが、何を企んでいるのか分からないので恐怖でしかない。

「分かった、もう無理に彼氏作るの止めるよ」
「っ! 本当か!?」
「うん、私が間違ってた。凄い好条件が近くにいるのに怒りで自分を見失ってたよ」
「うん?」
「もうお兄ちゃんが心配するような事はしないから安心してね」
「あ、ああ。分かってくれたならいいんだけど……」

 急にどうしたいんだ? さっきまで彼氏作ろうとしてたのに。
 一体さっきまで何を考えてたのか気になる。

「もう安心していいんだよな?」

 最終確認といった感じで問いかけると

「あったりまえじゃん! お兄ちゃんにはもう心配かけないよ」

 と言ったので取りあえず信用する事にした。

 その後自分の部屋に戻り、沙月に迷惑掛けた事を謝り、今日の事を話した。


 翌日の昼休みに水樹を廊下に呼び出して事の顛末を話した。

「一件落着で何よりだな」
「そうなんだけどな……」
「なんだ? まだ何か悩んでんのか?」
「悩んでるっていうか、柚希が素直過ぎて何か考えてるんじゃないかって思って」
「でも心配させないって言ってたんだろ? ならそれを信じてやれよ」
「……そうだよな。うん、そうだ」

 窓から外の風景を眺めながら話していると

「せーんぱい! お昼一緒に食べませんか?」

 と声を掛けられて振り向くと

「えへへ、なんだか照れますね先輩♪」

 どういう訳か俺の事を先輩と呼ぶ柚希の姿がそこにあった。

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。 学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。 だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。 窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。 そんなときある夜会で騎士と出会った。 その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。 そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。 表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。 結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。 ※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)  ★おまけ投稿中★ ※小説家になろう様でも掲載しております。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

処理中です...