彼が他人になるまで

あやせ

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帰路についたのは惇が帰ってくる約2時間前。まだ帰ってくる時間ではないのはわかっていたけど帰宅してないことを確認し、「早く猫のご飯や、部屋の掃除をしなきゃ」と足早に家へと向かう。

玄関を開け家に入ると、玄関のすぐ隣の部屋で仕事をしていた惇の父と珍しく目が合った。それもわざわざこちらを振り向いて。
いつもは私が帰って来て挨拶をしても返事を返すこともなければ、こちらを見向きもしないのに。
珍しいなと思いつつ妙に冷ややかな視線に嫌な気にさせられた。

部屋の戸を開ける時、誰もいないはずの部屋に入るのに勇気がいった。

『なんだろう?なんか怖い。』

嫌な感じを覚えながら、いつまでも突っ立ってるわけにもいかず戸を開ける。
そして目の当たりにした光景に息を呑む。

「なにこれ…。」

たった一晩。私が家を開けたのはたった一晩。
にも関わらず目の前に広がった部屋の惨状は悲惨なものだった。

家を出る前にできる限り掃除をし部屋をきれいにして出たのに、今目の前に拾ってるのはまるで空き巣でも入ったかのような荒れ放題な部屋。
何かを探していたのか、はたまたむしゃくしゃして暴れたのかはわからない。
棚の中の物は部屋中に散らばり、工具やゲーム、DVDに雑誌までも床中に広げられていた。もちろん猫のトイレなんてもってのほか。掃除なんてされた形跡もなければお皿にはご飯すら入っていなかった。
(ご飯はもしかしたら食べたきった後かもしれないが、いつもは夕方帰ると少し残っている。)

唖然としつつも我に返り『この状態を元に戻す前に帰って来たらまた暴れられる。』と反射的に思い、惇の父が珍しくこちらを見たのはコレかと察し慌てて片付けを始めた。

2時間後、ギリギリ片付け終えた頃に惇が帰宅。
恐らく私の靴があるのを確認し、怒りが沸々と込み上げてきたのかドスドスと足音を立てて部屋に入って来た。

「お、おかえり」
「何しにきたわけ?ここあなたの家じゃないし、男漁りするような女いらんっちゃけど」
「そんなことするわけないやん」
「どうだか。あなた信用ないけん。てか信用されると思ってるんやったらとんだ思い違いだから」
「してもないことで信用ないからって言われても困るよ、何でそんな頭ごなしに怒鳴るの」
「女はすぐ男漁りするやん、元カノそうやったしあなたもそうやろ」
「元カノ知らないし、知らない人と一緒にされても困る」
「あーもううるさい、黙ってくれんかいな」

支離滅裂に捲し立てて、苛立ちを隠す気もない惇。それどころか手当たり次第当たり散らし、すぐ近くにあったタンスを蹴る始末。
その大きな音に猫も怖がり、ラックの上に登って隠れてしまった。
『これ以上気に触るようなこと言ったらやばいかもしれん。』
そう思ってしまってからは惇と『向き合って話し合う』ではなく、『機嫌を伺い宥める』になってしまった。

結局19時頃から日付を跨いだ5時頃まで惇の怒りは治らず、延々と否定され怒鳴られ続けた。
日中に綾と話したことで気付きかけていた惇の異常性には蓋をして、惇の支離滅裂で自己中極まりない話しを聞き入れてしまい別れるどころか元に戻ってしまった。



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