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一章〜(三)
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◆
基希の心の中には、前世で玲子を救えなかった悔恨の念が今も強く残っている。
そのせいか〝このままでは駄目だ〟〝もっと何かをしないと〟と焦燥感に駆られる事が多い。
ーそうなんだ…俺は玲子を救えなかったんだ……
基希の夢に現れる彼女は美しい姿ばかりを見せてくれるわけではない。
この世の理不尽さに嘆き、苦しむ顔まで強制的に見なければならなかった。
あれは前世での基希と玲子の出会い……
懐かしさに胸を焦がす。
橋の袂で今にも夕陽に溶けてしまいそうな彼女を見たのが、初めての出会いだった。
遠くの、何処か一点を見透かすように見つめ、草履をぬいで橋に足をかけようとしている。
『身投げか!』
慌てて走り寄り腕を掴んだ!
『やめて!離して!』
暴れる彼女を抱きしめて、後ろに引きずり下ろす!
『落ち着け!こっから飛び降りたって死ねやしないぞ!』
『嘘よ!』
『嘘じゃねぇ!ここは思った程深くない!岩も何もないから頭を打ったからって気を失うこともない!せいぜい足を折って痛い思いをするだけだ!落ち着け!』
『う…っ…うぅ…わぁぁぁーーっ』
子供のように大声で泣きじゃくる彼女はか細くて、橋から身を投げずとも腕の一本くらい簡単にへし折れてしまいそうだった。
何がここまでこの娘を追い詰めたのかが気になり、努めて優しく話しかける。
『いったいどうしたんだい?俺が聞いてやるから言ってみな』
吸い込まれそうなくらい深く、涙に濡れて輝く漆黒の瞳が美しい。
まぶたに焼き付くほどに印象深く、この目は一生忘れない気がした。
それに、捨てられた仔犬のように縋るこの娘が可愛く見えて連れ帰りたくなる。
ー俺が拾うか?
着物の袖で流れる涙を拭ってやると、彼女がぽつりと話し始めた。
『知りもしない殿方と、結婚させられるんです…』
『そうか、それで?』
『私は!好いてもいない方と結婚などしたくはないのです!』
ー別に珍しくもない話だが…
そうは思ったが、この娘にとっては重要な問題なのだろう。
『そんなに嫌なら、そう言えばいい』
『言いました!でも〝親に逆らうつもりか!〟って言われて……』
そう言うと彼女が自分の頬を擦り、また涙を零す。
ーよく見りゃ赤いじゃねぇか。殴られたのか…こんなに華奢な娘に手を挙げるかねぇ……
『で、何も言えなくなったわけか…』
『はい…』
『そうか…だったら、しばらく家出でもしてみるか?』
『家出…?』
『ああ。俺の所に来ればいい』
我ながらなかなかの妙案だと思った。
基希のつまらない日常の中に話し相手が居てくれたら、それは潤いにもなるし刺激にもなって執筆活動が捗るかもしれない。
それに結婚させられるまでの自由な時間を謳歌とまではいかなくても、何か冒険くらいはしたかった。
今までやったことのない行動や、知らない人間との会話…どれも簡単ではあるが、出不精な基希には難しい。
だが今、その両方が叶う絶好の機会に巡り合わせたのだ。逃したくない。
『でも…』
少しだけ不安を覗かせた娘が目を泳がせる。
ー迷う一番の理由は俺が男だから…だろうな。
『安心しな。何もしやしない』
基希が穏やかに微笑むと、彼女は少し驚いたようだった。
『え、いいんですか?』
『ああ。そうと決まれば、行くか!』
『…今から?』
『今行かないでいつ行くのさ』
基希は軽快に立ち上がると娘を抱き上げた。
『あの、やめて下さい、平気ですから!歩けますから!』
顔を真っ赤にしてしがみつき、慌てふためく反応が堪らなく可愛らしい。
『そうかい?じゃあ、行こうか』
そっと下に降ろしてやると、娘はようやく落ち着きを見せた。
