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四話 異聞
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気力を使い果たしたように、こちらにふらりと倒れこんでくる哲くんを抱き留める。お互い汗だくの顔を見合わせ、本能が求めるままに唇を重ねた。そうしているうちにどちらともなく笑いがこみ上げてきて、ふふふと笑い合いながら二人してベッドにごろりと転がった。
――ぼくたち、こんな風にセックスできたんだ。
互いの情欲を全力でぶつけ、火傷するほどの温度まで熱を高め合って、共にどろどろに溶け落ちる、そんなセックス。
感慨深く思いながら、汗でしっとり濡れた布を背中で感じる。
使用済みのコンドームを始末し、快感の余韻に浸っていると、そろりと指先を握られる。隣を見ると、濡れた目で熱っぽくこちらを見つめる哲くんがいて。
「颯季さん……もう一回、しませんか」
少し恥じらいを含んだお誘い。驚くと同時に、喜びが心臓の周りを温かく包んだ。哲くんから誘ってもらえたのだから、もちろん嫌だなんて言うわけがない。
「ん、いいよお……ちょっと待ってね」
ぼくが通常の状態に戻った下半身に手を伸ばそうとした、そのとき。
「待って」やけにきっぱりした口調で哲くんに制止される。
手首を掴んだ恋人は、身を起こしてぼくの脚のあいだにするりと滑りこんでくる。
「哲くん……?」
身を屈めた哲くんが陰茎に手を添えてきて、彼が何をしようとしているのかに気づく。でも、そんな。まさか、本当に?
「俺が口で育てます」
決定的なことを口にして、哲くんは舌先でちろりと竿の部分を舐めた。
「て、哲くん……っ」口で育てるなんて、自分の方が照れて赤面してしまう。「どこで覚えてきたの、そんなの……!」
「俺、颯季さんにもっと良くなってほしくて、色々勉強したんです」
ぴちゃ、ぴちゃと躊躇なくそこに舌を這わせながら、哲くんが答える。さっき盛大に吐精したにもかかわらず、ぼくのそこはもう熱を持って起ち上がりつつあった。
哲くんはこんなに積極的な子だったろうか? ぼくの下で声を圧し殺している彼の印象が強いけれど、それは哲くんが己を犬だと言い聞かせていた頃の話だ。こちらの姿の方が、本来の彼なのかもしれない。
「ぼ、ぼく以外の誰かに教わったんじゃないよね?」
動揺してどもりながら訊くが、哲くんはふるふると首を横に振る。
「そうじゃないです……色々検索して、調べて……」
「そっか……っう」
哲くんが亀頭の部分をはむ、と口に含む。ぼくは咄嗟に掌で口元を押さえる。そうしないと、情けない声が漏れ出てしまいそうだったから。
何か問いたげな、それでいて不安そうな目がこちらを見上げる。これでいいのか、気持ちいいのか、と問いかける視線だと判断して、ぼくは哲くんの髪をさらりと撫でた。
「うん、気持ちいいよ……歯を立てないように、くびれのとこを刺激してみて……。そしたら次は、喉の奥を使って咥えてみよっか……」
哲くんはぼくの言葉をすんなり聞き入れ、できる限り応えようとしてくれる。口淫は初めてだろうから、確かに拙いことは拙かったが、その不慣れで初心な感じにむしろそそられるのだった。
哲くんの、伏せられた長い睫毛が小刻みに震えている。それを見てぼくは――とても美しいと思った。
「綺麗だね、哲成」
根本を扱きつつ、裏筋を舐め上げている相手に囁きかける。
「そんな、こと」
「本当だよ。君のこと、いつでもすごく綺麗だなと思ってるんだ。君の知らない君のこと、いっぱい教えてあげる。これから時間をかけてね」
「……っ」
これまで彼は自分の価値も、能力も、長所も知らずに生きてきた。これからはぼくが、哲くんのきらりと光る部分を見つけ、彼に伝えていきたい。
哲くんが深くぼくの昂りを咥える。後孔とはまた違った種類の、熱さと狭さ。濡れていて、能動的に吸い付いてきて、快感をずるずると引き出される。哲くんに犯されているような感覚に陥って、胸が高鳴る。
伏せられていた哲くんの目が不意にこちらを見て、ばちりと視線がかち合った。
「……っ!」突然ぼくの下腹部が波打った。急激な快感が湧き上がり、「哲くん、離してっ」という甲高い声を別人のもののように聞く。
気づけば、ぼくのものが吐き出した白濁液を、顔で受けとめた哲くんが脚のあいだにいた。
ひゅ、と喉が変な音を立てる。ぼくは好きな人に、なんてことを。
「ごめっ、哲くん、間に合わなくて……!」
「すご……二回目なのに、濃い……」
当の哲くんは垂れ落ちる精液を指先で拭い、ぼんやりと放心している。その指先が吸い寄せられるように口元へ運ばれるのを見て、ぼくは瞠目する。
いやに赤々とした舌先が、濡れたそこを舐め取って。
「て、哲くん……」
「颯季さん、続きはお風呂でしませんか?」
「……!」
陶然としたままの哲くんの言葉に、ぼくは気圧されてしまっていた。
温もりが残るバスルームで、ぼくは後ろから哲くんの体を抱き、彼の昂りを掌で扱く。
