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第3話 見た目

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 カイルに告白された次の日も、街に用事があったため、外出していた。昨日カイルに出会った場所に、またカイルがいることに気がついた。
「ライラ様、こんにちは」
「こ、こんにちは」
「僕の恋人になってもらえませんか」
 カイルは昨日の会話がなかったかのようにまた告白してきた。
「昨日、お断りしたはずですが」
「一晩たって気が変わったかもしれないし」
「変わってません。それじゃ」
「屋敷にお一人で住んでらっしゃるんですか?」
 ぎょっとして振り返った。
「なんで知っているの」
「この道の向こうなんて、屋敷一軒だけですし」  
 たしかに。少し考えれば私があの屋敷に住んでいるのはすぐにわかる。 
「あの大きな屋敷に一人じゃいろいろ不便じゃありませんか? 困ったことがあればお力になりますよ」
「いいえ、大丈夫ですから」
 私は逃げるようにその場を去った。逃げるように去っても、追いかけて来ないのはありがたかったが、それでも怖い。
 どうしよう。女が一人で暮らすというのは思いの外怖いものだわ。もう屋敷から外に出るのが怖い。カイルは私がここに住んでることなんてとっくに知っているのだ。
「どうしよう。屋敷に忍び込まれたりしたら困るわ」
 最低最悪、屋敷を売って引っ越そうか、などと思案していた。
 それにしても、カイルはどうしてあんなに私に執着しているのかしら。なにも私のような年上の女に付きまとわなくても、もっと年の近い娘と付き合えばいいのに。しかも、私は子供も産めないというのに。
 もし、私が子供ができない身だと知ったらカイルは離れていくだろうか。だけど、そのためにわざわざこの話を自分からはしたくないと思った。

 その次の日もカイルは同じ場所で同じことを言ってきた。
「あなた、私の一体何がいいの」
 思わず尋ねてしまった。
「見た目です」
 あまりにも見も蓋もない答えに、少し驚いてしまった。
「ライラ様のような綺麗な方、初めて見ました。だからです」
「だけど、私はあなたと年が離れてるし」
「年齢ならほんとに気にしませんよ。僕、前付き合っていた人がライラ様より年上の女性だったので。ライラ様はまだお若い」
「な……」   
 カイルは、見た目は純朴そうで、女性との交際遍歴があるようには見えなかったが、そうでもないようだ。
「その年上の女性とはどうしてお別れしたの」
「もともと不倫でしたから。向こうに旦那がいたので」 
「まあ……」
 過去を淡々と暴露するカイルに驚きを隠せなかった。小動物のようだと感じていたが、実態はとんでもない人かもしれないと感じた。
 そして、この感覚は正しかった。カイルは素朴な見た目に合わない面を多々持ち合わせていたのだ。
 
 
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