75 / 427
第4章 すれちがい
第68話 将、13歳(2)
しおりを挟む
『俺、大悟ってんだ。○○中1年。お前は?』
『将、将っていうんだ……。△△中1年』
大悟は将を連れて、深夜もあいてる大型書店に入った。
コミックのコーナーでは何冊か、お勧めコミックの1巻が立ち読みできるようになっている。
『ここで立ち読みしてて。俺のほうは絶対見るなよ』
その1冊を将に立ち読みさせると、大悟は素早く他の棚を物色しはじめた。
大悟は、悪びれもせずに、コミックの数冊をリュックの中に入れた。
気付いた店員がそっちを見るのがわかる。
将は立ち読みをしながらヒヤヒヤした。
……しかし、大悟は、レジに行くとリュックからコミックを出してお金を払っていた。
そしてそれが終わると将のところへ来て、
『行くぞ』
と囁きながら将の腿のところに平積みになってるコミックを1冊素早く盗った。
これは店員は気付かなかったらしい。
将は冷や汗が出る思いだった……万引きの現場を見たのは初めてだった。
さらに、大悟はいったんトイレで戦利品のフィルムとスリップを取り外すと、その足で今度はブックオフへ向かった。
そこで将は、大悟が盗ったのが1冊ではないことに気付いた。
さっきリュックに入れたコミックのうち、お金を払ったのはほんの一部で、半分はそのまま持って来ていたのだ。
コミック5冊は新品だったので1000円以上になった。
『やった、メシ代』
ブックオフを出た大悟は将の顔を見てニヤっと笑った。
その夜、将は大悟のアパートに泊めてもらうことになった。
『誰も来ねえから。安心しろよ』
大悟の住んでいるというアパートは、アパート同士、離れてる意味がなさそうなくらい建て込んでいた。
翌朝将は、そこの日当たりが最低なことを知るのだが、将がそこに到着したときはまだ夜だった。
大悟は先にベニヤ製のきしむドアを開けると、蛍光灯を付けた。
いやにチカチカと点滅する白い安っぽい光に照らされて、そこは古くて汚いアパートだということが分かった。
汚い砂壁のあちこちは砂が剥げ、ひびが入っている。
『痛え!』
裸足だった将は足裏に何かが刺さって足の裏を覗き込んだ。
トゲが足の裏にぶっすりと刺さっていた。
『気をつけろよ。畳がときどき刺さるんだ』
大悟はマキロンを投げながら言った。トゲが刺さる畳なんて将は初めてだった。
『やる?』
大悟はショッポを差し出した。将がうなづくと大悟は器用に一本を飛び出させた。
将が不器用に一本を指に挟むと、大悟はそれにライターで火をつけてくれた。
タバコは隠れて何度もやっているが、大悟のいかにも物慣れた動作の前で、将は少し緊張しながら煙を吐いた。
『さっきはありがとうな』
大悟は言った。将はきょとんとした。助けたのはそっちのほうじゃ……。
『お前がタテになってくれたから、俺のほうは疑われないで済んだ。いいよ、その金髪』
大悟はもう一度ニヤッとした。
――ああ、そういうこと?
将は納得した。将の目立つ金髪に気を取られて店員は大悟の万引きをずいぶん見逃してしまったということだ。
『一人暮らし?』
将は大悟に聞いた。大悟は煙を吐いて目を細めながら首を振った。
『オヤジと二人暮し。でもオヤジはめったに帰ってこねえし』
『そっか』
『将、お前は?』
『……』
いいいどむ将に、大悟はあまり深く訊かなかった。ミスドからけっぱってきたであろう灰皿にタバコを揉み潰すと、
『好きなだけここにいればいいや』
とフトンを敷き始めた。
バカオヤジのだけど、いい?と言われたフトンは、思い切りセンベイで、酸っぱいようなカビの臭いとヤニの混ざったようなニオイがひどかった。
おまけに風の通らないアパートの夏の夜は暑くて、将はなかなか寝付けなかった。
夏休みに入った将は大悟からいろいろなことを教わった。
見つからずに、かつ疑われずに万引きする方法。
普通の薬や小麦粉を『ドラッグ』だといって女の子たちに売りつける方法。
将は、小学生の女の子が夜遊びや援助交際をしているのに最初とても驚いた。
が、そんな女の子たちが将たちの顧客だった。
偽の薬で『ラリッた』などとフラフラする女の子を見て、将は可笑しかった。
それは主に遊び代もそうだったが、食うための熾烈な戦いだった。
さらに、自転車の鍵を壊す方法。盗んだ自転車は登録を剥がして、闇業者に売って金にする。
応用編で原付を鍵なしでエンジンをかけるにはどうしたらいいか。また、その運転方法。
将はすぐに原付のリミッターを切って突っ走る快感を知った。
どんなに暑い夜も、ノーヘルでぶっ飛ばせば気持ちいい。
大悟を後ろに乗せて金髪をなびかせて盗んだ原付をぶっ飛ばす。
笑いながらすべてが後ろにふっとんでいく。
そのとき将も大悟も世界を手にしたような錯覚に酔った。
夏休みの間、大悟の父はまったく帰ってこなかった。
ということは、家に金も入れない。
この家の家賃をどうしているのか、という疑問すらまだ中1の将は気付かなかった。
それはそうと、大悟は自分の食い扶持のほとんどは自分で稼がなくてはならなかったのだ。
大悟の父が、借金取りに追われている、というのを知るのはその直後だった。
『将、今日は車を狙おうぜ』
マックで一番安いハンバーガーを食べながら、大悟が言った。
その前に、新しい服がほしい、と言っていた。
将も明らかに校則違反の長さに伸びた髪の長さはいいとして、根元が黒くなってきたのが気になり始めていた。
家に帰って、自分名義の通帳を盗んでこようかと思っていた矢先だった。
『え、車を盗むの?』
将はマックシェイクのストローから口を離して言った。
『バカ、車が盗めるわけねーじゃん』
大悟はギャハハとウケた。
その夜。大悟と将はある屋外駐車場に来ていた。
鉄パイプを途中、工事現場からGETしている。そしてなぜか将にバスタオルを持たせている。
『ここは、監視カメラがないんだ。奇跡的だぜ』
大悟は、静かに並ぶ車を見て、声をひそめて囁いた。
大悟は常日頃から、ハンザイは準備がカンヨウだと言っている。
カンヨウ、なんて言葉を使うなんて、意外とこいつ、国語できんだ?と将は思う。
『なるだけ目立たないように、車の中を覗くんだ。CDが置いてあったら頂くんだ。カーナビがあったらラッキー』
『頂くって、どうやって』
『これで窓を叩き割るんだよ』
大悟は鉄パイプをかざした。将はそのあまりに大胆な手口に口をあんぐりあけた。
『これは何に使うんだよ』
将はバスタオルを広げた。
『まあ見てろよ。おっ、あったぜ。カーナビ♪ しかもCDもいっぱい出しっぱ』
大悟は、将にいって、窓にそってタオルを広げさせた。
そして鉄パイプを振り上げると、タオルの上から窓ガラスにヒットさせる。
鈍い音がして、窓ガラスがバラバラに割れた。
『こうやると、音が小さくなるでしょ。まわり見とけよ』
大悟は割れた窓に手をつっこんでロックを解除すると車のドアをらくらくとあけた。
そして、ケースに入ったCDを将にまず渡すと、自分はカーナビを取り外し始めた。
カーナビはあっさり外れたが、大悟はダッシュボードを開けてまだ何かを探している。
将は、時間が経過するとともにひやひやしてきた。
『大悟、もういいだろ、何探してるんだよ』
『ナビのマニュアル。マニュアルがあると値段があがるんだ。あった』
マニュアルはダッシュボードではなくて、ドアのポケットにあった。
『やべえ、人が来そうだぜ』
将は大悟に囁いた。
大悟はナビとマニュアルを手早くリュックに入れると、正面入り口はヤバイと思ったのか将をうながして駐車場の金網を乗り越えた。
CD20枚以上とカーナビは結構なお金になった。
それから、その日偶然にも大悟の父から2万が現金書留で送られてきた。
おかげで将は根元を染めるための毛染め、大悟は新しい服を買うことができてなお、金は余った。
『これで、今日は焼肉にでも行こうぜ』
などと二人、民生委員に持ってきてもらった扇風機にあたりながら、にこにこと話していたときだ。
廊下に響く靴音に敏感に大悟は振り返った。何枚かある万札の1枚を手早く折り始める。
『なんだ?』
将はそんな大悟の行動が分からなかった。
が、まもなくドンドンドン、とベニヤのドアが乱暴に叩かれて
『島さーん!』
『島ァ、いるんだろ!』
とどなり声が聞こえた。
大悟は折りたたんだ万札の1枚を、畳と壁の間の隙間にねじこむ。
その上から読み古した漫画雑誌を隠すように置いたとき、ベニヤのドアが蹴破られた。
趣味の悪いスーツを着た顔色の悪い男と、アロハシャツの若いチンピラが土足のまま部屋に上がってきた。
『おう、ぼっちゃん。オヤジは?』
年配のほうが聞いてきた。
『……いねえ』
大悟は呟くように答えた。
『おらぁ、隠すんじゃねえ!』
若い方がいきなり大声を出したので、将はその音量にビクッと体を振るわせた。
『お友達は、ここのお父さんに会わなかった?』
年配のほうが将に聞いてきた。将は首をブンブンと振った。
『そう……じゃあ、ぼっちゃん、何かお父さんから預かってない?』
こんどは大悟のほうが首をブンブンと振った。
『かわりにぼっちゃんが利息を払ってくれてもいいんだけど』
年配のヤクザがタバコに火をつけた。
『……そんなの、ありません』大悟はうつむいた。
『ウソつきは』
若いチンピラが大悟の首根っこをつかむと
『泥棒の始まりって』
そのままその顔を殴った。
『やめろ!』
思わず将は立ち上がって叫んだ。若いヤクザはまったく感知せず、倒れた大悟を蹴っている。大悟は身を丸めて耐えている。
『お友達のボク、このコはいつもウソをつくんだよね』
年配のヤクザが将に向き直る。
『うそつきにはお灸を据えないと――』
そういって、年配のヤクザは吸っていた煙草を大悟の肩に押し付けた。
『うあああっ』
じゅっと小さく音がして、大悟が悲鳴をあげた。
その恐ろしい様子を見てしまった将は思わず、その年配のヤクザに飛びつくと……とうとう一発殴った。
こんな風に人を殴ったのは初めてだった。ヤクザは油断していたのかそのまま倒れこんだ。
『小僧――』
若いチンピラが、大悟を蹴るのをやめて将に鉄拳を振り上げた。
大悟がそれを止めようとチンピラの腕にしがみつきながら、
『払います、払いますから』と叫んだ。
将は、起き上がった年配のヤクザに一発仕返しをされた。上級生のパンチなどとは違う。
将の頬から眼窩にもろに決まり将は壁まで飛ばされた。目から火花が散った。おかげで気絶する寸前だったのに
『これでも手加減してやったんだぜ、気をつけろや、ボクちゃん』
と見下ろされた。
大悟はポケットに残っていた札のうち1枚は自分のところに残して、2枚を出した……父から送ってきた全額にあたる。
すると若いチンピラは、2枚を受け取ると、大悟が残そうとした1枚も引っ張った。
『迷惑料だよ』
と凄んだので、大悟は指を離さざるをえなかった。
さらに、チンピラはまわっていた扇風機のコンセントも引っこ抜くとそれを抱えて、ようやく帰ってくれた。
殴られて倒されたままの将に、大悟が振り返った。
『ごめん。将。……あいつらたまに来るんだ。オヤジが利息を払ってないとかで』
将は何もいえなかった。殴られた目が開かない。
しかし、次に大悟は、ニヤッと笑って指差した。
『でもこれだけは見つからなかったぜ』
さっき畳にねじこんだ万札。
将は大悟の笑顔を見て、指を立てて弱弱しく笑顔を返した。
殴られた目は腫れあがり、完全に治るのに1週間以上を要した。
しかし、それ以来、将は人を躊躇せずに殴れるようになった。もともと基礎があった将である。急に強くなった。
おかげで、自分より弱そうな不良からカツアゲをするようになって、金回りもよくなった。
悪い仲間も増え、その年のうちに女も覚えた。
だけど、大悟との友情はずっと続いた。15歳で離れ離れになるまで。
今も……大悟とさまざまな冒険をした13歳の夏は将にとって忘れがたい思い出だった。
あんなことはあったけれど、かけがえのない友情はこれからも続く、と将は信じたかった……。
『将、将っていうんだ……。△△中1年』
大悟は将を連れて、深夜もあいてる大型書店に入った。
コミックのコーナーでは何冊か、お勧めコミックの1巻が立ち読みできるようになっている。
『ここで立ち読みしてて。俺のほうは絶対見るなよ』
その1冊を将に立ち読みさせると、大悟は素早く他の棚を物色しはじめた。
大悟は、悪びれもせずに、コミックの数冊をリュックの中に入れた。
気付いた店員がそっちを見るのがわかる。
将は立ち読みをしながらヒヤヒヤした。
