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ユーリスの愛
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最後に見た彼女は咳をする度に、唇に血を浮かべた。息をするのも苦しいだろうに私の治療を断り、聖女の能力についての本を貪る様に読んでいる。
きっと死に瀕しているアルフリード殿下を救いたい一心なのだろうが、戦闘に長らく身を置いていた私には、もう殿下にどのような治療を施そうが無駄だということがすぐに見て取れた。
サクラ・・・。君が時間を動かしても、もう無駄なんだ。殿下はもうすぐ死ぬ。だから一刻も早く時間を動かして自分の治療を優先して欲しい。
おそらくそのことには彼女も気がついているのだろう。
でもわずかな可能性にかけて真剣に本を読んでいる彼女には、何もいえなかった。
「ユーリス。私の能力を阻害している力は、貴方が呪文を唱えれば無効になるらしいの。私の後に続け・・・ごほっ・・・、復唱してくれる?」
彼女の顔色はこのときには蒼白で、おそらくこうやって座り続けていることさえ苦痛だろうに、泣き言もいわず可能性を追い求めている。
「・・暁の聖なるものはその意を得るだろう・・」
言葉の意味はさっぱり分からなかったが、音として記憶し言葉にする。
その時、私のしていたネックレスが光を放った。おそらく彼女を妨げていた力は解放されたのだ。はやく時間を動かすように催促するが、彼女はそうはしなかった。
かわりに妙なことを言い始めた。
「アル。私にエルドレッドの指輪を渡して・・・」
アルフリード王子が最後の力を振り絞って、握り締めていた左手を開くとそこにはエルドレッド王子の指輪があった。もう声すら出せないようだ。
サクラはその指輪を震える指でなんとか受け取って、自分の指にはめようとする。
「この指輪は聖女が身につけることで、過去に戻る能力が発動するらしいの。見てて・・・」
指輪を彼女がつけた途端、周囲のものが目まぐるしく動き始めた。壊れたものが再び元の形へと戻っていく。その光景はまるで自分が神の世界にでも行ったのかとさえ思わせられるほどだった。
それを見つめる彼女を見て、その美しさに見惚れてしまう。彼女の周りには、色とりどりの幾筋もの光が取り巻いていて、まるで女神のようだった。
「3種の宝飾をつけている者だけが、この空間でいられる。そしてある一点の時を決めて指輪を外せば、過去にいた自分に戻れるらしいわ。私達以外の人にはそれまでの記憶は無いけど、宝飾を身につけている者だけは今までの記憶を持ったまま・・・ごほっ・過去に戻れる・・・ごほっごほっ!!」
「これが・・・聖女の力・・・なんてすごい」
私は感動して体全体が痺れたようになって、その場に片膝を着いたまま固まっていた。ふと気づくと彼女が体を支える力を失って倒れそうになっている。
すぐに腕の中に抱きとめる。その体はぐったりとしていて限界が近いのがわかる。
「サクラ・・!!」
私は医療魔法を使おうと手の平を彼女の上にかざした。彼女の膝の上に未だ頭を乗せたままのアルフリード王子が見える。おそらくもうこと切れているのだろう。その青い瞳にはもう生気がなかった。
ちくしょう!!だけどサクラだけは死なせない!! 神様!!彼女を助けてくさい!
私の命を捧げてもいい!お願いだ!!
彼女の黒曜石みたいな瞳が私を見つめる。彼女の瞳にはこんな状態になってもまだ希望と強い意志が残っている。
「ここまでが限界かも・・・。また過去で会おうね・・・」
彼女は最初に会った時と同じ・・無邪気な笑顔で微笑んだ・・・。
・・・次の瞬間、私はアイシスの屋敷のティールームで、おいしそうに湯気を立てる紅茶のカップを前にして座っていた。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、見覚えのある光景に記憶が呼び起こされる。
部屋の隅には以前見た同じ場所に、同じ格好をした侍女が立っている。
・・過去にいた自分に戻る・・・。
私は思わず首に手をやる。すると前回には無かったネックレスが騎士の制服の下にあるのが分かった。次に違和感を感じて左手を見ると、そこには聖女の本が握られていた。
過去に戻れた!!!
すぐに思ったのは彼女のことだ・・・最後に見た彼女の青白い顔が瞼の裏に焼きついているようだ。
すぐに立ち上がり彼女がいるであろう場所を目指そうとした時、突然扉が開かれアイシスが取り乱したように入ってきた。
「ユーリス様!!セシリアが大変よ!!はやくお風呂場にいらして!!」
ああ・・・これもあの時と同じだ。
一人の侍女が私の前を小走りに走って、風呂場に案内しようとする。
すまないがもう私はどこに彼女がいるか知っている。一刻も早く安否を確かめたい。
侍女が変な顔をするのも構わず、全速力でその場所に向かった。小走りで走る侍女は私に追いつけず、はるか後ろを何か叫びながらついてきているが無視した。
ああ、早く彼女にあって安心したい!!その力強い瞳に見つめられたい!!
その可愛らしい声でユーリス様と呼んでもらいたい!!
