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第58話 砂浜の敵は足元にあり
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焼きそばやらポテトやらを食べて少し休憩した後、夕奈たちがもう一度海に行ったので、唯斗は横になって眠ることにした。
「……何これ」
そして、目覚めた時の第一声がこれである。
唯斗はいつの間にか、頭以外を砂に埋められていたのだ。歩く騒音機1号の仕業かと思ったが、夕奈はまだ海でわちゃわちゃと遊んでいる。
それに彼女の性格上、起きた瞬間の反応を見ようと待機していないはずがない。ということは、別の誰かの仕業だ。
「みんな海にいるけど……」
首だけで周囲を確認してみると、後頭部の方に自分が寝転がっていたはずのレジャーシートが見えた。
おまけにその傍に刺さっていたはずのパラソルが、今は移動したはずの自分の頭に影を落としている。
つまり、犯人はわざわざ唯斗とパラソルだけを移動させ、身体中をしっかりと砂の中に埋めるほどの手間をかけられる人物だ。
「重くて動けない……」
砂浜の砂を乗せただけでは、ここまで重くはならない。砂の色が変わっているのを見るに、海水をかけて固めたのだろう。なかなか頭のいい犯人だ。
唯斗がなんとか崩せないかともがいていると、海で遊んでいた夕奈がこちらに気付いた。
背に腹は変えられない。今回は彼女が犯人ではないだろうし、仕方なく助けを求めることにしよう。
「おやおや、砂風呂かな?」
「違う、誰かのイタズラだよ。助けて」
「ええー、じゃあ一緒に遊んでくれる?」
「いやだ」
「ならずっとそのままだねー」
ふいっとそっぽを向いて去ろうとする夕奈を、唯斗は「待って」と引き止める。
ニヤニヤと緩む口元を必死に隠しながら振り向いた彼女は、「何かなー?」と聞きながら唯斗の傍で屈んだ。
「少しなら遊んでもいいよ。だから助けて」
唯斗が大人しくそう口にしたのは、砂の重さのせいで息がしづらいからである。
胸筋なんてものとは無縁の彼にとって、呼吸時にのしかかる砂を持ち上げるのさえ重労働。このまま放置されれば、いつかは酸欠になってしまう。
「むふふ♪ そんなに夕奈ちゃんの助けを借りたいわけだねー?」
「うん、お願い」
「それなら、『夕奈様と遊びたいです』と言いたまえ!」
「断る」
「ええっ?!」
夕奈は『どうして?』と言いたげな目を向けてくるが、唯斗からすればその言葉を言わなくてはならないことに対して『どうして?』と疑問を投げかけたい。
もし本当に夕奈様なんて呼び方をしなくてはならないのなら、喜んで砂の餌食になる覚悟だ。
「じゃあ、『3回まわってワン』でいいよ」
「無理」
「『夕奈ちゃん大好き』は?」
「夕奈ちゃん大嫌い」
「まったく、天邪鬼なんだから!」
どうやら、夕奈の中に『嫌われている』という概念は無いらしい。なるほど、だから拒絶しても諦めないんだね。
「助けて欲しいんだよね?」
「うん」
「助けてもらわないと大変なんだよね?」
「うん」
「夕奈ちゃんのこと好きだよね?」
「……」
「そこはうんって言う流れじゃん!」
夕奈は「無視が一番辛いんだからね?!」と頬を膨れさせると、「次が最後の選択」と言って四つん這いになり、グイッと顔を近づけてくる。
「断ったら……ちゅーするから……」
「……は?」
「いや、もっと照れろやおら」
彼女は「こちとらファーストキス賭けとんやぞ」と唯斗の耳を引っ張るが、やられている側はごく平然としていた。
「そういうのは冗談でも言わない方がいいよ」
「も、もしかして本気にしたの? あんなの……」
「もし僕が本当は起き上がれたらどうするつもり? 僕にジョークとか通用しないよ?」
「え、本当はって……まさか?!」
夕奈が慌てて体を起こし、ズルズルと後ずさりし始めると、唯斗が埋められた砂の山が小刻みに揺れ始める。
少し膨らんだかと思えば萎み、そしてまた膨らむのを繰り返したそれはやがて────────。
「まあ、無理なんだけどね」
「思わせぶりやめい」
