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第5章 1300キロを越えて
第79話 1300キロを越えて(4)★
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将の顔はちょうど聡の顔の前にあった。縁のすぐ下にある、石の上に立っているらしい。
一瞬だけ見つめあって、聡は将に体重を預けるように体を投げ出した。
将は聡の重みを受け止めると、ためらわず聡の唇に自らの唇を重ねた。
冬の夜半のしん、と尖った空気の中で、温かく柔らかいお互いの唇。
聡は、将を部屋に上げて窓を閉めることを思いつかず、
将は草履を脱いで聡の部屋に上がることを忘れて、しばらくそのまま抱き合っていた。
そんな二人を上弦の月が冷たく照らす。
流れるせせらぎさえも今の二人にはまったく感じなかった。
お互いの腕をお互いの体に絡みつけたぬくもりで寒さも感じない……はずだったが、将がくしゃみをして聡は我に返った。
将の姿を見ると、丹前も羽織も身につけず浴衣一枚だった。足元は裸足に草履だけ。
「大変。そんな格好で風邪引いちゃう。……入って」
将は草履を石の上に脱いで、縁側から聡の部屋に入った。
板張りの縁側は、地面からの底冷えで氷のようだったが、長いこと裸足でいた将の足はすでに感覚がない。
月明かりの届かない部屋はお互いの顔がようやく判別できるほどの暗さだった。
そこへゴツン、という鈍い音に続いて
「いて!」
と将の声。
背の高い将は、古い家の障子の鴨居におでこをぶつけたのだ。
「大丈夫?」
将はおでこを押さえて苦笑いをした。聡も吹き出す。二人小さく笑いあった。
窓を開け放して抱き合っていた時間は思いのほか長かったらしく、部屋はすっかり冬の空気で冷え切っていた。
パジャマ姿の聡は、ベッドサイドにあるスタンドをつけると、同じくベッド近くに置いた部屋のヒーターを入れた。
二人はヒーターに向かって並んで腰を下ろした。吐く息が室内なのにしばらく白かった。
将はあたりを見回した。
6畳の和室にカーペットを敷いて洋室状に利用している。部屋にはベッドと勉強机、本棚。
杉板張りの天井は、大磯の『ヒージー』の家を思わせる。
たぶん、あのアルバムの中の聡が暮らしていた部屋のままなのだろう。
「寒くない? お茶か何か淹れて来ようか」
将はだまって、ゆっくりと首を振った。聡の顔から目をそらさない。
と、プッと吹き出す。
「な、何?」
「文化祭のパンク姿、見た」
将は笑いながら答える。見る間に聡の顔が赤くなった。
「……ヤダー、もう信じられなーい!秋月ったら、何の写真見せてるんだか!」
「でもカッコよかったぜ」
「んもー。あれは、私の人生の汚点なんだからー。忘れて!ネ?」
聡は将の前で手をあわせた。
「ううん。忘れない」
「ええー、ヤダ」
将は静かに聡の顔を見つめて微笑んだ。
「俺と同い年の、貴重なアキラ画像だもん。心に焼き付けた」
そういうと、将はそっと聡の顔を両手で包むようにした。
「でも、今のアキラが一番好きだ」
「……将」
頬を包む手が冷え切って冷たい。
「アキラ。……本当にこないだはごめん」
今度は聡が首を振る番だ。
「こっちこそごめん。優柔不断な態度で。だけど……」
聡は一瞬下を向いたが、将の目を見つめて言った。
スタンドのオレンジの光を表面に映しながらも明るい金茶色に透けた瞳に吸い込まれそうになる。
「私が好きなのは将、一人だから」
ここまで聞くと、将は聡を抱きしめずにはいられない。
「いろいろ……。まだいろいろ問題があるんだけど、きっと乗り越えるから」
将の熱い体温に包まれた聡は、将の肩に腕をからみつけながらあえぐように宣言する。
「アキラ……」
もうこれ以上の言葉はいらなかった。将は聡の自分に対する思いのすべてを受け取った。