控えめに喘ぎながら、腰をゆらゆらと蠢かす様子は、とてつもなく扇情的だった。
「この前お風呂でしたの、嫌じゃなかったんだ?」
髪のあわいから覗く彼の耳を吐息でくすぐりながら、ぼくは問う。あれはぼくが暴走したから生まれたシチュエーションなので、てっきり哲くんの中では負の記憶なのかと思っていた。
「嫌なんて……あるわけないです。颯季さんの、いつも優しくしてくれるところ、好き……」
「哲くん……」
前に回したぼくの手の甲に、そっと哲くんの掌が重ねられる。
首を捻ってこちらを振り向く彼の表情は、この上なく柔らかいほほえみだった。
「俺、自分が思ってたよりも……こういうこと、好きみたいです」
ああ、と嘆息が漏れそうになる。哲くんが自分の予想を超えてくるのを、ぼくはあと何回経験することになるのだろう。
「そっかあ」と平常心を装って囁く。「ぼくが目覚めさせちゃったんだね。じゃあ、責任取らなきゃねえ」
ぴたりと互いの体が重なる。哲くんは壁に両手をつき、背中を波打たせた。
「俺っ、これからも颯季さんのこと、好きでいていいですか……?」
交わりの中で唐突にそんなことを訊かれたものだから、ぼくは驚愕する。
そんなの決まってる、と反射的に思う。そんなの、もちろん当たり前じゃないか、と。
もどかしかった。どうやったら哲くんにすべて伝えられるのだろう? ぼくの中にある、彼へのあふれる気持ちを。
彼は真面目で、素直で、熱心だ。いつも、ぼく以外の人間にどうかされたら、と心配になる。きっとぼくの方がずっと、哲くんのことを好きなのだ。
「いいに決まってる、許可なんて要らないよ……。ぼくだって、好きでいさせてね……っ」
きっと、とぼんやり考える。きっとぼくらは、今後も互いのすべてをすぐに理解することはできないだろう。焦らずともいい。少しずつ、一歩一歩歩むように、相手のことを知っていけたらそれでいい。
結局、二人とも満足するのに時間が足りなくなり、休憩は延長せざるをえなかった。
時間ぎりぎりまでベッドで横になりながら、哲くんと言葉を交わす。これがピロートークってやつかあ、と無意識に考えてしまう自分が寒い。
哲くんは理性を手放していたときの自分の振る舞いを回想し、改めて恥ずかしくなっているらしい。あああ、とかううう、とか唸りながら枕にぼふぼふと頭を打ちつけている。そんな様子もまた可愛らしい。
枕に顔を埋めたまま、哲くんがわずかな隙間から横目でこちらをうかがう。
「……颯季さん、引きました?」
「ん、ぼくが? どうして?」心当たりがないぼくは目をまたたく。
「だって、あんなことをやったりこんなことを言ったり……想像してたのと違うって、い、淫乱だって、思ったんじゃないですか……?」
「そんなこと、思うわけないよお」
落ち込んでいるらしい哲くんの懸念を、ぼくは笑い飛ばしてみせる。
「むしろ、安心したかなあ。ずっと哲くんに無理させてるんじゃないかって気持ちがあったから。そうじゃないと分かって良かったと思ってる。――それにね、どんな哲くんもぼくにとってはすごく魅力的なんだよ。嫌じゃなかったら、もっと見せてほしいなあ」
「う……颯季さんが、そう言うなら」
耳まで真っ赤になりながらうなずく哲くんの頭を、二度三度と優しく撫でる。
「そうそう、たとえ哲くんが淫乱でも、ぼくは大歓迎だからねえ。張り切って応えちゃうよ」
「……っ!」
「それじゃ、そろそろ帰ろっか。ぼくたちの住み処に」
「……はい」
ぼくらはようやく立ち上がって、帰路へ足先を向ける準備をする。
今日は突発的なデートだったけれど、次は自分がみっちりと予定を練って、哲くんがしたことのないこと、行ったことのない場所の思い出を一緒に作りたい。
ぼくは年下だし、虫が壊滅的に苦手だし、頼りないかもしれないけれど、哲くんとともに経験を積んで、人間として成長していけたらと思う。そして、彼に心から頼られる人間になりたい。哲くんの隣で、今はそんなことを思っている。
――ぼくたち、こんな風にセックスできたんだ。
互いの情欲を全力でぶつけ、火傷するほどの温度まで熱を高め合って、共にどろどろに溶け落ちる、そんなセックス。
感慨深く思いながら、汗でしっとり濡れた布を背中で感じる。
使用済みのコンドームを始末し、快感の余韻に浸っていると、そろりと指先を握られる。隣を見ると、濡れた目で熱っぽくこちらを見つめる哲くんがいて。
「颯季さん……もう一回、しませんか」
少し恥じらいを含んだお誘い。驚くと同時に、喜びが心臓の周りを温かく包んだ。哲くんから誘ってもらえたのだから、もちろん嫌だなんて言うわけがない。
「ん、いいよお……ちょっと待ってね」
ぼくが通常の状態に戻った下半身に手を伸ばそうとした、そのとき。
「待って」やけにきっぱりした口調で哲くんに制止される。
手首を掴んだ恋人は、身を起こしてぼくの脚のあいだにするりと滑りこんでくる。
「哲くん……?」
身を屈めた哲くんが陰茎に手を添えてきて、彼が何をしようとしているのかに気づく。でも、そんな。まさか、本当に?
