授業中にこっそり何かを食べている隣の席の金髪派手ギャル甘露さんと陰キャな僕のお菓子な関係

野谷 海

文字の大きさ
3 / 9

第1話 タラタラしてんじゃねーよ

しおりを挟む


 人は、どのラインから他人を友達と呼び始めるのだろうか?

 挨拶をしたら?
 10分以上話したら?
 連絡先を交換したら?
 
 他にも昼休みに焼きそばパンを買ってあげたり、お金を貸してあげたりなど、人それぞれの指標があることだろう。

 でも、高校生である僕が自分の中で定めている友達の定義はこうだ。

『休み時間に中身のない会話をしたり、放課後どこかへ一緒に遊びに行く人のこと』

 だから、僕の定義に当てはめるならば、僕と甘露さんは決して友達ではない。

 なぜなら僕たちは、授業中にしか会話をしないし、放課後どこかへ遊びに行くような関係性でもないからだ。

 強いて言うなら、持ち寄ったお菓子を交換したりすることがあるくらい。

 だからきっと友達ではないし、向こうも同じように思っているはず。それに、僕なんかがクラスの人気者の女子と友達になろうなんて考えること自体が分不相応なんだ。授業中だけでもお喋りが出来ているだけで、僕は十分に幸せ者だ。これ以上を望むなんて、きっと天罰が下るに違いない。

 ――そう、思っていた。
 

 5月の中旬、とある月曜日の5時限目のことだった。

「ねぇ塩野、いつになったらウチを駄菓子屋に誘ってくれんの……?」

 国語担当の老教師である立花先生が板書をしている隙に、甘露さんが僕の机の脚を軽く小突いてから、言った。

「へ……?」

 自分でもマヌケだと思う程の、素っ頓狂な声が出た。

「へ……?   じゃないし。前に今度誘ってくれるって言ったじゃん。塩野の今度はいつのことなんですかー?」

 甘露さんは珍しく仏頂面を浮かべて僕に難癖をつける。

「で、でもあれは、ただの社交辞令かと……」

「じゃあ塩野はウチに嘘ついてたってこと?」

「う、嘘じゃありません!   冗談だと勘違いしていただけで……」

 僕のたじろぎながらの弁明に、甘露さんは「ふーん」と、疑惑の目を一瞬向けるも、その表情はすぐに穏やかさを取り戻した。

「ねね、じゃあ今日は!?」

「で、でも、祖母の駄菓子屋は本当に今にも潰れそうなオンボロなんです!」

 こうでも言えば「なーんだ……」と、肩を透かして諦めてくれると思ったのに、当てが外れるどころか、甘露さんの目に更なる輝きを与えてしまった。
 
「えー、それ最高じゃん!   最近そんなお店全然見かけなくなったし、逆に超レアだよ!」

「な、なんでそんなに僕んちなんかに来たいんですか……?」

「だってウチ、お菓子大好きだもん!!」

 微かに……ほんの少しだけ、身の程知らずな淡い期待を抱いていた愚かな僕へ強烈なボディブローをお見舞いするかの如く、甘露さんの弾けるような満面の笑顔が突き刺さる。

 うっかり見惚れて……声も出せない。

 うっとり見惚れて……体は動かない。

 すっかり見入って……時間が止まる。

「ちょっと塩野、急にボーッとしてどしたの?」

「甘露さん……口にチョコついてます……」

「え!?   嘘!?   どこ!?」

 甘露さんは電光石火の速さで手鏡を取り出し口元をティッシュで拭った。クシャクシャに丸められ、ノートの上に転がるティッシュペーパーは、ほんのり薄紅色に染まっている。

 その仕草が、妙に色っぽかった。

 チョコを拭った後も彼女は執念深く入念に、手鏡で自分の口元を凝視しながら溢す。

「もー、だからさっきからウチのことガン見してたのー?   もっと早く教えてよー!」

「す、すみません。言い辛かったので……」


 ここで一旦会話は途切れる。

 こんなのこれ以上身が持たない。良かった……助かった……と、ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間。

「ねぇ……さっきの返事、まだ……?」

 慌てて首をグルンと右へ向けると、甘露さんはこちらを見てもいなかった。でもその横顔は、僅かに憂いを含んでいるかのようで。

「え……えっと……」

「ウチが行ったら、迷惑だった……?」

 尚も彼女と目線は合わない。

 ここで僕が絞り出した精一杯の言葉は、まるで借金取りに追われる債務者のような、全くもって情けのないものだった。

「い、1週間だけ、時間を下さい……」

「は、なんで?」

 ここでやっと視線が合うものの、不可解極まりないと、甘露さんの顔に書いてある。

「僕にも気持ちの準備というか、店も汚いですし、少しでも掃除して綺麗にしておきたいと言うか……」

「そんなのウチ、全然気にしないよ?   むしろそっちのほーが老舗って感じするじゃん!」

「僕が嫌なんです!!」

 思わず、声を張ってしまった。

「ちょっと塩野声おっきい!   しーッ!   いくら耳の遠い立花先生でもそれは流石に聞こえちゃうって!」

「あ、すみません……!」

 僕らが揃って教壇の方を見ると、立花先生は呑気に窓から雲を見上げている。

 フーッと、安堵の息を吐くのも同時だった。

「まぁ塩野がそー言うなら仕方ないね。じゃ、来週の月曜日ってことで。ドタキャンとかなしだかんね?」

「分かってます……」

「これ、食べる?」

 少しぶっきらぼうに甘露さんが僕へスッと向けてきたのは、魚のすり身を原材料としたピリ辛風味の駄菓子だった。

「あ、ありがとうございます……」

 単なる偶然なのかもしれないけれど、僕はどこか急かされているような気分になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。

甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。 平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは── 学園一の美少女・黒瀬葵。 なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。 冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。 最初はただの勘違いだったはずの関係。 けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。 ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、 焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...