時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか?

南 玲子

文字の大きさ
25 / 68

アルフリード王子

しおりを挟む
豪華で優美な装飾が施されたティールームで、アルフリードは弟である第二王子のエルドレッドと向かい合わせで、座ってお茶を飲んでいる。
その傍には、補佐官のルークも同席している。その後ろには侍女らが、控えていた。

今日アルフリードは、病に侵され寝たきりになっている国王。つまり自身の父親に会いにきた。
いつも定期的に、国王と話をする時間を作っている。
もちろん政治上の相談もあるのだが、だんだん目に見えて衰弱していく国王を見て、できるだけ話をしたいと思うようになった。

もう、そんなに長くはないのだろう。

国王との謁見の後に、エルドレッドに会ってしまった。
早速お茶の誘いを受けてしまっては、断るわけにもいかない。エルドレッドも国の政治を考える上で、見逃せない権力を握っている。
第二王子派の勢力は、魔術長長官率いる、魔方陣を展開しながら戦う魔術師達、それとセイアレス大神官率いる、神官とその敬虔な信者達だ。

それでもアルフリードの勢力のほうが誰が見ても優勢なのだが、もしエルドレッドと表立って対立してしまえば国を2分する戦いになってしまう。

それだけは避けなければいけない。
国王はいつ崩御してもおかしくない状態になってきた。
それまでに第二王子のエルドレッドは、なんとかして王位を我が物にしようと焦っている。
だからこそ聖女召喚を急いだのだろう。

「兄さん。今日も父上に会いに行ったんだってね。病気の父上の手を煩わせないと、この国を統治できないなんて、あまり人に言えないよね。ああ、そういえば魔石の値段高騰で、かなり民が苦しんでいるようだ。国境のほうでも魔石をめぐって、隣のデルニア国と小競り合いがあったようだしね。幸い、聖女が現れたおかげで最近頻発していた、魔獣の襲撃はかなり減っているみたいで、良かったよ」

ティーカップから、立ち上る高級茶葉の匂いをかぎながら挑戦的な目で言い放つ。

「聖女は元気なのか?お前の婚約者なんだろう」

「ユイカは元気だよ。とはいってもまだ魔力の目覚めはきていないようだけど。セイアレスがいうには、もうそろそろだって。聖女の力は僕も楽しみだよ」

エルドレッドとの会話は、いつもこんな感じだ。
何の実もなく、ただアルフリードを嫌な気分にさせるだけが目的の会話だ。
側妃の息子で、アルフリードとは腹違いの弟だが、小さい頃から交流もあまりなく、弟といった感情を彼には持てなかった。

お前に王としての器があるならば、王位なんか喜んでくれてやるんだが・・・あまりにも短絡的過ぎる。お前を王にしてこの国を衰退させるわけにいかない。

アルフリードは、話に夢中になっているエルドレッドに気づかれないように、溜息を漏らす。

そういえば今日の父上は、なぜだかとても心配していた。
聖女がエルドレッド側にいることが、かなり気がかりのようだ。確かに聖女の能力は未知のものなのでその存在は脅威だが、実際聖女に会ってみて、そんな力を持っているようには到底思えなかった。


そう、クラマの時を止める能力のほうが、聖女の力としてはぴったりとくる。いままで誰一人として成し得なかった、時間に干渉する魔力を使用しない能力。

まあしかし、あいつはマイデン生まれの、生粋のウェースプ人だ。
ルークが持ってきた調査書にはそう記してあった。
どうしてその能力が発現したのかは、ゆっくり私が自身で秘密裏に調べていこう。もし公にすれば、この王位争奪の騒動に巻き込まれてしまうだろうことは、想像に難くない。

そうすればクラマのことだ。本当に自分で自分の命を絶つかもしれない。

想像しただけで、身震いがする。

私がこんなに、あんな少年に振り回されるとはな。
ことクラマに関しては、感情の制御が効かなくなる。

最後に会ったとき、子供のように声を上げて自分の胸の中で泣いていたクラマを思い出すと、自然と顔がほころんだ。


早くクラマに、会いたい・・・。

しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

【完結】召喚された2人〜大聖女様はどっち?

咲雪
恋愛
日本の大学生、神代清良(かみしろきよら)は異世界に召喚された。同時に後輩と思われる黒髪黒目の美少女の高校生津島花恋(つしまかれん)も召喚された。花恋が大聖女として扱われた。放置された清良を見放せなかった聖騎士クリスフォード・ランディックは、清良を保護することにした。 ※番外編(後日談)含め、全23話完結、予約投稿済みです。 ※ヒロインとヒーローは純然たる善人ではないです。 ※騎士の上位が聖騎士という設定です。 ※下品かも知れません。 ※甘々(当社比) ※ご都合展開あり。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

異世界転移聖女の侍女にされ殺された公爵令嬢ですが、時を逆行したのでお告げと称して聖女の功績を先取り実行してみた結果

富士とまと
恋愛
公爵令嬢が、異世界から召喚された聖女に婚約者である皇太子を横取りし婚約破棄される。 そのうえ、聖女の世話役として、侍女のように働かされることになる。理不尽な要求にも色々耐えていたのに、ある日「もう飽きたつまんない」と聖女が言いだし、冤罪をかけられ牢屋に入れられ毒殺される。 死んだと思ったら、時をさかのぼっていた。皇太子との関係を改めてやり直す中、聖女と過ごした日々に見聞きした知識を生かすことができることに気が付き……。殿下の呪いを解いたり、水害を防いだりとしながら過ごすあいだに、運命の時を迎え……え?ええ?

【完結】次期聖女として育てられてきましたが、異父妹の出現で全てが終わりました。史上最高の聖女を追放した代償は高くつきます!

林 真帆
恋愛
マリアは聖女の血を受け継ぐ家系に生まれ、次期聖女として大切に育てられてきた。  マリア自身も、自分が聖女になり、全てを国と民に捧げるものと信じて疑わなかった。  そんなマリアの前に、異父妹のカタリナが突然現れる。  そして、カタリナが現れたことで、マリアの生活は一変する。  どうやら現聖女である母親のエリザベートが、マリアを追い出し、カタリナを次期聖女にしようと企んでいるようで……。 2022.6.22 第一章完結しました。 2022.7.5 第二章完結しました。 第一章は、主人公が理不尽な目に遭い、追放されるまでのお話です。 第二章は、主人公が国を追放された後の生活。まだまだ不幸は続きます。 第三章から徐々に主人公が報われる展開となる予定です。

処理中です...