彼が他人になるまで

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吉井くんというのは惇の中学時代の先輩。
当時はそんなに仲良くなかったらしいけど、大人になって再会しバイクと釣りが共通の趣味だとわかってからたまにつるむようになったと聞いた。

このラインが来る直前までフルシカトをしていた惇だけど、「来る？」ではなく「行くよ」と送ってくるあたり私が「行かない」と拒否すると思ってない。
むしろ断ったらまた不機嫌になるのは目に見えているから、実質私には拒否権なんてものはない。

このラインを見て憂鬱な気分なまま定時時間の15分前、惇が吉井さんを連れて来店。
仲良く談笑しながらこちらに近づいて来た惇は、「飲み物買ったら外でタバコ吸いながら待ってるから。あ、あやせさんの分も買っとくけん！」と開口一番告げてそれまでの私への態度など忘れたという口振りだった。

ちなみ当時私が働いていた職場は敷地内禁煙なので、喫煙スペースなどない。
彼に限らず敷地内で喫煙し、吸い殻を捨てていく客は跡を立たなかったが、彼女の職場前で喫煙行為はやめてほしかった。

定時時間間際に姿を店内に見せたことで、私はもちろん他の従業員も気を遣いはじめる。
なぜなら1つ目の理由は付き合い始めてからほぼ毎日仕事の日は惇が私を迎えに来ているわけだが、関係者以外立ち入り禁止の扉の前で待つから出入りをしにくくなるからである。
２つ目は詳細は別の話で綴るが当時の私の給料は準社員なこともあり時給制だった。
昇給やボーナスはなく、その割に仕事量は正社員とほぼ同じ。
なのでできる時は少しでも稼ぐために残業をしていたのだが、それに怒った惇が店長を捕まえて怒鳴り込んだことがあるからである。
それから惇が来店すると微かではあるが店内がピリつき、気を遣われるようになった。

案の定この日は吉井さんも一緒にいたこともあって、定時ぴったりに店長からインカムで退勤時間になったことを知らされ帰宅するよう促された。