将はいったん聡の体を離すと、その柔らかい唇に再び自分の唇を押し当てた。
力が抜けていくような聡の体をしっかりと支えるように抱きしめながら唇をあわせた。
何度も何度も。
将の舌は聡の口の中のすべてを、そして聡の舌は将の口の中のすべてを愛撫した。
温かくぬるぬるとした唾液が混じりあう。
柔らかくざらざらした舌、つるりとした歯、そして歯茎……そんなところなのに、舌で撫でられるだけで、動悸が昂まるような快感を二人とも共有していた。
お互いの口を何度舌が絡み合いながら往復しただろうか。
聡は気が付くと将の膝の上で抱えられるような体勢で将を見上げていた。
腕だけを将の首にからめるように回す。また、いっそう将は逞しく成長したように思う。
最後の1回がお互いの唇から唾液の糸をひいて離れたとき、聡はふわりと宙に浮いた。
突然だったので思わず将の首にしがみつく。
将は聡を横抱きにして抱えあげて立ち上がると、彼女をベッドに横たえるようにそっと下ろす。
横たわった聡と将で目が合った。
将は見開いた目で何かを確かめたいような顔だ。聡は何も言わずにうなづいた。
将は聡がうなづくのを見ると、帯を解いて自らの浴衣を脱ぎ始めた。
聡は目を開けてその一部始終を見ていた。
何度か目にしているが、長身に流れるような筋肉がバランスよくついた美しい肉体が浴衣の下から現れる。
トランクス1枚だけになると、聡の華奢な肩の外側に肘をついた体勢でのしかかってきた。
ギシッと鈍い音がする。ベッドか、家か、どっちがきしんだのかわからないが。
聡の目の上の視界は、ほとんど将の裸の上半身に覆われた。
スタンドだけの灯りの中、十代の若者らしい筋肉が、しっとりとした光沢を放っているのがわかる。
これから将が何をしようとしているのかぐらいは、わかる。
聡の意識のどこかでまだ、阻止しなくては、まだ自分と将は教師と生徒だ、という理性が残っていないわけではない。が、聡はもう抗えなかった。
将と行き着くところまで行ってみたら。彼は聡を何処まで連れて行ってくれるのか。
自分に逢いに、自分に愛を告げるために、はるばる1000キロ以上の距離をほぼ寝ずに走破した将に、聡はすべてを与えてもいいと決心した。
将は、そのままの体制で、聡の名前を呼ぶと、聡の首筋に唇を這わせながら、抱きしめてきた。
聡は衣服に覆われない、生(き)のままの将の熱い体温と体臭に包まれた。もう何も考えられない。
腿のあたりには、すでに固くなった将のそれがあたっている。
それは聡の体をよけいに熱くした。
もはや、すべての理性は溶けて、将の『それ』を迎え入れる器官から液体となって流れ出るのがわかる。
将は口づけしながら、聡のパジャマのボタンをはずそうとしているらしい。
しかし、なかなか巧くいかないらしく、とうとう、いったん上半身を離すと、慎重かつ丁寧に聡のパジャマのボタンをはずしはじめた。
パジャマの下はブラジャーをしていない胸がときめいている。
聡はされるがままに任せながら、『作業』をする将の顔を下から見上げた。
テストでも解いているような大真面目な顔に、聡は思わず吹きだしそうになるが、こらえた。
すべてのボタンをはずすと、将はいったん聡を抱き起こした。
パジャマの袖を脱がせるつもりだろう。聡は、自らパジャマの前を開くと、肩を開いてそれを脱ぎ捨ててしまった。
聡の、何も身につけない豊かな上半身はオレンジ色の灯の下、将の目の前にさらけだされた。
聡は、掛け布団を開けた中に再び横たわると、腕をのばしてスタンドの灯りを一段暗くした。
将は、ベッドに両腕をついて、聡のそれをしばらく放心したように眺めていた。あんまり見られて聡はとうとう
「……はずかしい」
と小さくつぶやいて、胸の上に自分の両腕を重ねた。将は
「アキラ、愛してる」
