11 / 21
国の結界が崩れたのに
しおりを挟む「ルナール、調子はどうだい?」
ニーチェ様は私の事が心配だからといって、昨日から何度も私のところへ来て下さいました。
「ニーチェ様、なんだかお城の中が騒がしいようですが、何かあったのですか?」
「‥国中に張られていた結界が、昨日崩れてしまったらしい。魔物が侵入してきて大変らしい。」
「あっ、私のせいで‥‥。」
ニーチェ様が人差し指で、私の唇を押さえました。そして、少し意地悪そうなお顔で微笑み、私に言いました。
「ゲーテもリリーも、国民も皆、今まで君に甘えすぎていたんだ。君を虐げ苦しめながらも、自分達は君の恩恵にぬくぬくと浸っていたんだ。‥だから、たくさん思い知らせてやればいい。」
「‥‥。」
ニーチェ様、どうして私に何も言わせてくれないのですか。この国の結界を張りなおすには、私の力が必要なのに‥。
「ルナール、君の中のエネルギーは今空っぽの状態だ。その結果、国の結界が崩れたんだ。君のエネルギーが体内で徐々に回復さえすれば、また結界を張ることはできるはずだ。」
ニーチェ様が私の口元から手を離してくれました。
「分かるね、ルナール。今の君はエネルギー不足で何もできない事を自覚するんだ。だから諦めてまた眠るんだ。」
私は黙ったままコクンと頷きました。
「良い子だ、ルナール。」
ニーチェ様が私の額にキスをし、抱きしめてくれました。ニーチェ様の優しく温かい息遣いが首元に当たります。
私は自分の胸に手を当ててみました。こんなにドキドキしてる‥。私は両手をニーチェ様の背中に回してみました。
ニーチェ様の背中は、こんなにも大きいのですね。それに、ニーチェ様から陽だまりのような匂いがしてきました。
ニーチェ様の息遣い、広い背中、匂い、すべてがとても愛しく感じられます。
国の結界が崩れて、魔物達も侵入してくる事でしょう。そんな大変な時なのに、私とニーチェ様のまわりだけはとても平和でした。
私はニーチェ様の腕の中で、あまりの心地よさに眠ってしまいました。
「おやすみ、可愛いルナール。」
眠ってしまった私をそっとベッドの中に戻し、私の両頬にキスをすると、ニーチェ様は部屋を出て行かれました。
「この部屋には誰も近づけるな!」
「はい。」
ニーチェ様は、護衛の人に私の身を守るように頼んでくれたようです。
「リリー様、聖女様、国に結界を張って下さい。」
大勢の神官や貴族達が押し寄せて、ゲーテ王子の部屋の扉を叩きますが、相変わらずリリーは扉の外へ出られずに震えていました。
「ルナール、ルナールを呼べばいいのよ。あいつに結界を張らせてやるわ。‥でもどうやって呼べばいいのかしら?」
「リリー、ルナールは僕を助ける為に力付きて倒れてしまったんだ。まだ当分は寝込んだままだと思うよ。‥君が結界を張ってくれないか。」
「‥ルナールがいないと無理なのよ!」
「何故?」
「‥それは‥。」
「ルナールが本物の聖女で、お前が偽物だからか?」
「そんな‥何でそんな事を言うの?」
「リリー、もう良いんだよ。君が聖女じゃなくても僕は気にしない。だから、正直に言ってごらん。」
「私は聖女じゃないの。ごめんなさい。ルナールが聖女だなんて許せなかったの。それに皆んなにチヤホヤされて嬉しかったし。」
「ああ、そうだね。」
「だから、私は聖女じゃないんだから、結界なんて張らなくても良いでしょう?私を助けて、ゲーテ様。」
「いや、駄目だ。」
「ゲーテ様!そもそもゲーテ様があんな事にならなければ、こんな事にはならなかったのに‥‥。」
「リリー、今何て言った?」
「ごめんなさい。」
リリーは以前とは違うゲーテ王子に戸惑いました。ゲーテ王子は、やはり何だか人格が変わってしまったかのようです。
こうしている間も国中に魔物が侵入してきて大騒ぎになっていました。
リリーは、国のことなど興味がないので、魔物が国へ侵入してきたとしても、お城にいる自分が襲われる事はないだろうと思って安心していました。
それに結界を張っておきながら、その結界を崩したルナールが悪いのだからルナールが責任を取るべきだという考えに至りました。
「ゲーテ様、私がルナールに頼んでみます。だから、私を皆んなに見つからないように、この部屋からそっと逃して下さい。お願いします。そろそろルナールも回復する頃だと思うのです。」
ゲーテ王子は、決してリリーの言う事を間に受けた訳ではないが、リリーを少し泳がせてどんな行動をとるのか見たくなり、言う通りにしました。
「ゲーテ様、ありがとうございます。」
そう言って、リリーは隠し扉を開けて、秘密の通路を使って、お城の庭へ出ました。
リリーはすぐにバラード様とラッセン様を探しました。
お二人をうまく唆せば、きっとルナールに国へ結界を張るように強く脅してくれるはず。そう信じて、二人のもとへ急ぎました。
ゲーテ王子の隠密があとをつけているとも知らずに。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢が睨んでくるので、理由を聞いてみた
ちくわ食べます
恋愛
転生したのは馴染みのない乙女ゲームの世界だった。
シナリオは分からず、登場人物もうろ覚え、タイトルなんて覚えてすらいない。
そんな世界でモブ男『トリスタン』として暮らす主人公。
恋愛至上主義な学園で大人しく、モブらしく、学園生活を送っていたはずなのに、なぜか悪役令嬢から睨まれていて。
気になったトリスタンは、悪役令嬢のセリスに理由を聞いてみることにした。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる