SING!!

雪白楽

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06 この楽譜に、続きはないから

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 私は、パンドラのはこを開けてしまった。

 もう二度と、戻れない。何も知らなかった、幸福な世界には。



 *



「なに、今日の音」
「ごめんなさいっ!」

 全身が、震える。ライブの後なのに、こんな風に最悪な悪寒を感じてるなんて初めてのことだった。ルカの蔑むような視線のせいじゃない。私自身が、取り返しのつかないことを仕出かしかけたと、自覚していたから。

「謝って欲しいなんて言ってないんだけど」
「その、でも、ミス何回もしちゃって、集中できてなくてっ」

 深々とした溜め息が、直角に下げた頭の上から降ってくる。

「ライブでミスすんのは、普通のことだから別に怒ってない。お前の感情、音に持ち込むなって言ってんの。それって、お前が一番嫌がってることじゃなかったっけ」
「そう、です」
「……分かってんなら、いい。次、半端なマネしたら絶対降ろすから……んで、このバカコアラが全然集中出来てなかった要因」

 言葉を切って、ルカが私から視線を移した。

「このアンポンタンが音にバラつき出んのは分からなくもないけど……アンタは何なんですか、スガさん。ファンの耳はある程度誤魔化せても、俺の耳は騙せない」

 鋭い視線を向けられたスガさんは、いつも通りの読めない表情を浮かべながらも、明らかに体調が悪そうだった。

「いやぁ、ルカには参ったわ。ちょーっと三人に言わんといけんことがあってさ、お兄さん、ガラにもなく緊張しちゃったわけよ」
「茶化すな」

 ウツミさんが低く唸るように叩きつけた声に、スガさんがスッと恐ろしいくらいの無表情になった。

「前から言おうと思ってた。でも、こういうのって早い方がええよな……俺、ベースやめることにしたから」
「……は?」

 ルカが言葉から意味を見失って硬直した。

 ただ、私はあまり驚かなかった。他の二人が受けたはずの衝撃の代わりに『やっぱり』という納得を感じていた。だから、私は確信を持って口を挟んだ。


「スガさんが『I-kis-0アイ・キス・オー』だから」


 私が落とした言葉が、確かに世界を壊す音を、聞いた。



 *



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