と吐息のように囁きながら、もう一度聡に覆い被さると、何度目だか、もはや二人とも数えていない口づけをした。
剥き出しになったお互いの上半身の、熱い肌と肌を密着させて抱き合う。
くっついた部分から将の血潮が流れ込んで来るような、そんな感覚に聡は酔った。
一瞬だけ見つめあって、聡は将に体重を預けるように体を投げ出した。
将は聡の重みを受け止めると、ためらわず聡の唇に自らの唇を重ねた。
冬の夜半のしん、と尖った空気の中で、温かく柔らかいお互いの唇。
聡は、将を部屋に上げて窓を閉めることを思いつかず、
将は草履を脱いで聡の部屋に上がることを忘れて、しばらくそのまま抱き合っていた。
そんな二人を上弦の月が冷たく照らす。
流れるせせらぎさえも今の二人にはまったく感じなかった。
お互いの腕をお互いの体に絡みつけたぬくもりで寒さも感じない……はずだったが、将がくしゃみをして聡は我に返った。
将の姿を見ると、丹前も羽織も身につけず浴衣一枚だった。足元は裸足に草履だけ。
「大変。そんな格好で風邪引いちゃう。……入って」
将は草履を石の上に脱いで、縁側から聡の部屋に入った。
板張りの縁側は、地面からの底冷えで氷のようだったが、長いこと裸足でいた将の足はすでに感覚がない。
月明かりの届かない部屋はお互いの顔がようやく判別できるほどの暗さだった。
そこへゴツン、という鈍い音に続いて
「いて!」
と将の声。
背の高い将は、古い家の障子の鴨居におでこをぶつけたのだ。
「大丈夫?」
将はおでこを押さえて苦笑いをした。聡も吹き出す。二人小さく笑いあった。
窓を開け放して抱き合っていた時間は思いのほか長かったらしく、部屋はすっかり冬の空気で冷え切っていた。
パジャマ姿の聡は、ベッドサイドにあるスタンドをつけると、同じくベッド近くに置いた部屋のヒーターを入れた。
二人はヒーターに向かって並んで腰を下ろした。吐く息が室内なのにしばらく白かった。
将はあたりを見回した。
6畳の和室にカーペットを敷いて洋室状に利用している。部屋にはベッドと勉強机、本棚。
杉板張りの天井は、大磯の『ヒージー』の家を思わせる。
たぶん、あのアルバムの中の聡が暮らしていた部屋のままなのだろう。
「寒くない? お茶か何か淹れて来ようか」
将はだまって、ゆっくりと首を振った。聡の顔から目をそらさない。
と、プッと吹き出す。
「な、何?」
「文化祭のパンク姿、見た」
将は笑いながら答える。見る間に聡の顔が赤くなった。
「……ヤダー、もう信じられなーい!秋月ったら、何の写真見せてるんだか!」
「でもカッコよかったぜ」
「んもー。あれは、私の人生の汚点なんだからー。忘れて!ネ?」
聡は将の前で手をあわせた。
「ううん。忘れない」
「ええー、ヤダ」
将は静かに聡の顔を見つめて微笑んだ。
「俺と同い年の、貴重なアキラ画像だもん。心に焼き付けた」
そういうと、将はそっと聡の顔を両手で包むようにした。
「でも、今のアキラが一番好きだ」
「……将」
頬を包む手が冷え切って冷たい。
「アキラ。……本当にこないだはごめん」
今度は聡が首を振る番だ。
「こっちこそごめん。優柔不断な態度で。だけど……」
聡は一瞬下を向いたが、将の目を見つめて言った。
スタンドのオレンジの光を表面に映しながらも明るい金茶色に透けた瞳に吸い込まれそうになる。
「私が好きなのは将、一人だから」
ここまで聞くと、将は聡を抱きしめずにはいられない。
「いろいろ……。まだいろいろ問題があるんだけど、きっと乗り越えるから」
将の熱い体温に包まれた聡は、将の肩に腕をからみつけながらあえぐように宣言する。
「アキラ……」
もうこれ以上の言葉はいらなかった。将は聡の自分に対する思いのすべてを受け取った。
将はいったん聡の体を離すと、その柔らかい唇に再び自分の唇を押し当てた。
力が抜けていくような聡の体をしっかりと支えるように抱きしめながら唇をあわせた。
