「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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公爵家の影の者

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「団長、先程団長の執務室付近で怪しい人物を見かけたので拘束しておきましたので、お休み中のところ申し訳ありませんが‥。」

「ああ、大丈夫だ。問題ない、すぐに見に行こう。」  

「‥‥あっ‥。」

 部下がグスタフ卿が手に持っていた拘束具を見て、頬を赤く染め何か言いたげにしている様子を、グスタフ卿は気まずい気持ちで見ていました。

『‥団長、お堅そうに見えて妙な性癖嗜好があったのですね。さっきの女性とその拘束具を使って何をしていたのですか?』

 ‥なんて部下が思っている事は容易に予想できました。

 オホンッ!

「‥あっ、すみません。すぐに案内します。」

 グスタフ卿はため息をつきながら、 部下の言う怪しい人物のもとへと向かいました。

「‥こちらです。」

 部下の示した扉の覗き窓からは、見知らぬ男の姿が見えました。

「団長に何か恨みを抱いているようでした。それに手には微量の毒素を持つ液体入りの小瓶を持っていました。‥団長のハンカチに以前付着していた毒と同じ物かを今調査中です。」 

「そうか。」

「‥ それと、あの男ですが、団長の‥。」


 部下の話を遮り、グスタフ卿は取り調べ室の扉を勢いよく開けて、怪しい男のいる机まで近づいていきました。

「‥おっお前、遅いじゃないか。ようやく俺に気付いたのか。」

 怪しい男がそう言って両手を広げてグスタフ卿に飛びついてきましたが、グスタフ卿はそんな彼の頭を片手で鷲掴みにして床に叩きつけます。

 ギャーーッ!!

 男は物凄い悲鳴を上げてそのまま気絶をしてしまいました。

 医師がすぐに飛んできてその男を診ます。

「‥脳震盪を起こしています。すぐに医務室へ運んだ方がよろしいかと‥。」

 医師はグスタフ卿の方を見ながら震える声で言いました。

 部下達が担架で男を運んでいきました。

「‥しまった。頭に血が上ってしまい、取り調べどころか何も聞き出せなかった。」

「団長、相手がいきなり飛びついてのですから無理もないです。あまり気にしないで下さい。それに取り調べはほとんど済んでいます。」

「‥そうか。」

「それとその‥少し言いにくいのですが、あの方は団長の‥。」  

「僕の‥なんだ?」

「団長の従兄弟だと言っていましたが、本当なん‥。」

 部下がそこまで言ったところで、グスタフ卿の背後から矢が飛んで来ました。

 その矢はそのまま部下の首筋に刺さり、部下はゆっくりとその場に崩れ落ちて気絶してしまいました。

「誰だ!」

 グスタフ卿が後ろを振り向いて、矢の飛んで来た方角を睨むと‥グスタフ卿の目の前でササッと黒い影が窓の外で動くのが見えました。

「待て!」

 グスタフ卿が窓を開けて黒い影の主を探しますが、すでに辺りには人の気配はありませんでした。

 黒い影が木から飛び降りた時に落とした物でしょうか‥

 大木の下には白い封筒が落ちています。

 グスタフ卿が急いで下に降りてその白い封筒を取りに行くと‥

 エリーゼの護衛騎士だったスタンレー卿がその場に立っていました。

「君は‥。」

「私はあなたの父上に指示されてエリーゼ様を監視していたのですが、今日は密かにグスタフ様に伝えておきたい事があります。」

「その白い封筒はなんだ?」

「‥あなたの気を引くためのただの囮です。」

 そう言ってスタンレーは封筒の中が空である事をグスタフ卿に見せると封筒をその場で破り捨ててしまいました。

「‥どういう事だ、早く言ってくれ。」

「その前に、先程吹き矢を木の上から吹き飛ばした者は公爵家の親類筋の者です。あっ、あと吹き矢には睡眠薬が仕込まれていますがそれ以外は何の問題もありませんのでご安心下さい。一応、心配されているといけないので先にお伝えしておきます。」

「‥あっああ。それよりも僕に伝えたいこととは?」

「‥場所を変えてお話しします。馬車を待たせているのでそちらへ。」

 スタンレーはそう言うと、お城の外門に待たせていた真っ黒の質素な馬車に乗り込みました。

 すると、2人が乗った事を確認した御者が物凄いスピードで走り出しました。

「一体これは何事だ!僕に話があるんじゃなかったのか、僕を騙してどこへ連れて行くんだ!」

 ガタガタと激しく揺れる車内で、グスタフ卿は振動で浮いてしまいそうになるのを堪えていました。 

 ガタガタガタガタ‥

 激しい振動と車輪の音が車内に響きます。そんな中で、スタンレーが話し始めました。

「‥‥エリーゼ様が攫われました。今他の者が跡を追っています。私達も追いかけましょう。」

「えっ、何だって?聞こえない、ちょっと馬車をとめてくれ!」

「‥‥。」   

 スタンレーはグスタフ卿に自分の声が聞こえていないことを察すると、グスタフ卿の隣に座り、彼の耳元に口を近づけて話し始めました。

「‥馬車が急いでいるのは、エリーゼ様がまたさらわれたからです。なのでスピードを緩めるわけには行かないのです。どうかご了承下さい。」
  
「何!?ならなぜすぐに彼女の跡を追わずに僕を待っていたんだ。すぐに追いかけるべきだったのに!」

「‥今別の者が追っています。」

「‥そうか。」

 グスタフ卿は激しく揺れる馬車の中で、必死に腕と脚を伸ばして踏ん張り続けます。

 真っ黒な馬車の車内も薄暗く、窓にはカーテンもひかれていました。

「今この馬車はエリーゼ様の攫われた先に向かっています。」
 
「攫ったやつの目星はついてるのか?」

「おそらく公爵家の親類筋のポラリス侯爵家かと‥。」  

「ポラリス侯爵と言えば、僕のおじさんじゃないか。何故そんな‥。

そう言えば‥おじさんの息子のカーリーは、確か精神を病んで離島の療養施設にいるんだよな。エリーゼを誘拐する意味が分からない。」

 グスタフ卿は立て続けに起こりつづけるハプニングに頭が混乱しました。

 激しく揺れながら進む事数時間、馬車はようやくとまりました。

 平然としているスタンレーとは違い、グスタフ卿はクラクラする頭を抱えて転倒しそうになりながら馬車をおりました。

「君は凄いな。‥こういう事に慣れているのか?僕も馬に乗る事なら何時間でも耐えられるが‥こんな暴走馬車は‥。」

「公爵家の影の者としてこれくらいは平気です。」  

「影の者?それは‥。」

 質問しようとしたグスタフ卿ですが、数百メートル先にあるこじんまりとした小屋を見つけて咄嗟に息を潜めました。

『あそこにエリーゼ様はいると思います。』

 スタンレーが小声で伝えます。

 グスタフ卿は息を潜めたままじりじりと小屋の方へ近づいて行きました。





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