伝説の勇者が闇堕ちした日に、ポンコツは爆誕する

空木卯々

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第一部一章一話

油ギッシュな再会④

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◇◇◇◇◇



「まさかキサマが転生するとはな」



リーンは周囲に他者の耳がないかを、
視線を泳がせながら確認し、声を潜める。
他者に聞かれれば…また余計な
詮索や誤解を招きかねないからだ。
この町でこれ以上、悪目立ちは
避けるべきなのだ。

ただでさえ、この言葉の意味は…
他者からすれば、信じられないこと
なのだから…


転生…


魔法という神秘的な術を有するこの世界でも、
転生者は相当稀有だ。

神に祝福を授かるほどの者か…
余程特殊な人物でない限り、
転生は事実上あり得ない。
ましてや…転生後も前世の記憶があるなど…


「ごめん…勝手に…でも、
どうしても貴女のチカラになりたくて…
"あの"後、
必死に闇から抜け出せないかと試みたんでふ…
そしたら、魂だけの存在になってた。
それで…気が付いたら転生してて…」


リーンは再び
先ほどよりも更に深いため息を吐く。

"仕方ない奴だ…"

イル…
かつての"イル"とは似ても似つかない
現在の巨体の者…に向き合い…
けれど、

『転生したのに髪色は偶然同じなのだな…』

と、脱線した思考を戻しながら口を開く。

「キサマの魂が去るのは感じていた。
風の精霊に捜索を手伝って貰いながら、
だが…
…いや、やはりと言うか…
"ここ"に来るとは思っていたがな…」

「うん…
ここは、ボキの因縁の場所だからね…」

イルは、
ほんの少しまだ幼さの残るような横顔で
真っ直ぐ眼差しを、山脈の先へ向けた。

日焼けしていない肌は白く、
手のひらも剣タコの
一つもない無垢な手だ。


…恐らく成人は過ぎているのだろう。
リーンの視線に気付いたイルは、
少し恥ずかしそうに言葉を追加する。

「前世の記憶は
幼い頃からあったんでふけど…
親が過保護でさ、
成人するまではせめて親元に居て、
孝行しようかなって…ぐふふ」

と、もじもじと俯く。

なるほど…
転生して、それなりに
穏やかな時間を過ごしていたイルに、
リーンは密かに口元を緩める。

「ただ…
前世の記憶はあるんでふが…
今世の…
今まで過ごしてきた現在の
人格もかなり混じってて…
田舎の村の、御坊ちゃま体質が
中々抜けないのでふよ…」

確かに、
完璧に前世の人格、そのままでいるのなら…
ここまで怠惰な姿には
なってないのだろう。

今のイルは…
前世とは違う、
今世の穏やかで平穏な日々が
彼の人格に影響を及ぼしているようだ。

…悪く言えば、甘ったれで臆病な子供…
とも言えるが…

前世の記憶は残ってるものの、
今世ではただの子供として
生きてきた事で…
前世での人格や思考が無意識に
セーブされているのかもしれない。


「けど!リーン様や仲間達の事を
忘れた日は無かったでふよ!
待たせて済まないでふ…
やっと…
リーン様の戦力となれる日が来たんだ!」

イルがその巨体でベンチを軋ませながら、
決意を込めて立ち上がるも、
少女…
リーンが見事なツッコミ(物理的にも)をお見舞いする。

「今のキサマでは戦力にならん!!」

再び杖の物理洗練。

「先ずは初心に帰って、
冒険者として、成り上がっていくぞ!」


…と、檄を飛ばすが…。
リーンとて術は使えぬ無能っぷり。
どう考えても雑魚レベルなニ人だ。



魔鼠退治の初心者向け依頼ですら失敗…
報告に来たニ人を前に…
窓口のギルド職員は頭を抱える…という、
現在に繋がるのだった。


◇◇◇◇◇


(第二話へ続く)
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