……しかし、大悟は、レジに行くとリュックからコミックを出してお金を払っていた。
そしてそれが終わると将のところへ来て、
『行くぞ』
と囁きながら将の腿のところに平積みになってるコミックを1冊素早く盗った。
これは店員は気付かなかったらしい。
将は冷や汗が出る思いだった……万引きの現場を見たのは初めてだった。
さらに、大悟はいったんトイレで戦利品のフィルムとスリップを取り外すと、その足で今度はブックオフへ向かった。
そこで将は、大悟が盗ったのが1冊ではないことに気付いた。
さっきリュックに入れたコミックのうち、お金を払ったのはほんの一部で、半分はそのまま持って来ていたのだ。
コミック5冊は新品だったので1000円以上になった。
『やった、メシ代』
ブックオフを出た大悟は将の顔を見てニヤっと笑った。
その夜、将は大悟のアパートに泊めてもらうことになった。
『誰も来ねえから。安心しろよ』
大悟の住んでいるというアパートは、アパート同士、離れてる意味がなさそうなくらい建て込んでいた。
翌朝将は、そこの日当たりが最低なことを知るのだが、将がそこに到着したときはまだ夜だった。
大悟は先にベニヤ製のきしむドアを開けると、蛍光灯を付けた。
いやにチカチカと点滅する白い安っぽい光に照らされて、そこは古くて汚いアパートだということが分かった。
汚い砂壁のあちこちは砂が剥げ、ひびが入っている。
『痛え!』
裸足だった将は足裏に何かが刺さって足の裏を覗き込んだ。
トゲが足の裏にぶっすりと刺さっていた。
『気をつけろよ。畳がときどき刺さるんだ』
大悟はマキロンを投げながら言った。トゲが刺さる畳なんて将は初めてだった。
『やる?』
大悟はショッポを差し出した。将がうなづくと大悟は器用に一本を飛び出させた。
将が不器用に一本を指に挟むと、大悟はそれにライターで火をつけてくれた。
タバコは隠れて何度もやっているが、大悟のいかにも物慣れた動作の前で、将は少し緊張しながら煙を吐いた。
『さっきはありがとうな』
大悟は言った。将はきょとんとした。助けたのはそっちのほうじゃ……。
『お前がタテになってくれたから、俺のほうは疑われないで済んだ。いいよ、その金髪』
大悟はもう一度ニヤッとした。
――ああ、そういうこと?
将は納得した。将の目立つ金髪に気を取られて店員は大悟の万引きをずいぶん見逃してしまったということだ。
『一人暮らし?』
将は大悟に聞いた。大悟は煙を吐いて目を細めながら首を振った。
『オヤジと二人暮し。でもオヤジはめったに帰ってこねえし』
『そっか』
『将、お前は?』
『……』
いいいどむ将に、大悟はあまり深く訊かなかった。ミスドからけっぱってきたであろう灰皿にタバコを揉み潰すと、
『好きなだけここにいればいいや』
とフトンを敷き始めた。
バカオヤジのだけど、いい?と言われたフトンは、思い切りセンベイで、酸っぱいようなカビの臭いとヤニの混ざったようなニオイがひどかった。
おまけに風の通らないアパートの夏の夜は暑くて、将はなかなか寝付けなかった。
夏休みに入った将は大悟からいろいろなことを教わった。
見つからずに、かつ疑われずに万引きする方法。
普通の薬や小麦粉を『ドラッグ』だといって女の子たちに売りつける方法。
将は、小学生の女の子が夜遊びや援助交際をしているのに最初とても驚いた。
が、そんな女の子たちが将たちの顧客だった。
偽の薬で『ラリッた』などとフラフラする女の子を見て、将は可笑しかった。
それは主に遊び代もそうだったが、食うための熾烈な戦いだった。
さらに、自転車の鍵を壊す方法。盗んだ自転車は登録を剥がして、闇業者に売って金にする。
応用編で原付を鍵なしでエンジンをかけるにはどうしたらいいか。また、その運転方法。
将はすぐに原付のリミッターを切って突っ走る快感を知った。
どんなに暑い夜も、ノーヘルでぶっ飛ばせば気持ちいい。
大悟を後ろに乗せて金髪をなびかせて盗んだ原付をぶっ飛ばす。
笑いながらすべてが後ろにふっとんでいく。
そのとき将も大悟も世界を手にしたような錯覚に酔った。
夏休みの間、大悟の父はまったく帰ってこなかった。
ということは、家に金も入れない。
