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雪白楽

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07 バラバラの五線譜を抱き締めて ④

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「……おい、ちょっと。なに二人の世界作っちゃってんの、キモいんですけど」
「てか、なに、一色ってマジに『Ruka』なわけ?」

 半分忘れかけていた問題に、今更のように『どうしよう』とルカの顔を見上げると、ルカは呆れたような表情で溜め息を吐いた。

「……ったく、相変わらずポンコツ」

 囁くような声で私にそう告げて、ルカは堂々と彼らに向き直った。

「俺達は『Ruka&Leni』ファンクラブのメンバーだ」
「「「……は?」」」
「じゃ、そういうことで」

 そう言うと、ルカはグイっと私の手を引いて走り出した。

 思い出したみたいに後ろから追いかけてくる声もすぐに遠くなって、景色がどんどん通り過ぎていく。すれ違う生徒達の視線が突き刺さっても、強く握られた手が熱くて何も気にならなかった。

 そのまま学校の外に出ちゃっても、まだルカは走り続けていた。


「ルカ、鞄とかっ」
「どうせ大事なものなんて何もないでしょっ」

(おっしゃる通りで……)

 私の持ち物で大事なものなんて、そもそもギターくらいしかなかった。今はそれが手元にないんだから、何を置き忘れてきたって怖くはない。

 しばらく走り続けて、人通りの少ない場所まで来てから、ようやくルカは足を止めた。


「はぁはぁっ……ここまで来れば、さすがに教師とかも追いかけて来ないでしょっ」
「そう、だねっ……助けてくれてありがとう、ルカ」
「別に、お前が余計なことして俺に害が及びそうだったから、先手を打っただけ」
「うっ……」

 私が落ち込んで肩を落とすと、ルカの怒ったような声が頭の上から降ってきた。

「大体、あんな大人数に一人で立ち向かうとかバカなの?戦力差考えてよね」
「……ごめんなさい」

 確かに、あのタイミングでルカが来てくれなかったら、大変な目にあっていたかもしれない。

「でも」

 言葉を切って、ルカが私の顔を覗きこんだ。

「俺達の音楽を、大事なものって言い切ってくれたのは……嬉しかった。俺の大切なもの、守ろうとしてくれたんでしょ。そこは感謝しとく」


 ポン、と。

 優しい手の平が、頭にのせられた。

「一人で、よく頑張った」

 視界が、ボヤける。これ以上情けないのはイヤだって思うのに、一度零れ始めた涙は止まってくれなかった。

「うっ、うわぁあああああぁんっ」
「……ああもう、色気もクソもない泣き方しないでくれる。恥ずかしいでしょうが」

 そんなことを言いながらも、頭を撫でてくれる手はどうしようもなく優しくて。

 だからますます泣いてしまっても、それ以上ルカは文句も言わずに、ただそばにいてくれた。それだけで、よかった。

 私が泣き止む頃、ルカはポツリと独り言みたいに呟いた。

「お前のギター、ウツミが預かってるから」
「……うん。ウツミさんから聞いてる」
「そう……分かってるなら、いい」

 ルカはそう言うと「じゃあね」と言って帰ってしまった。

 一人になっても、まだ手の中にルカのぬくもりが残っていた。

 どうすればいいか、じゃない。自分が『どうしたい』のか、なんだ。あの場所に戻れるかどうかは、私次第……『Masamune』に実力なんて足りてないけど、きっと大事なのは私の心の方だ。


(立ち止まるな。ぐちゃぐちゃイロイロ考えるな。突っ走れっ)


 その方が、ずっと私らしい。

 顔をあげて、いま一番やりたいことに向かって走り出す。

 私は必ず、私の居場所を取り戻してみせる。いま、ここから。



 *


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