召喚された女刑事は強引騎士団長に愛でられる

南 玲子

文字の大きさ
29 / 36

何かがおかしい

しおりを挟む
そうして決行の時が来た。愛は刑事のスーツに防刃ベスト。ホルスターを肩から掛けて手入れした拳銃を装備した。それだけでは寒いので上から茶色いマントのようなものを羽織る。

騎士達は戦闘用の鎧を身に着けて大きな剣を肩から下げた。翼竜たちも元気なようで、翼を広げて雄たけびを上げている。

空間を繋げるゲートの位置は帝王の間。ここには帝王と急襲作戦をする騎士、数人の臣下の者しかいない。

「じゃあ、行ってこい! 健闘を祈る!」

帝王の声とともに空間が繋げられた。アナイスが手をかざして呪文を唱えると、何もない空間が歪んできてぼやけてくる。その先には鬱蒼とした森が徐々に映し出されてきた。

「行くぞ、アイ!」

そうして愛はダグラスと騎士達。彼らの翼竜たちと一緒に深夜の森の中に立っていた。こうしていると遠征のころに戻ったみたいでそれほど緊張感はない。

「では今から奴らの本拠地に向かう。途中で魔獣に出会うかもしれんが、その時は目立たんように第三レベル以上の魔力は使うな」

ダグラスの指示に皆が無言でうなづく。そうして二時間、道なき道を歩く進軍が始まった。

(思ってたよりも山道を歩くのって結構大変。パンプスはやめてブーツを借りたけど、それでもきついな)

異世界に来てからも運動は欠かしたことがなかったが、山道は東京で生まれ育った愛には厳しかった。するとダグラスが何も言わずに愛を肩の上に抱え上げる。

「ひゃぁあっ! ダ、ダグラスぅ?!」

「これだったら両手も使える。悪いと思うんだったら振り落とされないよう黙ってつかまってろ」

他の騎士達がにやにやとして見ている。恥ずかしかったが、ここはダグラスに甘えておくことにした。新宮 塔子を倒すには愛の射撃の腕にかかっているのだ。ここで体力を使ってしまうわけにいかない。

「ここから一キロ先にあるのがナーデン新兵のキャンプです。ダグラス様、ご指示を」

森の開けた平野をエヴァンが手で示す。この先に新宮 塔子がいると思うと、自然に気が引き締まる。ダグラスは愛を肩からおろして、騎士達に指示を与えた。

「この結界はピラミッド型の第三構成だ。フォーメーションBで攻めるぞ。愛は俺とトーマスと一緒に地上から攻める」

ダグラスが他の騎士達に細かく指示をしている間、愛の隣にエヴァンがやってきた。彼の目は相変わらず冷たい。彼が愛のことを気に食わないのはずっと前から知っていたことだ。

「アイ、少し話があります。こちらに来てください」

(聖女を急襲しようとする直前に何の用なのかしら。いまここであまりメンタルに響くようなことは言われたくないな。うぅ、でも嫌だとは言いにくいし……)

