ごんぎつねが悪役令嬢に転生して、兵十の生まれ変わりの王子様にお詫びをし続けるお話

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国の結界が崩れたのに

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「ルナール、調子はどうだい?」

ニーチェ様は私の事が心配だからといって、昨日から何度も私のところへ来て下さいました。

「ニーチェ様、なんだかお城の中が騒がしいようですが、何かあったのですか?」

「‥国中に張られていた結界が、昨日崩れてしまったらしい。魔物が侵入してきて大変らしい。」

「あっ、私のせいで‥‥。」 

ニーチェ様が人差し指で、私の唇を押さえました。そして、少し意地悪そうなお顔で微笑み、私に言いました。

「ゲーテもリリーも、国民も皆、今まで君に甘えすぎていたんだ。君を虐げ苦しめながらも、自分達は君の恩恵にぬくぬくと浸っていたんだ。‥だから、たくさん思い知らせてやればいい。」

「‥‥。」

ニーチェ様、どうして私に何も言わせてくれないのですか。この国の結界を張りなおすには、私の力が必要なのに‥。

「ルナール、君の中のエネルギーは今空っぽの状態だ。その結果、国の結界が崩れたんだ。君のエネルギーが体内で徐々に回復さえすれば、また結界を張ることはできるはずだ。」

ニーチェ様が私の口元から手を離してくれました。

「分かるね、ルナール。今の君はエネルギー不足で何もできない事を自覚するんだ。だから諦めてまた眠るんだ。」

私は黙ったままコクンと頷きました。

「良い子だ、ルナール。」

ニーチェ様が私の額にキスをし、抱きしめてくれました。ニーチェ様の優しく温かい息遣いが首元に当たります。

私は自分の胸に手を当ててみました。こんなにドキドキしてる‥。私は両手をニーチェ様の背中に回してみました。

ニーチェ様の背中は、こんなにも大きいのですね。それに、ニーチェ様から陽だまりのような匂いがしてきました。

ニーチェ様の息遣い、広い背中、匂い、すべてがとても愛しく感じられます。

国の結界が崩れて、魔物達も侵入してくる事でしょう。そんな大変な時なのに、私とニーチェ様のまわりだけはとても平和でした。

私はニーチェ様の腕の中で、あまりの心地よさに眠ってしまいました。

「おやすみ、可愛いルナール。」

眠ってしまった私をそっとベッドの中に戻し、私の両頬にキスをすると、ニーチェ様は部屋を出て行かれました。

「この部屋には誰も近づけるな!」

「はい。」

ニーチェ様は、護衛の人に私の身を守るように頼んでくれたようです。




「リリー様、聖女様、国に結界を張って下さい。」

大勢の神官や貴族達が押し寄せて、ゲーテ王子の部屋の扉を叩きますが、相変わらずリリーは扉の外へ出られずに震えていました。

「ルナール、ルナールを呼べばいいのよ。あいつに結界を張らせてやるわ。‥でもどうやって呼べばいいのかしら?」   

「リリー、ルナールは僕を助ける為に力付きて倒れてしまったんだ。まだ当分は寝込んだままだと思うよ。‥君が結界を張ってくれないか。」

「‥ルナールがいないと無理なのよ!」

「何故?」

「‥それは‥。」

「ルナールが本物の聖女で、お前が偽物だからか?」

「そんな‥何でそんな事を言うの?」

「リリー、もう良いんだよ。君が聖女じゃなくても僕は気にしない。だから、正直に言ってごらん。」

「私は聖女じゃないの。ごめんなさい。ルナールが聖女だなんて許せなかったの。それに皆んなにチヤホヤされて嬉しかったし。」

「ああ、そうだね。」

「だから、私は聖女じゃないんだから、結界なんて張らなくても良いでしょう?私を助けて、ゲーテ様。」

「いや、駄目だ。」

「ゲーテ様!そもそもゲーテ様があんな事にならなければ、こんな事にはならなかったのに‥‥。」

「リリー、今何て言った?」

「ごめんなさい。」

リリーは以前とは違うゲーテ王子に戸惑いました。ゲーテ王子は、やはり何だか人格が変わってしまったかのようです。

こうしている間も国中に魔物が侵入してきて大騒ぎになっていました。

リリーは、国のことなど興味がないので、魔物が国へ侵入してきたとしても、お城にいる自分が襲われる事はないだろうと思って安心していました。

それに結界を張っておきながら、その結界を崩したルナールが悪いのだからルナールが責任を取るべきだという考えに至りました。

「ゲーテ様、私がルナールに頼んでみます。だから、私を皆んなに見つからないように、この部屋からそっと逃して下さい。お願いします。そろそろルナールも回復する頃だと思うのです。」

ゲーテ王子は、決してリリーの言う事を間に受けた訳ではないが、リリーを少し泳がせてどんな行動をとるのか見たくなり、言う通りにしました。

「ゲーテ様、ありがとうございます。」

そう言って、リリーは隠し扉を開けて、秘密の通路を使って、お城の庭へ出ました。

リリーはすぐにバラード様とラッセン様を探しました。

お二人をうまく唆せば、きっとルナールに国へ結界を張るように強く脅してくれるはず。そう信じて、二人のもとへ急ぎました。

ゲーテ王子の隠密があとをつけているとも知らずに。
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