私は目的の場所の扉を開ける。
「サクラ!!大丈夫ですか?!」
きっと死に瀕しているアルフリード殿下を救いたい一心なのだろうが、戦闘に長らく身を置いていた私には、もう殿下にどのような治療を施そうが無駄だということがすぐに見て取れた。
サクラ・・・。君が時間を動かしても、もう無駄なんだ。殿下はもうすぐ死ぬ。だから一刻も早く時間を動かして自分の治療を優先して欲しい。
おそらくそのことには彼女も気がついているのだろう。
でもわずかな可能性にかけて真剣に本を読んでいる彼女には、何もいえなかった。
「ユーリス。私の能力を阻害している力は、貴方が呪文を唱えれば無効になるらしいの。私の後に続け・・・ごほっ・・・、復唱してくれる?」
彼女の顔色はこのときには蒼白で、おそらくこうやって座り続けていることさえ苦痛だろうに、泣き言もいわず可能性を追い求めている。
「・・暁の聖なるものはその意を得るだろう・・」
言葉の意味はさっぱり分からなかったが、音として記憶し言葉にする。
その時、私のしていたネックレスが光を放った。おそらく彼女を妨げていた力は解放されたのだ。はやく時間を動かすように催促するが、彼女はそうはしなかった。
かわりに妙なことを言い始めた。
「アル。私にエルドレッドの指輪を渡して・・・」
アルフリード王子が最後の力を振り絞って、握り締めていた左手を開くとそこにはエルドレッド王子の指輪があった。もう声すら出せないようだ。
サクラはその指輪を震える指でなんとか受け取って、自分の指にはめようとする。
「この指輪は聖女が身につけることで、過去に戻る能力が発動するらしいの。見てて・・・」
指輪を彼女がつけた途端、周囲のものが目まぐるしく動き始めた。壊れたものが再び元の形へと戻っていく。その光景はまるで自分が神の世界にでも行ったのかとさえ思わせられるほどだった。
それを見つめる彼女を見て、その美しさに見惚れてしまう。彼女の周りには、色とりどりの幾筋もの光が取り巻いていて、まるで女神のようだった。
「3種の宝飾をつけている者だけが、この空間でいられる。そしてある一点の時を決めて指輪を外せば、過去にいた自分に戻れるらしいわ。私達以外の人にはそれまでの記憶は無いけど、宝飾を身につけている者だけは今までの記憶を持ったまま・・・ごほっ・過去に戻れる・・・ごほっごほっ!!」
「これが・・・聖女の力・・・なんてすごい」
私は感動して体全体が痺れたようになって、その場に片膝を着いたまま固まっていた。ふと気づくと彼女が体を支える力を失って倒れそうになっている。
すぐに腕の中に抱きとめる。その体はぐったりとしていて限界が近いのがわかる。
「サクラ・・!!」
私は医療魔法を使おうと手の平を彼女の上にかざした。彼女の膝の上に未だ頭を乗せたままのアルフリード王子が見える。おそらくもうこと切れているのだろう。その青い瞳にはもう生気がなかった。
ちくしょう!!だけどサクラだけは死なせない!! 神様!!彼女を助けてくさい!
私の命を捧げてもいい!お願いだ!!
彼女の黒曜石みたいな瞳が私を見つめる。彼女の瞳にはこんな状態になってもまだ希望と強い意志が残っている。
「ここまでが限界かも・・・。また過去で会おうね・・・」
彼女は最初に会った時と同じ・・無邪気な笑顔で微笑んだ・・・。
・・・次の瞬間、私はアイシスの屋敷のティールームで、おいしそうに湯気を立てる紅茶のカップを前にして座っていた。
一瞬何が起こったのか分からなかったが、見覚えのある光景に記憶が呼び起こされる。
部屋の隅には以前見た同じ場所に、同じ格好をした侍女が立っている。
・・過去にいた自分に戻る・・・。
私は思わず首に手をやる。すると前回には無かったネックレスが騎士の制服の下にあるのが分かった。次に違和感を感じて左手を見ると、そこには聖女の本が握られていた。
過去に戻れた!!!
すぐに思ったのは彼女のことだ・・・最後に見た彼女の青白い顔が瞼の裏に焼きついているようだ。
すぐに立ち上がり彼女がいるであろう場所を目指そうとした時、突然扉が開かれアイシスが取り乱したように入ってきた。
「ユーリス様!!セシリアが大変よ!!はやくお風呂場にいらして!!」
ああ・・・これもあの時と同じだ。
一人の侍女が私の前を小走りに走って、風呂場に案内しようとする。
すまないがもう私はどこに彼女がいるか知っている。一刻も早く安否を確かめたい。
侍女が変な顔をするのも構わず、全速力でその場所に向かった。小走りで走る侍女は私に追いつけず、はるか後ろを何か叫びながらついてきているが無視した。
ああ、早く彼女にあって安心したい!!その力強い瞳に見つめられたい!!
その可愛らしい声でユーリス様と呼んでもらいたい!!
私は目的の場所の扉を開ける。
「サクラ!!大丈夫ですか?!」
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