何度も何度も。
将の舌は聡の口の中のすべてを、そして聡の舌は将の口の中のすべてを愛撫した。
温かくぬるぬるとした唾液が混じりあう。
柔らかくざらざらした舌、つるりとした歯、そして歯茎……そんなところなのに、舌で撫でられるだけで、動悸が昂まるような快感を二人とも共有していた。
お互いの口を何度舌が絡み合いながら往復しただろうか。
聡は気が付くと将の膝の上で抱えられるような体勢で将を見上げていた。
腕だけを将の首にからめるように回す。また、いっそう将は逞しく成長したように思う。
最後の1回がお互いの唇から唾液の糸をひいて離れたとき、聡はふわりと宙に浮いた。
突然だったので思わず将の首にしがみつく。
将は聡を横抱きにして抱えあげて立ち上がると、彼女をベッドに横たえるようにそっと下ろす。
横たわった聡と将で目が合った。
将は見開いた目で何かを確かめたいような顔だ。聡は何も言わずにうなづいた。
将は聡がうなづくのを見ると、帯を解いて自らの浴衣を脱ぎ始めた。
聡は目を開けてその一部始終を見ていた。
何度か目にしているが、長身に流れるような筋肉がバランスよくついた美しい肉体が浴衣の下から現れる。
トランクス1枚だけになると、聡の華奢な肩の外側に肘をついた体勢でのしかかってきた。
ギシッと鈍い音がする。ベッドか、家か、どっちがきしんだのかわからないが。
聡の目の上の視界は、ほとんど将の裸の上半身に覆われた。
スタンドだけの灯りの中、十代の若者らしい筋肉が、しっとりとした光沢を放っているのがわかる。
これから将が何をしようとしているのかぐらいは、わかる。
聡の意識のどこかでまだ、阻止しなくては、まだ自分と将は教師と生徒だ、という理性が残っていないわけではない。が、聡はもう抗えなかった。
将と行き着くところまで行ってみたら。彼は聡を何処まで連れて行ってくれるのか。
自分に逢いに、自分に愛を告げるために、はるばる1000キロ以上の距離をほぼ寝ずに走破した将に、聡はすべてを与えてもいいと決心した。
将は、そのままの体制で、聡の名前を呼ぶと、聡の首筋に唇を這わせながら、抱きしめてきた。
聡は衣服に覆われない、生(き)のままの将の熱い体温と体臭に包まれた。もう何も考えられない。
腿のあたりには、すでに固くなった将のそれがあたっている。
それは聡の体をよけいに熱くした。
もはや、すべての理性は溶けて、将の『それ』を迎え入れる器官から液体となって流れ出るのがわかる。
将は口づけしながら、聡のパジャマのボタンをはずそうとしているらしい。
しかし、なかなか巧くいかないらしく、とうとう、いったん上半身を離すと、慎重かつ丁寧に聡のパジャマのボタンをはずしはじめた。
パジャマの下はブラジャーをしていない胸がときめいている。
聡はされるがままに任せながら、『作業』をする将の顔を下から見上げた。
テストでも解いているような大真面目な顔に、聡は思わず吹きだしそうになるが、こらえた。
すべてのボタンをはずすと、将はいったん聡を抱き起こした。
パジャマの袖を脱がせるつもりだろう。聡は、自らパジャマの前を開くと、肩を開いてそれを脱ぎ捨ててしまった。
聡の、何も身につけない豊かな上半身はオレンジ色の灯の下、将の目の前にさらけだされた。
聡は、掛け布団を開けた中に再び横たわると、腕をのばしてスタンドの灯りを一段暗くした。
将は、ベッドに両腕をついて、聡のそれをしばらく放心したように眺めていた。あんまり見られて聡はとうとう
「……はずかしい」
と小さくつぶやいて、胸の上に自分の両腕を重ねた。将は
「アキラ、愛してる」
と吐息のように囁きながら、もう一度聡に覆い被さると、何度目だか、もはや二人とも数えていない口づけをした。
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