冗談が過ぎたせいか、思いっきり胸の辺りを叩かれた。砂の上からとはいえ、今の唯斗にとっては大ダメージ。思わず咳き込んでしまう。
「ご、ごめん! 大丈夫?」
「ケホッケホッ……心配するなら助けて……」
「遊んでくれる?」
「少しだけね」
唯斗が頷いて見せると夕奈は嬉しそうに微笑み、手で砂を掘り始めた。
さすがにそれだけでは辛かったのか、途中からは花音が持ってきていたプラスチックのスコップでやってたけど。
「起きれる?」
「手伝って」
夕奈に腕を引っ張ってもらい、唯斗は掘り始めから10分後にようやく砂から脱出することが出来た。
条件をつけられたりはしたけど、助かったのは事実だから一応お礼を言っておこう。そう思って彼女を見た瞬間───────。
「あっ! お兄さん起きてる!」
「ほんとだ!」
バケツとスコップを持った小学生くらいの男の子2人が駆け寄ってきた。さては、自分を埋めたのは彼らだろうか。
もう過ぎたことだから怒る気は無いけど、他の人にも迷惑をかけちゃうと困るからね。ちゃんと注意しておかないと。
そう思って口を開こうとすると、男の子は何故か唯斗ではなく夕奈の方を向き、何かを求めるように手を差し出した。
「お姉さん、約束のご褒美!」
「埋めたらポテトくれるんでしょ?」
「しーっ! 今はダメだって!」
慌てたように少年たちの口を塞ぐ夕奈に、「どういうことかな?」と聞きながら肩に手を置くと、彼女は体をビクッと跳ねさせる。
「え、えっと……その……」
「買収したんだ? 助ける演技で僕を言う通りにするために」
「そ、そう言われると言い返せないというか……」
おそるおそるこちらを振り返った夕奈は、少し引き攣った微笑みを見せると、瞬後にはその場で土下座をしていた。
「お願い、許して!」
「許してください、でしょ?」
「ゆ、許してください!」
「……3回まわってワンは?」
「はっはっはっ……わん!」
「唯斗様と遊びたいって言いなよ」
「唯斗様と遊びた─────────へ?」
結局。自作自演だったとは言え約束は約束だからと、唯斗は少しだけ遊んであげた。
その後は「あのお姉さん可愛いね」と少し顔を赤くしていた少年たちへポテトを奢って、夕奈には遊び疲れた体をマッサージしてもらったけどね。
「……何これ」
そして、目覚めた時の第一声がこれである。
唯斗はいつの間にか、頭以外を砂に埋められていたのだ。歩く騒音機1号の仕業かと思ったが、夕奈はまだ海でわちゃわちゃと遊んでいる。
それに彼女の性格上、起きた瞬間の反応を見ようと待機していないはずがない。ということは、別の誰かの仕業だ。
「みんな海にいるけど……」
首だけで周囲を確認してみると、後頭部の方に自分が寝転がっていたはずのレジャーシートが見えた。
おまけにその傍に刺さっていたはずのパラソルが、今は移動したはずの自分の頭に影を落としている。
つまり、犯人はわざわざ唯斗とパラソルだけを移動させ、身体中をしっかりと砂の中に埋めるほどの手間をかけられる人物だ。
「重くて動けない……」
砂浜の砂を乗せただけでは、ここまで重くはならない。砂の色が変わっているのを見るに、海水をかけて固めたのだろう。なかなか頭のいい犯人だ。
唯斗がなんとか崩せないかともがいていると、海で遊んでいた夕奈がこちらに気付いた。
背に腹は変えられない。今回は彼女が犯人ではないだろうし、仕方なく助けを求めることにしよう。
「おやおや、砂風呂かな?」
「違う、誰かのイタズラだよ。助けて」
「ええー、じゃあ一緒に遊んでくれる?」
「いやだ」
「ならずっとそのままだねー」
ふいっとそっぽを向いて去ろうとする夕奈を、唯斗は「待って」と引き止める。
ニヤニヤと緩む口元を必死に隠しながら振り向いた彼女は、「何かなー?」と聞きながら唯斗の傍で屈んだ。
「少しなら遊んでもいいよ。だから助けて」
唯斗が大人しくそう口にしたのは、砂の重さのせいで息がしづらいからである。
胸筋なんてものとは無縁の彼にとって、呼吸時にのしかかる砂を持ち上げるのさえ重労働。このまま放置されれば、いつかは酸欠になってしまう。
「むふふ♪ そんなに夕奈ちゃんの助けを借りたいわけだねー?」
「うん、お願い」