愛は気が進まないが彼の示す場所に動いた。

「すみませんが、アイ。あなたのことは初めて見た時から気に入りませんでした。あの時、すぐにこうしておくべきだったんです」

「えっ……?」

そう一言いうと、エヴァンは愛のお腹に何かを押しつけた。一瞬何が起きたのかわからなかったが、腹部に激痛を感じてそれがナイフだったのだと分かる。

「っ! エヴァンさんっ、な、何をっ!」

エヴァンは素早くナイフを抜くと、愛の脇腹に手を入れて拳銃を取り出す。そうしてみたこともないにこやかな表情で拳銃を構えて見せた。

「まさかこれが聖女の命を狙える唯一の武器だとはね。こういう危ないものは処分してしまいましょう」

エヴァンはそういうと安全装置を外し、お腹を押さえて苦しむ愛を見下ろしながら天に向けて拳銃を三発撃った。

「……っ! そ、そんな。まさか! 弾が!」

防刃チョッキを着ていたおかげで深手は免れたようだ。けれども剣先が数センチほどめり込んだらしい。

思ったよりも出血がひどく、傷を押さえた指がすぐに生暖かくなる。

「エヴァンっ! アイっ! 何をしている!」

拳銃の音に気が付いたダグラスがすぐに駆け付けてきてよろめく愛の体を支えた。愛は真っ青になってダグラスに何度も言い募る。

「だめ、もう弾が……弾がもうなくなっちゃった……」

三発の銃声の音で、ダグラスが気が付いたように敵も急襲に気が付いたに違いない。

―――作戦は失敗だ―――

「大丈夫、この妙な布のおかげであまり傷は深くないよ。こうして止血魔法と細胞活性をすればすぐに治るから」

ガイルが急いで医療魔法で傷口を治療してくれるが、なぜだか愛には効かないようだ。傷も塞がらないし血も止まらない。

「……! どうしてだ! どうして魔法が効かない! こんなの初めてだ!」

「大丈夫、ガイル。こうして押さえていれば血も止まるわ。それよりここにきっとナーデン神兵がやってくる」

愛は焦るガイルにそういうと、不安そうな顔でダグラスの顔を仰ぎ見た。彼は落胆も絶望もしていない、まっすぐにエヴァンを見つめて剣を構えた。

作戦の失敗は隊の全滅を意味している。考えないようにしようと思っても、不安が澱が深くなるように募ってくる。

「エヴァン! お前は自分が何をしているのか分かっているのか!」

エヴァンはダグラスの言葉にも動揺すら見せない。いつもの冷静な表情で拳銃を土の地面に放り投げた。

「ええ、分かっていますよ。ダグラス様、知っていますか? 聖女召喚の計画がナーデン神国で始まったのが十五年前。さて私が帝国軍に入隊したのはいつでしたかね」

ダグラスと騎士達が顔色を変える。エヴァンは薄ら笑いを浮かべて両手を広げて見せた。

「帝国の貴族の息子と入れ替わるのは苦労しましたが、おかげで騎士団の副団長にまでなれました。気付かれないように一族を皆殺しにするのは大変だったんですよ」

「まさか、エヴァン副団長がナーデン神国のスパイだったのか!」

トーマスが呆然とつぶやく。どの騎士達も長年の仲間であった副団長の裏切りに動揺が隠せない。エヴァンは微笑みを絶やさずに自らの剣を構えた。

「ダグラス団長。あなたのことだ。恐らく騎士隊を逃がすことをお考えでしょうが、それは無理です。もうここには新たな結界が張られていて中はナーデン神兵たちに囲まれていますから。テレンス兄さん、どこにいるんですか?」

エヴァンがそういうと、ナーデン神兵と神官たちが空からも地上からも一斉に姿を現した。騎士達が剣を身構える。

それと同時に、どこから現れたのか腰までの長い銀の髪に白い聖衣を身に着けた男性が歩み出てきた。

「ここですよ、エヴァン。よくやりました。これでナーデン神国の世界統一が実現するでしょう」

手には金属の司教杖を持ち、まるでこの世の人ではないような雰囲気を醸し出している。彼が噂のテレンス大司教なのだと愛はすぐに分かった。

彼の背後には一角獣のような真っ白の馬がいた。帝王にライオンの守護魔獣カルラがいるように、恐らく彼の守護魔獣なのだろう。馬の肌は白い煙のようなもので覆われている。

その隣には同じく白い聖衣をまとった女性。左目の下に黒子、漆黒の髪を持つ女は愛を見て微笑んだ。

「新宮 塔子! っっつ!」

しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです

籠の中のうさぎ
恋愛
 日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。 「はー、何もかも投げだしたぁい……」  直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。  十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。  王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。  聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。  そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。 「では、私の愛人はいかがでしょう」

コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~

3月5日コミカライズ配信♡二階堂まや
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。 彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。 そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。 幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。 そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!

エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」 華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。 縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。 そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。 よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!! 「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。 ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、 「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」 と何やら焦っていて。 ……まあ細かいことはいいでしょう。 なにせ、その腕、その太もも、その背中。 最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!! 女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。 誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート! ※他サイトに投稿したものを、改稿しています。

【完結】 大切な人と愛する人 〜結婚十年にして初めての恋を知る〜

紬あおい
恋愛
結婚十年、子どもも授かり、日々執務と子育ての毎日。 穏やかで平凡な日々を過ごしていたある日、夫が大切な人を離れに住まわせると言った。 偶然助けた私に一目惚れしたと言い、結婚し、可愛い子ども達まで授けてくれた夫を恨むことも憎むこともしなかった私。 初恋すら知らず、家族愛を与えてくれた夫だから。 でも、夫の大切な人が離れに移り住んで、私の生き方に変化が生まれた。 2025.11.30 完結しました。 スピンオフ『嫌われ悪女は俺の最愛〜グレイシアとサイファの恋物語〜』は不定期更新中です。 【2025.12.27追記】 エミリオンと先に出逢っていたら もしもの世界編は、諸事情により以下に移動しました 『今度は初恋から始めよう〜エミリオンとヴェリティのもう一つの恋物語〜』 よろしければ、ご訪問くださいませ いつもありがとうございます╰(*´︶`*)╯♡

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

勘違い妻は騎士隊長に愛される。

更紗
恋愛
政略結婚後、退屈な毎日を送っていたレオノーラの前に現れた、旦那様の元カノ。 ああ なるほど、身分違いの恋で引き裂かれたから別れてくれと。よっしゃそんなら離婚して人生軌道修正いたしましょう!とばかりに勢い込んで旦那様に離縁を勧めてみたところ―― あれ?何か怒ってる? 私が一体何をした…っ!?なお話。 有り難い事に書籍化の運びとなりました。これもひとえに読んで下さった方々のお蔭です。本当に有難うございます。 ※本編完結後、脇役キャラの外伝を連載しています。本編自体は終わっているので、その都度完結表示になっております。ご了承下さい。

処理中です...