氷の花嫁

コサキサク

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第5話 冷たい彼女

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夜再び僕が店に入るなり、ユーリが駆け寄ってきた。
「カイ!お疲れ様!」
ユーリは僕の腕を引っ張り店の奥に連れて行こうとする。てっきりカウンターに連れてってくれるのかと思いきや、僕が今まで入ったことがなかった店の奥に案内しようとしている。
「ユーリ、どこ行くの?この先って店の人しか入れないんじゃ・・・」 
「ボクの部屋」 
「えっ!?」
「来て。こっちだよ。」
随分展開が早くないか?結婚すると決めたとはいえ、いきなり部屋で二人きりになろうとか。僕はいいけど、ユーリがこんな行動するのは意外だな、と思った。

店の奥の狭い階段を登り、廊下の突き当たりの部屋の前に来た。ここがユーリの部屋のようだ。
「どうぞ。」
ユーリの部屋は、他の部屋よりひんやりしていた。こじんまりした部屋で、家具は全部白くて、真ん中にテーブルと椅子があり、奥にベッドがあった。それ以外の家具は小さいタンスだけの簡素な部屋だったが、壁紙が水色で雪の結晶の柄のもので、その点はユーリらしかった。
「あのね、カイの好きな食べ物、いっぱい作ったよ。」
テーブルの上には、料理がたくさんおいてあった。色んな具が入ったサンドイッチやローストビーフが載ったサラダ、フルーツの盛り合わせなどがあり、真ん中にどーんとかき氷が置いてある。
「今日はね、お祝いだから、お代はいいってフレイが言ってくれたの。だからいっぱい食べて」
ユーリが照れながら言った。その様子が最高にかわいくて、体が熱くなった。僕は、早速椅子に座ってユーリの手料理を食べ始めた。
「おいしい?」
「うん、すごく、おいしいよ。」
昨日一緒にユーリと出かけて知ったのだが、氷妖精は食事しないらしい。水だけで生きられるそうだ。ユーリは、正面に座り僕が料理を食べる姿をただ笑顔で見ている。ユーリは、自分が食べるわけでもないのに、僕のためだけにわざわざこんなに料理を作ってくれたのだ。僕は、嬉しくて、あっという間に料理を平らげた。
「ごちそうさま。全部すごくおいしかった。ありがとう。」
「えへへ、奥さんになったらもっといろいろなもの、作ってあげるね。」
「ユーリ・・・」
つい数時間前まで、心さえ繋がってればなんて思っていたのに、かわいいユーリと部屋で二人きりになると、僕の心はあっさり変わってしまった。
「ユーリ、こっち来て」
「え?なんで?」
「いいから、僕の隣に来て。」
ユーリが僕の隣にくるなり、僕は立ち上がってユーリを抱きしめた。服の上から抱きしめるぐらいなら、ユーリの体は冷たくても支障はなかった。
「ユーリ、好きだよ。」
「カイ・・・」
ユーリも僕の背中に手を回してくる。
「ボクも、カイのこと、好きだよ。」
ユーリが僕を見つめて言った。

僕はユーリの真っ白で冷たい唇にキスした。

冷たくて、柔らかくて、気持ちいい。かき氷を始めて食べた時の衝撃が蘇った。

・・・なんだ・・・人間の女の子より・・・こっちの方がずっといいじゃないか・・・

僕は静かにそう思った。気がつくとユーリが少し苦しそうにしているので唇を離した。少し深く踏み込み過ぎたみたいだ。
「ちょっと急だったかな。嫌だった?」
「い、嫌じゃないよ」
ユーリは照れくさそうだが、離れようとはしなかった。
「じゃあ、もっかいしよ」
「え?う、うん」
もう一回キスしながら僕は奥のベッドを見た。最後までできなくてもせめてもう少し・・・
という考えが出てしまい、ユーリの胸を服の上から触ってしまった。するとユーリに軽く突き飛ばされて、
「こういうのはほんとに結婚してから!」
頬を膨らませて怒り出した。さすがにキス以上は考えてなかったみたいだ。ちょっと残念だけど、ユーリらしいかわいい考えに和んだ。
「わかった、今日はこれで帰るね。」
僕はユーリの頭を撫でた。髪はそんなに冷たくない。

僕はユーリと一緒に部屋を出た。廊下を歩いていると見たことない男とすれ違った。その男は僕を見るなり
「おう、あんたがユーリの旦那か」
と声をかけてきた。誰?という顔をすると、
「ああ、俺はグレイブだ。フレイの旦那だよ。」
この人が、と思った。炎妖精フレイ店長と結婚した人間ってどんな人かと思っていたが、一目見ていろいろ察した。グレイブはガタイがよくて、顔以外肌が見える部分には全部タトゥーが入っていて、額だの手の甲だの痛そうなところにピアスがある。見るからにやばい男だった。痛いとか熱いとか、刺激が大好きなタイプなんだろう。
「あんたは、見た目は普通なんだな。」
グレイブは僕をまじまじ見ながら言った。
「まあ、変態旦那同士、仲良くやろうぜ。」 
グレイブが握手の手を差し出した。昨日の僕だったら、一緒にしないでくれと思っただろう。

だけど、今の僕はグレイブに通じるものを感じていたから、静かに握手しておいた。







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