「俺が口で育てます」
決定的なことを口にして、哲くんは舌先でちろりと竿の部分を舐めた。
「て、哲くん……っ」口で育てるなんて、自分の方が照れて赤面してしまう。「どこで覚えてきたの、そんなの……!」
「俺、颯季さんにもっと良くなってほしくて、色々勉強したんです」
ぴちゃ、ぴちゃと躊躇なくそこに舌を這わせながら、哲くんが答える。さっき盛大に吐精したにもかかわらず、ぼくのそこはもう熱を持って起ち上がりつつあった。
哲くんはこんなに積極的な子だったろうか? ぼくの下で声を圧し殺している彼の印象が強いけれど、それは哲くんが己を犬だと言い聞かせていた頃の話だ。こちらの姿の方が、本来の彼なのかもしれない。
「ぼ、ぼく以外の誰かに教わったんじゃないよね?」
動揺してどもりながら訊くが、哲くんはふるふると首を横に振る。
「そうじゃないです……色々検索して、調べて……」
「そっか……っう」
哲くんが亀頭の部分をはむ、と口に含む。ぼくは咄嗟に掌で口元を押さえる。そうしないと、情けない声が漏れ出てしまいそうだったから。
何か問いたげな、それでいて不安そうな目がこちらを見上げる。これでいいのか、気持ちいいのか、と問いかける視線だと判断して、ぼくは哲くんの髪をさらりと撫でた。
「うん、気持ちいいよ……歯を立てないように、くびれのとこを刺激してみて……。そしたら次は、喉の奥を使って咥えてみよっか……」
哲くんはぼくの言葉をすんなり聞き入れ、できる限り応えようとしてくれる。口淫は初めてだろうから、確かに拙いことは拙かったが、その不慣れで初心な感じにむしろそそられるのだった。
哲くんの、伏せられた長い睫毛が小刻みに震えている。それを見てぼくは――とても美しいと思った。
「綺麗だね、哲成」
根本を扱きつつ、裏筋を舐め上げている相手に囁きかける。
「そんな、こと」
「本当だよ。君のこと、いつでもすごく綺麗だなと思ってるんだ。君の知らない君のこと、いっぱい教えてあげる。これから時間をかけてね」
「……っ」
これまで彼は自分の価値も、能力も、長所も知らずに生きてきた。これからはぼくが、哲くんのきらりと光る部分を見つけ、彼に伝えていきたい。
哲くんが深くぼくの昂りを咥える。後孔とはまた違った種類の、熱さと狭さ。濡れていて、能動的に吸い付いてきて、快感をずるずると引き出される。哲くんに犯されているような感覚に陥って、胸が高鳴る。
伏せられていた哲くんの目が不意にこちらを見て、ばちりと視線がかち合った。
「……っ!」突然ぼくの下腹部が波打った。急激な快感が湧き上がり、「哲くん、離してっ」という甲高い声を別人のもののように聞く。
気づけば、ぼくのものが吐き出した白濁液を、顔で受けとめた哲くんが脚のあいだにいた。
ひゅ、と喉が変な音を立てる。ぼくは好きな人に、なんてことを。
「ごめっ、哲くん、間に合わなくて……!」
「すご……二回目なのに、濃い……」
当の哲くんは垂れ落ちる精液を指先で拭い、ぼんやりと放心している。その指先が吸い寄せられるように口元へ運ばれるのを見て、ぼくは瞠目する。
いやに赤々とした舌先が、濡れたそこを舐め取って。
「て、哲くん……」
「颯季さん、続きはお風呂でしませんか?」
「……!」
陶然としたままの哲くんの言葉に、ぼくは気圧されてしまっていた。
温もりが残るバスルームで、ぼくは後ろから哲くんの体を抱き、彼の昂りを掌で扱く。
控えめに喘ぎながら、腰をゆらゆらと蠢かす様子は、とてつもなく扇情的だった。
「この前お風呂でしたの、嫌じゃなかったんだ?」
髪のあわいから覗く彼の耳を吐息でくすぐりながら、ぼくは問う。あれはぼくが暴走したから生まれたシチュエーションなので、てっきり哲くんの中では負の記憶なのかと思っていた。
