4 / 9
第2話 きのこたけのこ
しおりを挟む――人は何故、争い合うのだろう。
甘露さんと駄菓子屋へ行く約束をした翌日、世界史の授業中に僕はそんなことへ思いを巡らせていた。
生まれた国だったり、宗教だったり、文化の違いはあれど、どうしてもっと分け合おうとか、分かり合おうと思えなかったのだろう。
人類の歴史は戦争の歴史だなんて言われていたりもするし、事実今日でもこの世界のどこかでは争いが繰り広げられている。
「ねえ塩野、戦争しよ?」
そうそう戦争……
「って、はぁ!?」
僕が堪らず目をかっぴらいて反応すると、よほど凄まじい形相だったのか、せっかく声をかけてくれた甘露さんまで驚かせてしまった。
「えっ!?」
「あっ、すみません、考え事してて……それで、なんでしたか?」
「きのことたけのこ、どっちが好き?」
彼女は両手に2種類のお菓子を握っていた。
「たけのこ……ですね」
「じゃあ、戦争だ」
物騒な言葉に反して、甘露さんはなぜか嬉しそうにニコニコしている。
「ってことは、甘露さんはきのこ派でしたか」
「ううん、どっちかと言うとたけのこ派。でもきのこも好きだよ」
「え? じゃあ戦争にならなくないですか?」
「ウチにとってのきのこたけのこ戦争はね~、どっちがより美味しいかじゃなくって、この論争をする側の人間がどのくらいこのお菓子を愛しているかを競う勝負なの!」
「なるほど……どちらか一方を蹴落とすのではなく、良い面だけに目を向けるということですね?」
「そだよ。そっちのほーがみんな幸せでしょ?」
「流石です甘露さん。どうやったらそんな考えに至れるのか、純粋に興味があります」
「だって本来のアレってさ、極論言っちゃうと男と女はどっちが偉いかみたいな質問だと思うんだよねー。だからどっちがいいか、じゃなくって、どこが好きかで語れよ! っていうか……ごめんなんか今マジレスしすぎた?」
この人はもしや、マザーテレサの生まれ変わりなのかもしれない。いや、きっとそうに違いない。彼女を次期総理大臣に推せば、しばらく日本の平和は守られることだろう。
感心している僕をよそ目に、甘露さんは勝手に戦争をおっ始める。
「じゃあウチからいくね! 朝昼晩3食全部たけのこでも3日は飽きずに食べられます!」
これ見よがしに勝ち誇った顔を向ける甘露さんは、更に僕を挑発するかのように手の平を上にして指をクイクイっと折り「かかってこい」とでも言いいたげなポーズを見せる。
すぐには対抗できそうなエピソードが思い浮かばずに僕が言葉を詰まらせていると、次に彼女は両手を広げて一本ずつ指を折り始める。カウントダウンが残り3まで進んだ所で、やっと考えが纏まった。
「えーと……1日最高3パック1人で食べたことがあります!」
必死だったのもあり、また声のボリュームが大きくなってしまう。案の定、世界史の松本先生から指摘が。
「おいそこ、私語は慎みなさい」
「す、すみません!」
おずおずと隣の席を覗くと、彼女は怪訝な顔で口をパクパクと開閉する。音などなくても「バカ」と言われているのが分かった。
思わぬ第三勢力の介入によって突如として終戦を迎えてしまったことに、僕は多少のもの寂しさを覚えた。
やむ無く授業に集中し始めた頃、コトン……と、僕が開いていた教科書の上に四つ折りになったピンク色の付箋が着陸した。
開いてみるとそこには『全校生徒の前で屋上から愛の告白が出来るくらい大好き!』と、付箋の上部に寄せて書かれている。
愚かな僕は一瞬、ラブレターかと錯覚する。でも違う……これはただ、再戦を申し込まれているだけの言わば果たし状、あるいは赤紙。同じ手紙でも意図は真逆なのだ。
そんなことよりも、女子と手紙のやりとりなどした事のない僕は、心臓の高鳴りに押し潰されそうになる。
そんな極限状態の中で、なんとか捻り出した次の一手がこれだった。
『たけのこを大量に重ねてベッドにして、その上で寝るのが夢です!』
付箋を再度四つ折りにして、なるだけ優しく隣の席へと投げる。それを読んだ甘露さんはクスリと笑い、シャーペンを走らせた。
すぐにこちらの領土へと返ってきた付箋に書き加えられていた『一緒のお墓に入ってほしい』という言葉を見て、僕は堪え切れずに吹き出してしまう。
これには流石に参りましたの意味を込め、無言で首を垂れる他に選択肢が見当たらなかった。
甘露さんは大層ご満悦の様子でたけのこのお菓子を一粒つまんで口へ運ぶと、両手を頬に当て微笑んだ。
幸せそうな彼女を見ていると、不思議と僕もつられて笑う。
――こうして僕たちによる世界で一番平和な戦争は、甘露さんの完全勝利で幕を閉じたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語
ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。
だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。
それで終わるはずだった――なのに。
ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。
さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。
そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。
由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。
一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。
そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。
罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。
ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。
そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。
これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる