「‥君に気安く話しかけられたくないな。」初恋の人に使用人と間違えられて、塩対応されちゃいました。

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小屋での出来事

 小屋の外から中の様子をうかがう緊迫した状態のグスタフ卿とスタンレーとは対照的に、中でのエリーゼの様子は穏やかでした。

「エリーゼ嬢、突然の無礼をお許し下さい。私はポラリス侯爵家の者です。訳あってあなたをここに攫ってきました。」

「うーん‥突然で驚きましたが、命やお金を狙われてるのではない事は分かりましたので怖くはなかったです。それに、こうしてあなた達は今、私に自分たちの身分を明らかにしてるじゃないですか。だから大丈夫です。

‥とはいえ、未婚の私にこんな不埒な事をしてしまった抗議は正式にさせてもらうつもりです。」

「勿論です。‥本当に申し訳ありません。」

 年配の上品な紳士が深々とエリーゼに頭を下げて謝罪します。

 エリーゼと紳士の周りには使用人らしい若い男性が1人いるだけで、他の使用人や騎士は部屋の外や小屋の外に仁王立ちし、何かを警戒しているようでした。

 エリーゼはこんなこじんまりとした小屋には不釣り合いなほどきちんとした応接間で、差し出された温かい紅茶を飲みながら‥今自分が置かれているこの状況を必死に理解しようとしていました。

『‥私を害するつもりはないようだけど‥ここへ私を連れてきた目的は言うつもりはないのね。

それにしても‥何をあんなに警戒しているのかしら。一体この人達は何がしたいの?』

 エリーゼは重なる疑問に思わず首を傾げてしまいました。

「エリーゼ嬢、すみません。色々と気になりますよね。‥もうすぐ私達の目的がはたせなら全てを打ち明けますので。それまでは‥。」

「‥何時間ぐらい私はここへいればいいのかしら。それに家族へ私の無事を知らせておきたいんだけど。」

「それに関しては大丈夫です。本日中に全て解決する予定ですし、エリーゼ嬢の事はお屋敷に無事お送りしますので。」

「‥分かりました。」

 飲んでいたティーカップをテーブルに下ろし、エリーゼは焼き菓子に手を伸ばします。

 その様子を見ていた若い使用人が紳士に何かを耳打ちしました。

 すると、紳士がエリーゼに一礼してから扉の外にいる者に何かを指示しました。

 それから数十分ほど経過し、エリーゼのいる応接間に食事が運ばれてきました。

 狭い小屋の小さなキッチンで作ったとおもれる食事は、一つの大きなトレーにのるほどのこじんまりとしたものでしたが、どれも手が込んでて美味しいものばかりです。

 エリーゼは食事を一通り満喫すると、使用人に促されてベッドのあるこじんまりとした寝室に連れて行かれました。

「あれ?私って今日中に帰れるのよね。なら別にベッドは‥。」

「‥いえ、お疲れのようなので少しここでおやすみして頂いた方がいいかと思いまして‥。」
 
「そう?なら‥少し休ませてもらうわ。」

 エリーゼはそう言うと寝室のベットに横になり、目を閉じて使用人が去るのを待ちました。

 そして使用人が立ち去る足音が扉の向こうから聞こえると、すぐさま体を起こしました。

「いくら私でもこの状態で寝られる訳がないじゃない。それに‥そこまで油断してる訳でもないのよ。」

 エリーゼは寝室の窓からそっと外の様子を探ります。

 小屋の周りは真っ暗で、唯一応接間の近くのみが部屋の明かりで少しだけ明るくなっているだけでした。

「本当に真っ暗ね、もう夜なのよね。‥早く家のベッドで眠りたいわ。」

 そう言うとエリーゼは大きな欠伸をしました。

 ベッドに腰掛けて再びそっと横になります。突然襲ってきた強い眠気に耐えられなくなったのです。

 こうしてエリーゼはベッドの上で眠りについてしまいました。

 一方その頃応接間では‥

「エリーゼ嬢は眠ったか?」

「密かに飲み物と食べ物に含ませておいた睡眠薬がそろそろ効く頃です。今頃はベッドでお眠りになってるはずです。」

「そうか。‥それと外の様子はどうだ?」

「カーリー様が今こちらに向かっているそうです。‥グスタフ様の部下の隙をついて連れてきました。」

「そうか。‥これでやっとカーリー様をお救いしてあげられる。侯爵様もさぞ安心されるだろう。それに‥もう一つ、目的が果たせそうだ。」

 老紳士がそう言って満足げな表情で顎を撫でていると、突然応接間の扉が乱暴に開けられてグスタフ卿とスタンレーが現れました。

 スタンレーは紳士のそばに走り寄りました。

「‥執事長、グスタフ様をお連れしました。」

「ああ、スタンレー君。ご苦労。」

「貴様‥!ポラリス侯爵家の執事長が何を企んでいる!?エリーゼはどこだ!」

 興奮して執事長に飛びかかるグスタフ卿をスタンレーが必死にとめます。

「エリーゼ様はここで安全に保護しております。我々が誘拐したというのは嘘なんです。ゴディバル公爵家の方がよからぬ事を企む前に我々がここへお連れしました。

私は常に若者達の未来を憂いていたんです。だから、カーリー様とグスタフ様の事も同時に救いたかったのです。ご理解してください。」

「誰が何を企んでいるんだ?早く言え!」

 スタンレーはグスタフ卿を必死に抑えながら、無言でポラリス侯爵家の執事長の方を見ました。

「‥‥グスタフ様、ゆっくり説明しますからまずはそちらへ腰掛けて落ち着いてください。」

「くそっ!‥スタンレー、君は僕を裏切ってそちら側についていたのだな!よくも騙したな!」   

「グスタフ様、彼はポラリス侯爵家の執事長でもありますが、我々公爵家の影の者のリーダーでもあります。そんな彼がグスタフ様やエリーゼ様に害をなす事をする訳がありません。」

「‥‥はあ、分かった。とりあえず話を聞こう。何故エリーゼを誘拐した?‥僕をここへ連れてくる為なのか!?」

「そうです。それともう1人ここへお連れしたい方が‥。」

 執事長がそう言いかけた時、再び応接間の扉が開けられました。

 両脇を騎士に拘束されたまま中に入ってきたのは‥

 何時間か前に突然グスタフ卿に飛びついてきた謎の男でした。

「‥お前!」

 グスタフ卿が男を見て驚いている横で、その謎の男に駆け寄り跪く執事長の姿がありました。

「カーリー様、よくぞご無事で。」

「あっ、ああ。お前が言う通りあの島を逃げて来たが‥、シャバの世界が懐かしくてついはしゃいでしまった。‥途中でいなくなって心配かけたな。」

「カーリー?本当にカーリー兄さん‥か。」

「だからそうだって言ってるのに。‥久しぶりだな、グスタフ。」

「いや、でもカーリー兄さんは離島の施設で廃人状態だったはずのに‥。もう病気が治ったのか。」

「治ったと言うか‥。まあ、良いや。そう言う事にしておくか。」
 
 そう言うと、カーリーはグスタフ卿を躊躇いもなく抱きしめました。

「本当に会いたかったんだ。懐かしいな。‥まあ、積もる話は後にして。しばらくはこうして抱きしめさせてくれ。」

「‥‥。」

 グスタフ卿はまだこの状況をのみこめてはいませんでしたが、従兄弟のカーリーにおとなしく抱きしめられていました。





 

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