『はい…ありがとうございます。でも、一つお願いが……』
彼女は自分が飼っている犬が心配だから連れて来たい、と頭を下げた。
『それは別にかまわんが、一旦帰ったりしてまた出て来られるのかい?』
『それは大丈夫です。みんな私の味方ですから』
『そうか、じゃあ行くぞ』
夕暮れ時の空気は少し冷たくて、とりあえず彼女に自分の羽織を着せる。
道すがら名前を聞くと、彼女は〝片山玲子〟と名乗った。
玲子はすっかり基希を信用したのか、堰を切ったように話し始めた。
『女は殿方に黙従することが運命なのでしょうか…どんな人間も等しく女から生まれてくると言うのに……理不尽です!』
ぐっと唇を噛む表情には強い怒りと悲しみ、無念さが見てとれる。
『そうさな…この世は理不尽だな。俺もあんたの考えは理解できる。女であっても主義主張はあっていいし、思想だって自由だ。ただ話を聞いている限り、あんたの父親にはそれが通じないだろうな』
細い肩を落として頷く玲子を、なんとかして護ってやれないだろうか……
思えばこの時からすでに彼女を欲しているのだと自覚していたが、その気持ちには蓋をした。
家に連れて帰るにあたり、何もしないと言ってしまった以上、迂闊な事はできない。
頭の中で悶々と考えを巡らせていると、目的地に到着したらしく玲子が人差し指を唇に立て、しーっと小声で語りかけてきた。
『着きました!では行ってきますので、しばしお待ちを…』
慣れた様子で勝手口から入って行く玲子を見送り、出てくるのを待つ。
こんな大きな屋敷なら人の出入りなど日常…上手くやれば見つからないで出られるのだろうが……
ー皆味方…とかなんとか言ってたけど、本当に大丈夫か…?
しばらくすると白い小さな犬を抱いて、玲子が出てきた。
『お待たせしました!参りましょう』
二人と一匹は何事もなかったかのように、すたすたと足早にその場を去った。
そしてこの日から基希の生活は一変する。
こんなに誰かと話したのは久しぶりだった。
玲子のいる暮らしは予想よりも遥かに楽しく、一日があっという間に過ぎてゆく。
何にでも興味を持ち、疑問を投げかけてくる彼女は、基希に暇な時間を与えない。
だが、その口から語られる真実は、女を人間として見ていない父親の酷い扱いが殆どで、聞いているうちに自分の身に起きた事のように胸が詰まる程。
折檻は日常茶飯事で息をするように行われており、玲子の身体には無数の痣があった。
罪人のような扱いを受け、普通ならここでプリゾニゼーションに陥ってもおかしくはないのだが、彼女はそうならなかった。
暴力を振るわれたからと言って、それだけでは従えない。
納得がいかない事には首を縦に振ることすらできない、実直で優しい女……
そんな玲子の悲しみに歪む顔を見るのは基希にとっても苦しかった。
それでも、毎日時間を見つけては基希は玲子と向かい合い、互いの考えや価値観、世間の常識と自分の常識の違いについて語り合うのを楽しんでいた。
女に選ぶ権利がないのが当たり前の時代に、玲子の意見は斬新で心揺さぶられる。
『女だって人間なんです!殿方のする事に〝意見してはならない〟と教わりましたが、例え子供を生む為の道具だとしても、私には感情があります!女はもっと世の中から認められるべきです!勉学だって平等に教われば、教養ある人間になれるはずなんです!』
ー女も人間…女にも教育を…か。
『そうだな…女も男も同じ人間に変わりはない。お前の意見に俺も賛成だよ』
己の置かれた立場は考えられても、それを取り囲む〝女〟については考えた事もなかった。
基希の父親は亭主関白で、母親は絶対服従。
雌鶏歌えば家滅ぶ……なんてことが間違っても起こってはいけないのだ。
でも俺は知っている……
父親が帰って来ない夜が続く度、母親が夜な夜な声を詰まらせて泣いていたのを……。
嗚咽するほどに、愛していたのだろうか…?
あんなに虐げられているのに。
そう思う反面、自分も男だから父親のように振る舞うべきなのか…そうすることが正しいのか…考えた事はあった。
でも出来なかった。
よく笑っていた母親が、余りに健気で哀れに思えたから……
いつも優しく、その胸に抱いてくれた温もりは今でもよく覚えている。
基希が〝作家になる〟と言って家を出た時も、母親がそっと支度金を手渡してくれた。
今は半ば諦められた状況で、自由に別邸を使わせてくれているが、いずれは父親の連れてきた女と結婚させられる……
ー人生なんてこんなものさ……家を出られただけ儲けものだ。
いつしか諦める事が常となる日々を、波風たてずに過ごすだけ……
そんな日常をひっくり返す変化が今、起こっている。
玲子と話していると、生きていると実感する。
自分の胸の内に、こんなにも熱く燃え滾るような激情があるとは思いもしなかった。
気持ちや意見を言い合い、議論する事の大切さに初めて気づく。
思えば、女がこんなにしっかりと話すのを見たことも聞いたこともなかった。
だが全く不快ではない。
むしろ、女の考えを知れて面白かった。
瞳を爛々とさせながら、玲子がこちらを熱く見つめている。
『私、こんなに自分の気持ちを聞いてもらったの初めてで……』
ぐすっ…と鼻を鳴らして涙ぐむ仕草がなんとも言えず可愛くて、こんなことで玲子が喜ぶならいくらでも聴いてやりたいと思った。
『じゃあ、これからは俺に全部話すといい』
何かしてやれないか、出来る事はないか、何でもしてやりたい、可愛がりたい……
気がついたらそんな慈愛の念が芽生えていた。
だがそのせいで横暴な父親とも話し合いでなんとか和解できると、玲子は本気で信じてしまっていたのだろう。
こんなにか細い娘を殴るような男が、そう簡単に変わるはずもないのに……
それでも彼女の意志は堅かった。
あの日……
〝諦めたくない!〟と言った君を無理にでも引き止めるべきだった。
『基希さん、私決めました!もう一度だけ父と話してみようと思います!』
そんな突拍子もない事を言い出したのも、身体の調子が良くなってきた証拠だろう…と、その時は思っていた。
実際、ここへ来てからの玲子は随分元気になったと思う。
食事がきちんと摂れるようになったからか、服の上からでも胸がふっくらとしてきたのがわかるし、コロコロとよく笑うようにもなった。
二人に共通点が見え始めたのもこの頃だった気がする。
食の好みや食べる順番まで似ていて、度々同じ皿の煮物を突付いては二人して笑い合う。
それは宛ら新婚夫婦のような光景で、なのにもう随分長いことこうしているような錯覚にも陥る、不思議な感覚だった。
素直で明るい彼女を、いつも目で追っている自分に気がついたのもこの頃。
これが恋心と自覚してしまったらもう、思いは溢れて止まらない。
今すぐ抱きしめたい衝動を、いつまで押さえつけておけるか…手を出さない保証など何処にもなかった。
同時に、玲子の真っ直ぐな正義に危機感を覚える……
持って生まれた優しい性格と生真面目さ故、自分に妥協ができない玲子は、世の中の理不尽さに嘆きつつも、他者の汚さには目を瞑りそれを赦す……どこまでも寛容なのだ。
だが赦された者は感謝などしない。
さらなる悪巧みに玲子のような非力な善人を利用するのだ。
それに加えて周りの連中は、玲子が解語之花である事さえ知らずにいるから平気で虐げる。
知ろうともしない。
これが今の世の中なのだ。
ー俺が護ってやれたら………
『そうか。だが一人で説得なんて俺は反対だ。娘に手を挙げるような父親に、話し合いなんざ通用しねぇよ』
『…っ!どうしてそれを……』
玲子は驚いていたが、別段難しいことではなかった。
『簡単さ。初めてお前の顔を見た時、赤く腫れてるのがすぐにわかったし、よほど痛かったのか頬を擦っていたからな。それに痣もたくさんあっただろ?』
『お恥ずかしいです…でも、諦めたくないんです!』
強い意志を纏った真っ直ぐな眼差しが、基希の心臓を貫いた。
ーまずいな…この女が欲しい。
『よしわかった!じゃあこうしよう。お前、俺と結婚しないか?そうすりゃ、親が決めた男となんか所帯を持つことはないし、またここに戻って来られる。どうだ、いい考えだろ?』
玲子があんぐりと口を開けてワタワタ言っている。
ー我ながら無理があったか…?親が決めた男が嫌なんじゃなくて、結婚事態に否定的な考えなのかもしれない。自分の意志をしっかり持った玲子ならあり得る。流されるようなのは嫌いだろうし……あぁ、駄目だな。
言ってはみたものの、早々に諦めてこの話を切り上げようとしたその時…
『わたし…で、よろしければ…ぜひ……』
顔を真っ赤にしながらも、決して目を逸らさない玲子が堪らなく愛しくて、思わずぎゅっと抱きしめる。
『そうか!玲子、お前が好きだ!一生離さないからな…ずっと側にいてくれ、いいな?』
彼女が来てからずっと抑えつけていた恋情の箍が、とうとう外れてしまった。
『はい、基希さん…私も好きです…』
この日…初めて玲子に触れた。
出会ってから今日まで、指一本だって触れたことはない。
抱きしめた身体は熱く火照り、小さく震えていた。
ー初めてか…そうだよな。
肩を抱いて胸に引き寄せると、互いの鼓動が重なり合い、早く繋がりたくて気持ちが早る。
『玲子……』
見つめ合ったまま名前を囁くと、玲子が瞳を潤ませた。
ー綺麗だ……って、え!?
『なっ…なんで泣くんだ!?』
基希が思わずギョッとすると、玲子はその美しい瞳を弓形にして微笑んだ。
『初めて…父に感謝しました。基希さんのおかげです、ありがとう……』
『俺のおかげ?』
何を感謝する事があるのか、どうして基希のおかげなのか、さっぱりわからなかったが、玲子は基希を見つめたまま言葉を続けた。
『もし父がこの名を付けてくれなければ、好きな人に呼ばれる喜びも知らずにいたでしょう?基希さんが私を呼んでくれたから…初めて自分の名前に意味を見出せました。だから父にも感謝してるんです』
ー全くこの娘は……
どこまでも真っ直ぐな玲子…優しくて、正義感が強くて、自分の考えを臆することなく話せる尊敬すべき女性。
これからの時代は、こういう女が活躍していくはずだ。
だが、何を言ったところで男尊女卑の世の中はそう簡単には変わらないだろう。
だからこそ、護ってやりたい。
『愛してる…玲子』
『私も…基希さん』
密かに恋心を寄せていた男に思いを告げられ、玲子は神から大福を授かったかのような幸せを感じていた。
そして…玲子の背中に回された手が、ゆっくりと帯を解いていく……
男に初めて身体を許す緊張と、基希に触れられる喜びが、玲子を天にも昇る心地にさせた。
ー恥ずかしくないわ…この胸の痣だって基希さんならきっと平気だって言ってくれるはずよ。それにこれからはずっと二人…たくさん話して、たくさん笑って、たくさん愛し合って、幸せに暮らしていくんですもの。基希さんとならどんな苦労だって乗り越えてみせるわ!
はらりと肩から着物を落とされ胸が露わになると、玲子は無意識に手で前を隠していた。
だが直ぐにすっ…と基希に優しくその手を解かれ、熱い眼差しを向けられる。
若干の恥ずかしさと、胸の痣を気味悪がられるのではないかという恐怖に襲われ、一瞬身体が強張った。
『綺麗だ…まるで紫陽花のように美しい……』
基希の蠱惑的な眼差しに当てられて声も出ない。
でも言いたい言葉が出ずとも不思議と不安はなく、むしろ全てが彼の掌の中にあるような、そんな安心感があった。
ーああ…これが私の愛した人なんだわ…海のように深くて広い心を持った優しい男。こんな男性、どこを探したって居やしない。
『基希さん…ありがとう。愛してます…』
だがその幸せも束の間、翌日…玲子は帰らぬ人となる。
一章~(四)に続く……
基希の心の中には、前世で玲子を救えなかった悔恨の念が今も強く残っている。
そのせいか〝このままでは駄目だ〟〝もっと何かをしないと〟と焦燥感に駆られる事が多い。
ーそうなんだ…俺は玲子を救えなかったんだ……
基希の夢に現れる彼女は美しい姿ばかりを見せてくれるわけではない。
この世の理不尽さに嘆き、苦しむ顔まで強制的に見なければならなかった。
あれは前世での基希と玲子の出会い……
懐かしさに胸を焦がす。
橋の袂で今にも夕陽に溶けてしまいそうな彼女を見たのが、初めての出会いだった。
遠くの、何処か一点を見透かすように見つめ、草履をぬいで橋に足をかけようとしている。
『身投げか!』
慌てて走り寄り腕を掴んだ!
『やめて!離して!』
暴れる彼女を抱きしめて、後ろに引きずり下ろす!
『落ち着け!こっから飛び降りたって死ねやしないぞ!』
『嘘よ!』
『嘘じゃねぇ!ここは思った程深くない!岩も何もないから頭を打ったからって気を失うこともない!せいぜい足を折って痛い思いをするだけだ!落ち着け!』
『う…っ…うぅ…わぁぁぁーーっ』
子供のように大声で泣きじゃくる彼女はか細くて、橋から身を投げずとも腕の一本くらい簡単にへし折れてしまいそうだった。
何がここまでこの娘を追い詰めたのかが気になり、努めて優しく話しかける。
『いったいどうしたんだい?俺が聞いてやるから言ってみな』
吸い込まれそうなくらい深く、涙に濡れて輝く漆黒の瞳が美しい。
まぶたに焼き付くほどに印象深く、この目は一生忘れない気がした。
それに、捨てられた仔犬のように縋るこの娘が可愛く見えて連れ帰りたくなる。
ー俺が拾うか?
着物の袖で流れる涙を拭ってやると、彼女がぽつりと話し始めた。
『知りもしない殿方と、結婚させられるんです…』
『そうか、それで?』
『私は!好いてもいない方と結婚などしたくはないのです!』
ー別に珍しくもない話だが…
そうは思ったが、この娘にとっては重要な問題なのだろう。
『そんなに嫌なら、そう言えばいい』
『言いました!でも〝親に逆らうつもりか!〟って言われて……』
そう言うと彼女が自分の頬を擦り、また涙を零す。
ーよく見りゃ赤いじゃねぇか。殴られたのか…こんなに華奢な娘に手を挙げるかねぇ……
『で、何も言えなくなったわけか…』
『はい…』
『そうか…だったら、しばらく家出でもしてみるか?』
『家出…?』
『ああ。俺の所に来ればいい』
我ながらなかなかの妙案だと思った。
基希のつまらない日常の中に話し相手が居てくれたら、それは潤いにもなるし刺激にもなって執筆活動が捗るかもしれない。
それに結婚させられるまでの自由な時間を謳歌とまではいかなくても、何か冒険くらいはしたかった。
今までやったことのない行動や、知らない人間との会話…どれも簡単ではあるが、出不精な基希には難しい。
だが今、その両方が叶う絶好の機会に巡り合わせたのだ。逃したくない。
『でも…』
少しだけ不安を覗かせた娘が目を泳がせる。
ー迷う一番の理由は俺が男だから…だろうな。
『安心しな。何もしやしない』
基希が穏やかに微笑むと、彼女は少し驚いたようだった。
『え、いいんですか?』
『ああ。そうと決まれば、行くか!』
『…今から?』
『今行かないでいつ行くのさ』
基希は軽快に立ち上がると娘を抱き上げた。
『あの、やめて下さい、平気ですから!歩けますから!』
顔を真っ赤にしてしがみつき、慌てふためく反応が堪らなく可愛らしい。
『そうかい?じゃあ、行こうか』
そっと下に降ろしてやると、娘はようやく落ち着きを見せた。
『はい…ありがとうございます。でも、一つお願いが……』
彼女は自分が飼っている犬が心配だから連れて来たい、と頭を下げた。
『それは別にかまわんが、一旦帰ったりしてまた出て来られるのかい?』
『それは大丈夫です。みんな私の味方ですから』
『そうか、じゃあ行くぞ』
夕暮れ時の空気は少し冷たくて、とりあえず彼女に自分の羽織を着せる。
道すがら名前を聞くと、彼女は〝片山玲子〟と名乗った。
玲子はすっかり基希を信用したのか、堰を切ったように話し始めた。
『女は殿方に黙従することが運命なのでしょうか…どんな人間も等しく女から生まれてくると言うのに……理不尽です!』
ぐっと唇を噛む表情には強い怒りと悲しみ、無念さが見てとれる。
『そうさな…この世は理不尽だな。俺もあんたの考えは理解できる。女であっても主義主張はあっていいし、思想だって自由だ。ただ話を聞いている限り、あんたの父親にはそれが通じないだろうな』
細い肩を落として頷く玲子を、なんとかして護ってやれないだろうか……
思えばこの時からすでに彼女を欲しているのだと自覚していたが、その気持ちには蓋をした。
家に連れて帰るにあたり、何もしないと言ってしまった以上、迂闊な事はできない。
頭の中で悶々と考えを巡らせていると、目的地に到着したらしく玲子が人差し指を唇に立て、しーっと小声で語りかけてきた。
『着きました!では行ってきますので、しばしお待ちを…』
慣れた様子で勝手口から入って行く玲子を見送り、出てくるのを待つ。
こんな大きな屋敷なら人の出入りなど日常…上手くやれば見つからないで出られるのだろうが……
ー皆味方…とかなんとか言ってたけど、本当に大丈夫か…?
しばらくすると白い小さな犬を抱いて、玲子が出てきた。
『お待たせしました!参りましょう』
二人と一匹は何事もなかったかのように、すたすたと足早にその場を去った。
そしてこの日から基希の生活は一変する。
こんなに誰かと話したのは久しぶりだった。
玲子のいる暮らしは予想よりも遥かに楽しく、一日があっという間に過ぎてゆく。
何にでも興味を持ち、疑問を投げかけてくる彼女は、基希に暇な時間を与えない。
だが、その口から語られる真実は、女を人間として見ていない父親の酷い扱いが殆どで、聞いているうちに自分の身に起きた事のように胸が詰まる程。
折檻は日常茶飯事で息をするように行われており、玲子の身体には無数の痣があった。
罪人のような扱いを受け、普通ならここでプリゾニゼーションに陥ってもおかしくはないのだが、彼女はそうならなかった。
暴力を振るわれたからと言って、それだけでは従えない。
納得がいかない事には首を縦に振ることすらできない、実直で優しい女……
そんな玲子の悲しみに歪む顔を見るのは基希にとっても苦しかった。
それでも、毎日時間を見つけては基希は玲子と向かい合い、互いの考えや価値観、世間の常識と自分の常識の違いについて語り合うのを楽しんでいた。
女に選ぶ権利がないのが当たり前の時代に、玲子の意見は斬新で心揺さぶられる。
『女だって人間なんです!殿方のする事に〝意見してはならない〟と教わりましたが、例え子供を生む為の道具だとしても、私には感情があります!女はもっと世の中から認められるべきです!勉学だって平等に教われば、教養ある人間になれるはずなんです!』
ー女も人間…女にも教育を…か。
『そうだな…女も男も同じ人間に変わりはない。お前の意見に俺も賛成だよ』
己の置かれた立場は考えられても、それを取り囲む〝女〟については考えた事もなかった。
基希の父親は亭主関白で、母親は絶対服従。
雌鶏歌えば家滅ぶ……なんてことが間違っても起こってはいけないのだ。
でも俺は知っている……
父親が帰って来ない夜が続く度、母親が夜な夜な声を詰まらせて泣いていたのを……。
嗚咽するほどに、愛していたのだろうか…?
あんなに虐げられているのに。
そう思う反面、自分も男だから父親のように振る舞うべきなのか…そうすることが正しいのか…考えた事はあった。
でも出来なかった。
よく笑っていた母親が、余りに健気で哀れに思えたから……
いつも優しく、その胸に抱いてくれた温もりは今でもよく覚えている。
基希が〝作家になる〟と言って家を出た時も、母親がそっと支度金を手渡してくれた。
今は半ば諦められた状況で、自由に別邸を使わせてくれているが、いずれは父親の連れてきた女と結婚させられる……
ー人生なんてこんなものさ……家を出られただけ儲けものだ。
いつしか諦める事が常となる日々を、波風たてずに過ごすだけ……
そんな日常をひっくり返す変化が今、起こっている。
玲子と話していると、生きていると実感する。
自分の胸の内に、こんなにも熱く燃え滾るような激情があるとは思いもしなかった。
気持ちや意見を言い合い、議論する事の大切さに初めて気づく。
思えば、女がこんなにしっかりと話すのを見たことも聞いたこともなかった。
だが全く不快ではない。
むしろ、女の考えを知れて面白かった。
瞳を爛々とさせながら、玲子がこちらを熱く見つめている。
『私、こんなに自分の気持ちを聞いてもらったの初めてで……』
ぐすっ…と鼻を鳴らして涙ぐむ仕草がなんとも言えず可愛くて、こんなことで玲子が喜ぶならいくらでも聴いてやりたいと思った。
『じゃあ、これからは俺に全部話すといい』
何かしてやれないか、出来る事はないか、何でもしてやりたい、可愛がりたい……
気がついたらそんな慈愛の念が芽生えていた。
だがそのせいで横暴な父親とも話し合いでなんとか和解できると、玲子は本気で信じてしまっていたのだろう。
こんなにか細い娘を殴るような男が、そう簡単に変わるはずもないのに……
それでも彼女の意志は堅かった。
あの日……
〝諦めたくない!〟と言った君を無理にでも引き止めるべきだった。
『基希さん、私決めました!もう一度だけ父と話してみようと思います!』
そんな突拍子もない事を言い出したのも、身体の調子が良くなってきた証拠だろう…と、その時は思っていた。
実際、ここへ来てからの玲子は随分元気になったと思う。
食事がきちんと摂れるようになったからか、服の上からでも胸がふっくらとしてきたのがわかるし、コロコロとよく笑うようにもなった。
二人に共通点が見え始めたのもこの頃だった気がする。
食の好みや食べる順番まで似ていて、度々同じ皿の煮物を突付いては二人して笑い合う。
それは宛ら新婚夫婦のような光景で、なのにもう随分長いことこうしているような錯覚にも陥る、不思議な感覚だった。
素直で明るい彼女を、いつも目で追っている自分に気がついたのもこの頃。
これが恋心と自覚してしまったらもう、思いは溢れて止まらない。
今すぐ抱きしめたい衝動を、いつまで押さえつけておけるか…手を出さない保証など何処にもなかった。
同時に、玲子の真っ直ぐな正義に危機感を覚える……
持って生まれた優しい性格と生真面目さ故、自分に妥協ができない玲子は、世の中の理不尽さに嘆きつつも、他者の汚さには目を瞑りそれを赦す……どこまでも寛容なのだ。
だが赦された者は感謝などしない。
さらなる悪巧みに玲子のような非力な善人を利用するのだ。
それに加えて周りの連中は、玲子が解語之花である事さえ知らずにいるから平気で虐げる。
知ろうともしない。
これが今の世の中なのだ。
ー俺が護ってやれたら………
『そうか。だが一人で説得なんて俺は反対だ。娘に手を挙げるような父親に、話し合いなんざ通用しねぇよ』
『…っ!どうしてそれを……』
玲子は驚いていたが、別段難しいことではなかった。
『簡単さ。初めてお前の顔を見た時、赤く腫れてるのがすぐにわかったし、よほど痛かったのか頬を擦っていたからな。それに痣もたくさんあっただろ?』
『お恥ずかしいです…でも、諦めたくないんです!』
