隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?

プル・メープル

文字の大きさ
59 / 63

第59話 疲れた体によく効くもの

しおりを挟む
 あれから少しして、夕奈ゆうなに振り回されたせいで体力が切れた唯斗ゆいとは、瑞希みずきの背中に乗せてもらって我が領地ベッドまで戻った。

「ごめんね、瑞希」
「大丈夫だ、意外と軽かったからな」

 そう言って隣の部屋に戻っていく彼女。唯斗は扉が閉まる音が聞こえるのと同時にあくびをすると、うつ伏せに寝転んで夕奈の方を見た。

「ねえ、マッサージしてよ」
「断る!むしろ私がして欲しいくらいだよ!」
「それは色々と問題があるからさ」
「2人で問題という名の壁を越えていこうぜ」
「ごめん、もう目の前に壁あるよ」
「それは唯斗君が作ってる壁だよね?!」

 唯斗は「夕奈のせいで作らざるを得ないんだよ」と訂正しつつ、枕に顎を乗せて肺に溜まった息を吐く。

「遊んであげたんだから、肩くらい揉んでくれてもいいじゃん」
「女の子の前で揉むなんて言わないでよ!」
「その主張において、そもそもそこに反応するのがおかしい」
「いや、知らない方が問題やん?」
「確かに」

 アニメにはよく無知で純粋な女の子のキャラがいたりするけど、保健の授業毎回寝てたのかなってレベルで知らないよね。
 唯斗はついつい納得してしまったものの、それとこれとは別だと話を元に戻した。

「明日、僕が筋肉痛で起きれなくなってもいいの?」
「その時は引きずってでも連れていく!」
「鬼か」

 夕奈はケラケラと笑うと、「冗談冗談、マイケル・ジョーダン♪」と言いながら唯斗のベッドに侵入してくる。

「夕奈ちゃんが身も心も解してあげますよー♪」
「後者は遠慮しとく」
「大人しく解されとけやおら」

 彼女は仕返しのつもりか、唯斗の背中に肘を立ててグリグリとした。普段なら痛過ぎて耐えられないような攻撃だが、今の彼にはむしろちょうどいい刺激だったのである。

「あ、それ気持ちいい」
「こ、これが? 唯斗君、さてはMっ気が……」
「黙って。せっかく気持ちいいのに台無しになる」
「……はい」

 夕奈は褒めてるのか馬鹿にしてるのかなどっちなんだと怒りたかったが、唯斗があまりにも心地良さそうにしているのを見てやっぱりやめた。
 その表情を消してしまうことに罪悪感を感じたからではない。彼女自身がずっと見ていたかったからだ。

「その顔はずるいって……」

 聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でそう呟きつつ、夕奈は唯斗の体を解し続ける。
 肩を揉み、肩甲骨辺りを押して、背中から腰にかけては軽くチョップ。それを3回ほど繰り返した。
 全てテレビの見よう見まねではあったものの、ゆっくりとした呼吸のリズムを崩さない唯斗の様子を見る限りは、そこそこ気持ちいいらしい。

「幸せそうな寝顔見せやがって……」

 夕奈は一旦背中から手を離すと、そっと唯斗の頬を突いてみた。特に反応はない。
 今度は耳元で名前を呼んでみるも、やはり起き上がることもなければ唸ることすらなかった。よほど熟睡しているらしい。

「起きろー」
「すぅ……すぅ……」
「起きないとイタズラしちゃうよー?」
「すぅ……すぅ……」

 これは確実に起きないやつだ。夕奈はそう確信すると、口を耳元から少し横にずらした。
 起きていない今なら、何をしたところで気付かれない。気づかれないのなら、していないのと一緒だ。
 彼女は自分に言い聞かせるように心の中で呟き、一度深呼吸をしてから思い切って唇を突き出す。

 ────────────ちゅっ。

 静かな部屋に響く口付けの音。夕奈は自分でしておきながら、口を離してから数秒後に羞恥心で我に返った。

「はっ! 私は今まで何を……」

 その瞬間、先程吹き飛んでいった本来の遊び心が、夕奈の体の中へ帰ってくる。
 そう、唯斗君の中の夕奈像はこんな感じではない。いつでも唯斗君の思い通りに動かないような、そんな厄介な女のはず!
 夕奈の中の悪魔がそう語りかけると、彼女の視線は背中から唯斗の脇に移動する。寝ているうちに弱点を狙うのだ。

「隙ありっ!」

 夕奈は素早く唯斗の脇に手を入れると、コチョコチョと指を動かしてみた。これでさすがの唯斗君ももがいて──────────あれ?

「……効いていない、だと?」

 いつの間にかこちらを見つめていた冷やかな視線に、夕奈は思わずベッドから転げ落ちてしまう。

「僕はマッサージをお願いしたはずだけど?」
「だ、だから、脇のマッサージを……」
「隙ありって言ってたよね?」
「うっ……」

 聞かれていたのなら言い訳は通用しない。夕奈は諦めたようにその場に膝をつくと、「脇じゃなくて首にすればよかった!」と土下座をした。うん、全く反省してないね。

「まあ、別にいいよ。僕には効かないし」
「ゆ、許してくださるのですか?!」
「怒るのも疲れるからね。そっちは許してあげる」
「なんと心の広い……ん? って?」

 唯斗はゆっくりと体を起こすと、小さくため息をついて戸惑う夕奈の目を見た。

「あのさ、『そういうのは冗談でもやめて』って言ったはずだよね?」
「っ……」

 その言葉を聞いた瞬間、夕奈の顔が恥ずかしさで一気に赤くなる。目元に涙まで滲んできたほどだから相当なのだろう。
 彼女が「お、起きてたの……?」と聞くと、唯斗は真顔で「ずっと起きてたよ」と答えた。

「なんですぐに怒らなかったの?!」
「呆れてたから」
「……へ?」

 唯斗は夕奈がキスした部分に軽く指先を触れさせると、眉を八の字にしてため息をこぼす。

「僕を困らせるためにここまで体張るなんて、根っから腐ってるとしか言いようがないよ……」
「ちょ、ちょっと待って!唯斗君は私がイタズラであんなことしたと思ってるの?」
「むしろそれ以外にないじゃん」
「ええ…………」

 夕奈は「お前の察知力はたったの5か!ゴミめ!」と怒鳴ってやろうかと思ったが、そんなことをすれば本当の気持ちが別にあるとバレてしまう。
 そうなれば、恥ずかしさのあまり阿寒湖に飛び込んじゃうよ。マリモを抱きしめたまま溺れちゃうよ!
 そう思うと、彼女はそれ以上何も言うことが出来なくなってしまった。

「自分のことは大切にしてよ。僕に責任なんて取れないんだから」

 唯斗はベッドから降りて夕奈の肩をポンポンと撫でると、そのままトイレとお風呂がある扉の向こうへと消えていく。

「好きにさせた責任くらい取れやおら……」

 ベッドに残る温もりに触れながら呟かれた独り言は、唯斗の耳に届くことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...