最弱の少年は、最強の少女のために剣を振る

白猫

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第1章

第1章 8

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 部屋に戻って数分。俺は、ティナに泣きつかれていた。
「大丈夫。さっきみたいな無理はしてないから。だから安心してくれ。な?」
「……無理してないなら、何してたの?レイが嫌いな人のところに行って」
 痛いところを突いてくる。クヴィナは昔から苦手で、この学園に入ってからは、さっきのものを含めても2回か3回しか直接話をすることはしていない。
「交渉に行ってたんだよ。俺が戦いに行けるように」
「ダメ、そんなことしたらダメ。また無理をするのはやめて」
 ティナは、懇願するようにそう言った。その目に何を思っているのかは、俺には分からない。
「もう、私のために辛い思いをして貰いたくないよ」
「違う。これは俺自身のためにやっていることだ」
 一つ、嘘をついた。いや、あながち間違いではないのかもしれない。俺は、ティナを自分がいるための理由にしているのだから。ティナが俺に頼ることがなくなってしまったら、幼馴染みに縋っているだけの惨めな名家出身の最弱の少年になってしまう。そんな肩書きで嘲われる対象としてこれから生活していく。それだけは嫌だった。今でも、周囲から見ればそうかもしれない。だが、認めてくれている人だって居ないわけじゃない。ティナのそばにいて、約束を果たす。それだけを支えにして、今までやってきたのだ。これは依存だと、自分でも分かっているつもりだ。
「俺が戦場に出れば、まわりが認めてくれる。そうなれば、俺のクソ親共も少しは──!?」
甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。見下ろせば胸元には、ティナの絹のような髪がある。そして体には、柔らかな感触。抱きついてきたティナがこちらを見て呟く。
「じゃあなんで、そんなにつらそうな顔するの?」
 「そんなことはない」と、否定しようとしたが、俺を上目遣いに見ているティナの瞳に映る俺の顔は、醜く歪んでいた。
「レイのために、色々してきたんだけど、やっぱり、無駄だったのかなぁ」
 哀しそうに、寂しそうにティナがポツリと言葉をこぼす。
 違う、そうじゃない。ティナがどれだけ努力をしているのかは、俺だって知っている。ティナのそんな顔を見たかったわけじゃない。そんな顔で見ないでくれ。
「これは、俺が、決めたことだ」
 それでも、と、ティナに自分の意思を伝えるため、あるいは、自分に言い聞かせるように言葉を紡いでいく。今の時点で、この選択はきっと間違っている。でも、ここでティナの優しさに甘えてしまったら、結局何も変わらない。
「いつまでも、ティナに頼ってばかりじゃかっこ悪いだろ?」
 ティナに向かって、精一杯の笑顔でそう言った。ただ、その目だけは、どうしても見ることができなかった。
 ティナは、俺の言葉に、「そうだね」とだけ言って笑い返してくれた。結局、自分で決めたようでティナに甘えてしまっているが、そこは仕方ないと思いたい。
「……けど、本当に無茶するような事があったら、私はどんな手を使ってでもレイを止めるからね」
「あぁ、わかってる。そうならないように気を付けるよ」
「気を付けるだけじゃなくてそうならないようにしてね?」
「……あぁ」
 ティナの確かめるような言葉に少し言葉を詰まらせてしまった。だが、俺の答えを聞いて、満足したようにはにかむと、「じゃあ寝よっか」と俺の布団に入る。俺も布団に入り、「おやすみ」と言って目を閉じた。
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