「嫌なんて……あるわけないです。颯季さんの、いつも優しくしてくれるところ、好き……」
「哲くん……」
前に回したぼくの手の甲に、そっと哲くんの掌が重ねられる。
首を捻ってこちらを振り向く彼の表情は、この上なく柔らかいほほえみだった。
「俺、自分が思ってたよりも……こういうこと、好きみたいです」
ああ、と嘆息が漏れそうになる。哲くんが自分の予想を超えてくるのを、ぼくはあと何回経験することになるのだろう。
「そっかあ」と平常心を装って囁く。「ぼくが目覚めさせちゃったんだね。じゃあ、責任取らなきゃねえ」
ぴたりと互いの体が重なる。哲くんは壁に両手をつき、背中を波打たせた。
「俺っ、これからも颯季さんのこと、好きでいていいですか……?」
交わりの中で唐突にそんなことを訊かれたものだから、ぼくは驚愕する。
そんなの決まってる、と反射的に思う。そんなの、もちろん当たり前じゃないか、と。
もどかしかった。どうやったら哲くんにすべて伝えられるのだろう? ぼくの中にある、彼へのあふれる気持ちを。
彼は真面目で、素直で、熱心だ。いつも、ぼく以外の人間にどうかされたら、と心配になる。きっとぼくの方がずっと、哲くんのことを好きなのだ。
「いいに決まってる、許可なんて要らないよ……。ぼくだって、好きでいさせてね……っ」
きっと、とぼんやり考える。きっとぼくらは、今後も互いのすべてをすぐに理解することはできないだろう。焦らずともいい。少しずつ、一歩一歩歩むように、相手のことを知っていけたらそれでいい。
結局、二人とも満足するのに時間が足りなくなり、休憩は延長せざるをえなかった。
時間ぎりぎりまでベッドで横になりながら、哲くんと言葉を交わす。これがピロートークってやつかあ、と無意識に考えてしまう自分が寒い。
哲くんは理性を手放していたときの自分の振る舞いを回想し、改めて恥ずかしくなっているらしい。あああ、とかううう、とか唸りながら枕にぼふぼふと頭を打ちつけている。そんな様子もまた可愛らしい。
枕に顔を埋めたまま、哲くんがわずかな隙間から横目でこちらをうかがう。
「……颯季さん、引きました?」
「ん、ぼくが? どうして?」心当たりがないぼくは目をまたたく。
「だって、あんなことをやったりこんなことを言ったり……想像してたのと違うって、い、淫乱だって、思ったんじゃないですか……?」
「そんなこと、思うわけないよお」
落ち込んでいるらしい哲くんの懸念を、ぼくは笑い飛ばしてみせる。
「むしろ、安心したかなあ。ずっと哲くんに無理させてるんじゃないかって気持ちがあったから。そうじゃないと分かって良かったと思ってる。――それにね、どんな哲くんもぼくにとってはすごく魅力的なんだよ。嫌じゃなかったら、もっと見せてほしいなあ」
「う……颯季さんが、そう言うなら」
耳まで真っ赤になりながらうなずく哲くんの頭を、二度三度と優しく撫でる。
「そうそう、たとえ哲くんが淫乱でも、ぼくは大歓迎だからねえ。張り切って応えちゃうよ」
「……っ!」
「それじゃ、そろそろ帰ろっか。ぼくたちの住み処に」
「……はい」
ぼくらはようやく立ち上がって、帰路へ足先を向ける準備をする。
今日は突発的なデートだったけれど、次は自分がみっちりと予定を練って、哲くんがしたことのないこと、行ったことのない場所の思い出を一緒に作りたい。
ぼくは年下だし、虫が壊滅的に苦手だし、頼りないかもしれないけれど、哲くんとともに経験を積んで、人間として成長していけたらと思う。そして、彼に心から頼られる人間になりたい。哲くんの隣で、今はそんなことを思っている。
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