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第16話 避けられない結末

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 誰かに体を揺らされて、唯斗ゆいとは目を覚ました。寝ていたのは15分ほどらしいが、寝方が悪かったのか肩が少し痛い。
 硬くなった筋肉をほぐすように首や腕を回しながら体を起こした彼は、「おはよ!」と微笑む天音あまねに「おやすみ」と告げてもう一度横に……。

「二度寝しようとすな!」
「痛いよ、力加減して……って……」

 叩いてきた夕奈ゆうなに文句を言おうと見上げた瞬間、唯斗は珍しく思考が停止した。
 なぜなら、目の前に立っている彼女が、見覚えのある体操服を来ていたから。
 胸元にはしっかり『小田原《おだわら》』と書かれた名札が縫い付けられている。間違いなく唯斗のものだ。

「何やってるの?」
「あ、これ?いやぁ、天音ちゃんが着替えた方がいいって言うもんで……」
「……それ持って帰って。もう着れないから」
「そんなに嫌?! 可愛い女の子が自分の体操服着てるとか、ご褒美だと思うんですけど!」
「だって、着る度に『あ、夕奈が着てたやつだ』って思い出しちゃうんでしょ?気持ち悪いよ」
「気持ち悪いは酷くない?! 夕奈ちゃん泣くよ?」

 唯斗が「なら、僕が『夕奈が着た体操服』って言いふらしてもいいんだ?」と聞いたら、夕奈は顔を真っ赤にしながら「勘弁してください」と土下座をした。
 さすがのスーパーパリピも、教室でリアルすみっ〇ぐらししてる人の体操服を着たということは、言いふらされたくないらしい。
 これはこれから静かにさせる武器になりそうだね。

「じゃあ、今すぐ脱いできたら許してあげる」
「そ、そう言われましても……」

 苦笑いしながら天音の方を見る彼女。どうやら、なにか事情があるらしいけど、天音が何かやったということだろうか。

「夕奈師匠のスカートは今洗濯中なの。私がお茶をこぼしちゃったから……」
「シャツだけでいいなら着替えるよ?」

 夕奈の話によると、シャツの長さはギリギリ下着が隠れる程度。もちろん、その状態で天音の特訓に付き合えば見えてしまうだろう。
 唯斗にとっても見たいものではないし、変に罪悪感を抱えることになりかねない状況は避けたかった。

「でも、この後用事あるんじゃないの?」
「ないけど?」
「無いのにおめかししてきたんだね」
「お、女の子は大変なんだよ!」

 まあ、そういうことならスカートを乾かす時間もあるだろうし、体操服のまま帰ってもらうなんてことにはならなくて済みそうだ。

「わかった、着てていいよ」
「よしっ!ありがとー♪」
「その代わり、ちゃんと返してね」
「あたぼーよ!」

 そういうわけで、夕奈は唯斗の体操服で過ごすことを許された。
 さすが運動する用に作られただけあって、彼女の助けにより天音の特訓は捗り、スカートが乾き切る頃には去年の記録を大幅に上回ることができるようになっていた。

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「師匠、また遊びに来てね!」
「もちのろんよ!」

 随分と意気投合したらしい師匠と妹。唯斗からすると、あまり懐くと困るところではある。

「出来れば来るって教えてくれると、居留守使いやすいんだけど」
「無視する前提なの?天音ちゃんは来て欲しいって言ってるよ!」
「そうだよ、師匠には毎日来て欲しいもん!いっそ、お兄ちゃんと結婚したら?」
「な、何言ってるの天音ちゃん!結婚なんてそんな……ねぇ?」

 何やら意味深な目で見てくる夕奈に、「うん、無理」と答えたら「ぐふっ」と胸を押さえながら膝をついてしまった。

「せっかく洗ったスカートが汚れちゃうよ」
「私の心配は?!」
「それは二の次」
「ちっきしょぉぉぉっ!」

 目元を拭いつつ、コ〇メばりに叫びながら帰っていく夕奈。その背中が角を曲がって見えなくなった頃、天音が言った言葉の意味が唯斗には理解できなかった。

「素直に言っちゃえばいいのにね、師匠」
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