強い意志を纏った真っ直ぐな眼差しが、基希の心臓を貫いた。
ーまずいな…この女が欲しい。
『よしわかった!じゃあこうしよう。お前、俺と結婚しないか?そうすりゃ、親が決めた男となんか所帯を持つことはないし、またここに戻って来られる。どうだ、いい考えだろ?』
玲子があんぐりと口を開けてワタワタ言っている。
ー我ながら無理があったか…?親が決めた男が嫌なんじゃなくて、結婚事態に否定的な考えなのかもしれない。自分の意志をしっかり持った玲子ならあり得る。流されるようなのは嫌いだろうし……あぁ、駄目だな。
言ってはみたものの、早々に諦めてこの話を切り上げようとしたその時…
『わたし…で、よろしければ…ぜひ……』
顔を真っ赤にしながらも、決して目を逸らさない玲子が堪らなく愛しくて、思わずぎゅっと抱きしめる。
『そうか!玲子、お前が好きだ!一生離さないからな…ずっと側にいてくれ、いいな?』
彼女が来てからずっと抑えつけていた恋情の箍が、とうとう外れてしまった。
『はい、基希さん…私も好きです…』
この日…初めて玲子に触れた。
出会ってから今日まで、指一本だって触れたことはない。
抱きしめた身体は熱く火照り、小さく震えていた。
ー初めてか…そうだよな。
肩を抱いて胸に引き寄せると、互いの鼓動が重なり合い、早く繋がりたくて気持ちが早る。
『玲子……』
見つめ合ったまま名前を囁くと、玲子が瞳を潤ませた。
ー綺麗だ……って、え!?
『なっ…なんで泣くんだ!?』
基希が思わずギョッとすると、玲子はその美しい瞳を弓形にして微笑んだ。
『初めて…父に感謝しました。基希さんのおかげです、ありがとう……』
『俺のおかげ?』
何を感謝する事があるのか、どうして基希のおかげなのか、さっぱりわからなかったが、玲子は基希を見つめたまま言葉を続けた。
『もし父がこの名を付けてくれなければ、好きな人に呼ばれる喜びも知らずにいたでしょう?基希さんが私を呼んでくれたから…初めて自分の名前に意味を見出せました。だから父にも感謝してるんです』
ー全くこの娘は……
どこまでも真っ直ぐな玲子…優しくて、正義感が強くて、自分の考えを臆することなく話せる尊敬すべき女性。
これからの時代は、こういう女が活躍していくはずだ。
だが、何を言ったところで男尊女卑の世の中はそう簡単には変わらないだろう。
だからこそ、護ってやりたい。
『愛してる…玲子』
『私も…基希さん』
密かに恋心を寄せていた男に思いを告げられ、玲子は神から大福を授かったかのような幸せを感じていた。
そして…玲子の背中に回された手が、ゆっくりと帯を解いていく……
男に初めて身体を許す緊張と、基希に触れられる喜びが、玲子を天にも昇る心地にさせた。
ー恥ずかしくないわ…この胸の痣だって基希さんならきっと平気だって言ってくれるはずよ。それにこれからはずっと二人…たくさん話して、たくさん笑って、たくさん愛し合って、幸せに暮らしていくんですもの。基希さんとならどんな苦労だって乗り越えてみせるわ!
はらりと肩から着物を落とされ胸が露わになると、玲子は無意識に手で前を隠していた。
だが直ぐにすっ…と基希に優しくその手を解かれ、熱い眼差しを向けられる。
若干の恥ずかしさと、胸の痣を気味悪がられるのではないかという恐怖に襲われ、一瞬身体が強張った。
『綺麗だ…まるで紫陽花のように美しい……』
基希の蠱惑的な眼差しに当てられて声も出ない。
でも言いたい言葉が出ずとも不思議と不安はなく、むしろ全てが彼の掌の中にあるような、そんな安心感があった。
ーああ…これが私の愛した人なんだわ…海のように深くて広い心を持った優しい男。こんな男性、どこを探したって居やしない。
『基希さん…ありがとう。愛してます…』
だがその幸せも束の間、翌日…玲子は帰らぬ人となる。
一章~(四)に続く……
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