隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?

プル・メープル

文字の大きさ
58 / 63

第58話 砂浜の敵は足元にあり

しおりを挟む
 焼きそばやらポテトやらを食べて少し休憩した後、夕奈ゆうなたちがもう一度海に行ったので、唯斗ゆいとは横になって眠ることにした。

「……何これ」

 そして、目覚めた時の第一声がこれである。
 唯斗はいつの間にか、頭以外を砂に埋められていたのだ。歩く騒音機1号の仕業かと思ったが、夕奈はまだ海でわちゃわちゃと遊んでいる。
 それに彼女の性格上、起きた瞬間の反応を見ようと待機していないはずがない。ということは、別の誰かの仕業だ。

「みんな海にいるけど……」

 首だけで周囲を確認してみると、後頭部の方に自分が寝転がっていたはずのレジャーシートが見えた。
 おまけにその傍に刺さっていたはずのパラソルが、今は移動したはずの自分の頭に影を落としている。
 つまり、犯人はわざわざ唯斗とパラソルだけを移動させ、身体中をしっかりと砂の中に埋めるほどの手間をかけられる人物だ。

「重くて動けない……」

 砂浜の砂を乗せただけでは、ここまで重くはならない。砂の色が変わっているのを見るに、海水をかけて固めたのだろう。なかなか頭のいい犯人だ。
 唯斗がなんとか崩せないかともがいていると、海で遊んでいた夕奈がこちらに気付いた。
 背に腹は変えられない。今回は彼女が犯人ではないだろうし、仕方なく助けを求めることにしよう。

「おやおや、砂風呂かな?」
「違う、誰かのイタズラだよ。助けて」
「ええー、じゃあ一緒に遊んでくれる?」
「いやだ」
「ならずっとそのままだねー」

 ふいっとそっぽを向いて去ろうとする夕奈を、唯斗は「待って」と引き止める。
 ニヤニヤと緩む口元を必死に隠しながら振り向いた彼女は、「何かなー?」と聞きながら唯斗の傍で屈んだ。

「少しなら遊んでもいいよ。だから助けて」

 唯斗が大人しくそう口にしたのは、砂の重さのせいで息がしづらいからである。
 胸筋なんてものとは無縁の彼にとって、呼吸時にのしかかる砂を持ち上げるのさえ重労働。このまま放置されれば、いつかは酸欠になってしまう。

「むふふ♪ そんなに夕奈ちゃんの助けを借りたいわけだねー?」
「うん、お願い」
「それなら、『夕奈様と遊びたいです』と言いたまえ!」
「断る」
「ええっ?!」

 夕奈は『どうして?』と言いたげな目を向けてくるが、唯斗からすればその言葉を言わなくてはならないことに対して『どうして?』と疑問を投げかけたい。
 もし本当に夕奈様なんて呼び方をしなくてはならないのなら、喜んで砂の餌食になる覚悟だ。

「じゃあ、『3回まわってワン』でいいよ」
「無理」
「『夕奈ちゃん大好き』は?」
「夕奈ちゃん大嫌い」
「まったく、天邪鬼あまのじゃくなんだから!」

 どうやら、夕奈の中に『嫌われている』という概念は無いらしい。なるほど、だから拒絶しても諦めないんだね。

「助けて欲しいんだよね?」
「うん」
「助けてもらわないと大変なんだよね?」
「うん」
「夕奈ちゃんのこと好きだよね?」
「……」
「そこはうんって言う流れじゃん!」

 夕奈は「無視が一番辛いんだからね?!」と頬を膨れさせると、「次が最後の選択」と言って四つん這いになり、グイッと顔を近づけてくる。

「断ったら……ちゅーするから……」
「……は?」
「いや、もっと照れろやおら」

 彼女は「こちとらファーストキス賭けとんやぞ」と唯斗の耳を引っ張るが、やられている側はごく平然としていた。

「そういうのは冗談でも言わない方がいいよ」
「も、もしかして本気にしたの? あんなの……」
「もし僕が本当は起き上がれたらどうするつもり? 僕にジョークとか通用しないよ?」
「え、本当はって……まさか?!」

 夕奈が慌てて体を起こし、ズルズルと後ずさりし始めると、唯斗が埋められた砂の山が小刻みに揺れ始める。
 少し膨らんだかと思えば萎み、そしてまた膨らむのを繰り返したそれはやがて────────。

「まあ、無理なんだけどね」
「思わせぶりやめい」

 冗談が過ぎたせいか、思いっきり胸の辺りを叩かれた。砂の上からとはいえ、今の唯斗にとっては大ダメージ。思わず咳き込んでしまう。

「ご、ごめん! 大丈夫?」
「ケホッケホッ……心配するなら助けて……」
「遊んでくれる?」
「少しだけね」

 唯斗が頷いて見せると夕奈は嬉しそうに微笑み、手で砂を掘り始めた。
 さすがにそれだけでは辛かったのか、途中からは花音かのんが持ってきていたプラスチックのスコップでやってたけど。

「起きれる?」
「手伝って」

 夕奈に腕を引っ張ってもらい、唯斗は掘り始めから10分後にようやく砂から脱出することが出来た。
 条件をつけられたりはしたけど、助かったのは事実だから一応お礼を言っておこう。そう思って彼女を見た瞬間───────。

「あっ! お兄さん起きてる!」
「ほんとだ!」

 バケツとスコップを持った小学生くらいの男の子2人が駆け寄ってきた。さては、自分を埋めたのは彼らだろうか。
 もう過ぎたことだから怒る気は無いけど、他の人にも迷惑をかけちゃうと困るからね。ちゃんと注意しておかないと。
 そう思って口を開こうとすると、男の子は何故か唯斗ではなく夕奈の方を向き、何かを求めるように手を差し出した。

「お姉さん、約束のご褒美!」
「埋めたらポテトくれるんでしょ?」
「しーっ! 今はダメだって!」

 慌てたように少年たちの口を塞ぐ夕奈に、「どういうことかな?」と聞きながら肩に手を置くと、彼女は体をビクッと跳ねさせる。

「え、えっと……その……」
「買収したんだ? 助ける演技で僕を言う通りにするために」
「そ、そう言われると言い返せないというか……」

 おそるおそるこちらを振り返った夕奈は、少し引き攣った微笑みを見せると、瞬後にはその場で土下座をしていた。

「お願い、許して!」
「許してください、でしょ?」
「ゆ、許してください!」
「……3回まわってワンは?」
「はっはっはっ……わん!」
「唯斗様と遊びたいって言いなよ」
「唯斗様と遊びた─────────へ?」

 結局。自作自演だったとは言え約束は約束だからと、唯斗は少しだけ遊んであげた。
 その後は「あのお姉さん可愛いね」と少し顔を赤くしていた少年たちへポテトを奢って、夕奈には遊び疲れた体をマッサージしてもらったけどね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...