「それなら、『夕奈様と遊びたいです』と言いたまえ!」
「断る」
「ええっ?!」
夕奈は『どうして?』と言いたげな目を向けてくるが、唯斗からすればその言葉を言わなくてはならないことに対して『どうして?』と疑問を投げかけたい。
もし本当に夕奈様なんて呼び方をしなくてはならないのなら、喜んで砂の餌食になる覚悟だ。
「じゃあ、『3回まわってワン』でいいよ」
「無理」
「『夕奈ちゃん大好き』は?」
「夕奈ちゃん大嫌い」
「まったく、天邪鬼なんだから!」
どうやら、夕奈の中に『嫌われている』という概念は無いらしい。なるほど、だから拒絶しても諦めないんだね。
「助けて欲しいんだよね?」
「うん」
「助けてもらわないと大変なんだよね?」
「うん」
「夕奈ちゃんのこと好きだよね?」
「……」
「そこはうんって言う流れじゃん!」
夕奈は「無視が一番辛いんだからね?!」と頬を膨れさせると、「次が最後の選択」と言って四つん這いになり、グイッと顔を近づけてくる。
「断ったら……ちゅーするから……」
「……は?」
「いや、もっと照れろやおら」
彼女は「こちとらファーストキス賭けとんやぞ」と唯斗の耳を引っ張るが、やられている側はごく平然としていた。
「そういうのは冗談でも言わない方がいいよ」
「も、もしかして本気にしたの? あんなの……」
「もし僕が本当は起き上がれたらどうするつもり? 僕にジョークとか通用しないよ?」
「え、本当はって……まさか?!」
夕奈が慌てて体を起こし、ズルズルと後ずさりし始めると、唯斗が埋められた砂の山が小刻みに揺れ始める。
少し膨らんだかと思えば萎み、そしてまた膨らむのを繰り返したそれはやがて────────。
「まあ、無理なんだけどね」
「思わせぶりやめい」
冗談が過ぎたせいか、思いっきり胸の辺りを叩かれた。砂の上からとはいえ、今の唯斗にとっては大ダメージ。思わず咳き込んでしまう。
「ご、ごめん! 大丈夫?」
「ケホッケホッ……心配するなら助けて……」
「遊んでくれる?」
「少しだけね」
唯斗が頷いて見せると夕奈は嬉しそうに微笑み、手で砂を掘り始めた。
さすがにそれだけでは辛かったのか、途中からは花音が持ってきていたプラスチックのスコップでやってたけど。
「起きれる?」
「手伝って」
夕奈に腕を引っ張ってもらい、唯斗は掘り始めから10分後にようやく砂から脱出することが出来た。
条件をつけられたりはしたけど、助かったのは事実だから一応お礼を言っておこう。そう思って彼女を見た瞬間───────。
「あっ! お兄さん起きてる!」
「ほんとだ!」
バケツとスコップを持った小学生くらいの男の子2人が駆け寄ってきた。さては、自分を埋めたのは彼らだろうか。
もう過ぎたことだから怒る気は無いけど、他の人にも迷惑をかけちゃうと困るからね。ちゃんと注意しておかないと。
そう思って口を開こうとすると、男の子は何故か唯斗ではなく夕奈の方を向き、何かを求めるように手を差し出した。
「お姉さん、約束のご褒美!」
「埋めたらポテトくれるんでしょ?」
「しーっ! 今はダメだって!」
慌てたように少年たちの口を塞ぐ夕奈に、「どういうことかな?」と聞きながら肩に手を置くと、彼女は体をビクッと跳ねさせる。
「え、えっと……その……」
「買収したんだ? 助ける演技で僕を言う通りにするために」
「そ、そう言われると言い返せないというか……」
おそるおそるこちらを振り返った夕奈は、少し引き攣った微笑みを見せると、瞬後にはその場で土下座をしていた。
「お願い、許して!」
「許してください、でしょ?」
「ゆ、許してください!」
「……3回まわってワンは?」
「はっはっはっ……わん!」
「唯斗様と遊びたいって言いなよ」
「唯斗様と遊びた─────────へ?」
結局。自作自演だったとは言え約束は約束だからと、唯斗は少しだけ遊んであげた。
その後は「あのお姉さん可愛いね」と少し顔を赤くしていた少年たちへポテトを奢って、夕奈には遊び疲れた体をマッサージしてもらったけどね。
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