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ゲーテ王子の異変
しおりを挟むリリー様は、王妃教育を受けていた私のもとへ息を切らしてやって来ました。
「はぁ、はぁ、ちょっとルナール、ついて来なさい。」
リリー様はそう言って、強引に私の腕を引っ張り歩き出しました。
講師の方はリリー様に対し抗議をしますが、リリー様はそれを無視して私をどこかへ連れて行こうとしています。
私はリリー様の鬼気迫る様子に圧倒され、黙ってついて行く事にしました。
そして連れてこられた場所は、ゲーテ王子の部屋でした。ゲーテ王子はベッドの上で、足をおさえて呻いています。
「あの、これは‥‥。」
「ゲーテ様が急にこうなったのよ。あんたなら治せるんでしょ。早く治しなさいよ!」
リリー様はそう言うと、ゲーテ王子のベッドへと私の背中を思いっきり突き飛ばしました。
「‥呪いはかけた本人にしか解けません。」
私はこれが呪詛返しからくる症状だとすぐに分かりました。本来なら、呪いはかけられた側の体や精神をじわじわと蝕んでいくものなのです。
呪詛返しをされた側は、自分がかけた呪いが一気に返って来るのですから、痛みや苦しみも相当なものだと思われます。ですが、何故ゲーテ王子に呪詛返しが?
呪い‥‥。ニーチェ様にかけられた呪いの話しは、国王陛下に聞かされて知っていました。それとゲーテ王子のこの症状‥‥。
私は直感しました。ニーチェ様の呪いはゲーテ王子がかけたものなのだと。
ニーチェ様にかけられた呪いは、隣国へ留学中に解かれたと聞きました。
それが何故今頃になって、ゲーテ王子の身に戻って来たのでしょう。まさか、私がゲーテ様に施していた結界を、無意識の内に解いてしまっていたのでしょうか。
「ルナール、何呑気に考え事してんのよ!早く治しなさいよ、ゲーテ様が苦しんでるのよ!何とも思わないの?」
リリー様は、そう言って私の髪を掴んで引っ張り上げました。
「痛っ、やめて下さい。できるものなら私だって助けて差し上げたいのです。でも、これは‥‥。」
リリー様は、ゲーテ王子を治せの一点張りで、私の話を全く聞き入れてはくれませんでした。
私は観念しました。確かに苦しんでいるゲーテ王子があまりにも可哀想です。一か八か聖魔法を試してみる事にしました。
私は、ベッドの上で足をおさえて呻いているゲーテ王子の体に手をかざし、体中のエネルギーを集めて魔法を発動させました。
体中のエネルギーが渦を巻いて上昇してくるのが分かります。その渦が上昇し、腕から掌へと移動してくるのを感じました。
「ゲーテ王子、今私にできるのはこれが全てです。」
私はそう言って、ゲーテ王子に全てのエネルギーを注ぎました。
ゲーテ王子は、みるみる内に顔色が良くなっていき、足の痛みが消えたのか体を起こし始めました。そして、私が何をしている最中なのか悟った様子でした。
「ルナール、お前が僕を救ってくれたのか‥‥。」
私は自身の全てのエネルギーをゲーテ王子に注ぎ入れ、力尽きてしまいました。
遠のく意識の中、微笑んでコクンと頷きました。
私は知りませんでした。
ゲーテ王子は痛みに苦しむ中で、私から聖なるエネルギーを受け取っている最中に、自身の前世を思い出していました。
「ルナール‥お前は「ごん」だったのか‥‥。」
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