SING!!

雪白楽

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02 声に値段をつけるのは、だれ? ④

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 で、俺としては良い感じに終わったと思ってたんだけど?

「なんで、同じ高校なわけ……」

 眼の前には、昨日別れたばかりのトサカ女が、ニコニコと能天気な顔で笑っていた。今日はさすがにトサカ頭じゃなくて、普通の黒髪だけど。
 向こうから話しかけられなかったら、永遠に気付けないレベルで学校でのトサカ女は地味だった。永遠に話しかけてこなけりゃよかったのに。

「社長に受けろって言われてたんです。芸能系の学校でもないのに何でかなーって不思議だったんですけど、こういうことだったんですねっ!」
「敬語。ここ、一般人の学校だから」
「あ、はい。気をつけます……気をつける、ね?」

 そこはかとなく、これからの学校生活に不安しかない。まあ、学校なんてどうでもいいけど。

「そもそも、完全にオフモードの俺にどうやって気付いたわけ?今まで気付かれたことないし、気付けるとも思えないんだけど。本名だって教えてないし……社長に聞いた?」
「え、昨日会ってるし……まあ、見た目じゃ確信はなかったんだけど、出席とる時の声で」
「変態か」

 俺の言葉に、彼女はまっすぐ俺の目を見つめて言った。

「みつけるよ。キミの声なら、どんな場所にいても」
「っ……」

 いやいやいや、なに良い感じの話になりかけてんの。俺もなに『トゥンク』とかしてんの。鼓動の音にしても気持ち悪いんだけど。
 どっちみち、悪夢なことに変わりはないでしょ……学校でも仕事でも、どこでもこのハッピートサカ女がまとわりついてくるってわけ?

「……さいあく」
「Ruka?」

 顔を覗き込んでくるキョトンとしたコアラ顔から目を逸らす。

「その名前で呼ぶの、やめて。何のためにオンとオフ、姿変えてると思ってんの」
「じゃあ……はるか?」
「いきなり名前とか、馴れ馴れしいと思わないの?ほんと、ポンコツ……まあ、いいけど」

 本名で呼ばれたのなんて久しぶりで、なんだか自分の名前じゃないような気がした。

「にしても、なに、そのどんくさいメガネ。度入ってないでしょ。いっぱしに変装のつもり?」

 そう、俺がずっと気になっていたことその一。いや、その二とかないけど。
 とにかく、学校でのトサカ女は野暮ったいメガネにボサボサの黒髪が、逆に目立つんじゃないかってくらいにダサかった。

「う、その……これは、鎧?みたいなもので。あと、こっちが素で、あっちが変装というか……変身なの!」

 うわ、ダメだ。これは絶対に電波で、宇宙人と交信してるやつだ。俺は人間だから離れとこうと思う。

 ぐいっ

「あっ、引かないで!自分でもその、おかしいのは自覚してるから……」
「分かった。いや、分かんないけど、とりあえず離れろ」

「ええっと、その……遥、はどこ行くの?」
「は?」

 トサカ女の視線をたどると俺の手に……は、スクールバッグ。

「って、ヤバい。もう、こんな時間じゃん」

 現場入り遅れたら、絶対にこいつのせいだ。俺は盛大に舌打ちして、廊下を全力でダッシュし始めた。

「遥、午後からの授業はっ?」
「出ない。仕事。学校には連絡済み……ってか、なんでついてきてるわけっ!」

 いつの間にか当たり前のような顔で並走しているトサカ女に、半分叫びながら囁くという芸当をこなしながら質問する。てか、いつの間にギターケースとってきたんだっつーの。

「昨日マネージャーさんが電話してきて、これからしばらく遥の休み申請入れるときは、私も一緒に入れてくれるって!だから私も午後の授業サボるのっ!」
「お前、仕事じゃないでしょっ?てか、アイツなに勝手なことしてくれてんのっ」

「社長の指示だって!」
「あんの、クソギツネぇぇぇええっ!」

 かくして俺の平穏な日常は打ち破られた。

 この、どうしようもない『天才』の訪れとともに。

 これは、決して俺の物語なんかじゃない。選ばれた音……最初から最後まで、その音のためだけに廻り続ける世界。これは、天才のために紡がれた『世界』だ。









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