この家の家賃をどうしているのか、という疑問すらまだ中1の将は気付かなかった。
それはそうと、大悟は自分の食い扶持のほとんどは自分で稼がなくてはならなかったのだ。
大悟の父が、借金取りに追われている、というのを知るのはその直後だった。
『将、今日は車を狙おうぜ』
マックで一番安いハンバーガーを食べながら、大悟が言った。
その前に、新しい服がほしい、と言っていた。
将も明らかに校則違反の長さに伸びた髪の長さはいいとして、根元が黒くなってきたのが気になり始めていた。
家に帰って、自分名義の通帳を盗んでこようかと思っていた矢先だった。
『え、車を盗むの?』
将はマックシェイクのストローから口を離して言った。
『バカ、車が盗めるわけねーじゃん』
大悟はギャハハとウケた。
その夜。大悟と将はある屋外駐車場に来ていた。
鉄パイプを途中、工事現場からGETしている。そしてなぜか将にバスタオルを持たせている。
『ここは、監視カメラがないんだ。奇跡的だぜ』
大悟は、静かに並ぶ車を見て、声をひそめて囁いた。
大悟は常日頃から、ハンザイは準備がカンヨウだと言っている。
カンヨウ、なんて言葉を使うなんて、意外とこいつ、国語できんだ?と将は思う。
『なるだけ目立たないように、車の中を覗くんだ。CDが置いてあったら頂くんだ。カーナビがあったらラッキー』
『頂くって、どうやって』
『これで窓を叩き割るんだよ』
大悟は鉄パイプをかざした。将はそのあまりに大胆な手口に口をあんぐりあけた。
『これは何に使うんだよ』
将はバスタオルを広げた。
『まあ見てろよ。おっ、あったぜ。カーナビ♪ しかもCDもいっぱい出しっぱ』
大悟は、将にいって、窓にそってタオルを広げさせた。
そして鉄パイプを振り上げると、タオルの上から窓ガラスにヒットさせる。
鈍い音がして、窓ガラスがバラバラに割れた。
『こうやると、音が小さくなるでしょ。まわり見とけよ』
大悟は割れた窓に手をつっこんでロックを解除すると車のドアをらくらくとあけた。
そして、ケースに入ったCDを将にまず渡すと、自分はカーナビを取り外し始めた。
カーナビはあっさり外れたが、大悟はダッシュボードを開けてまだ何かを探している。
将は、時間が経過するとともにひやひやしてきた。
『大悟、もういいだろ、何探してるんだよ』
『ナビのマニュアル。マニュアルがあると値段があがるんだ。あった』
マニュアルはダッシュボードではなくて、ドアのポケットにあった。
『やべえ、人が来そうだぜ』
将は大悟に囁いた。
大悟はナビとマニュアルを手早くリュックに入れると、正面入り口はヤバイと思ったのか将をうながして駐車場の金網を乗り越えた。
CD20枚以上とカーナビは結構なお金になった。
それから、その日偶然にも大悟の父から2万が現金書留で送られてきた。
おかげで将は根元を染めるための毛染め、大悟は新しい服を買うことができてなお、金は余った。
『これで、今日は焼肉にでも行こうぜ』
などと二人、民生委員に持ってきてもらった扇風機にあたりながら、にこにこと話していたときだ。
廊下に響く靴音に敏感に大悟は振り返った。何枚かある万札の1枚を手早く折り始める。
『なんだ?』
将はそんな大悟の行動が分からなかった。
が、まもなくドンドンドン、とベニヤのドアが乱暴に叩かれて
『島さーん!』
『島ァ、いるんだろ!』
とどなり声が聞こえた。
大悟は折りたたんだ万札の1枚を、畳と壁の間の隙間にねじこむ。
その上から読み古した漫画雑誌を隠すように置いたとき、ベニヤのドアが蹴破られた。
趣味の悪いスーツを着た顔色の悪い男と、アロハシャツの若いチンピラが土足のまま部屋に上がってきた。
『おう、ぼっちゃん。オヤジは?』
年配のほうが聞いてきた。
『……いねえ』
大悟は呟くように答えた。
『おらぁ、隠すんじゃねえ!』
若い方がいきなり大声を出したので、将はその音量にビクッと体を振るわせた。
『お友達は、ここのお父さんに会わなかった?』
年配のほうが将に聞いてきた。将は首をブンブンと振った。
『そう……じゃあ、ぼっちゃん、何かお父さんから預かってない?』
こんどは大悟のほうが首をブンブンと振った。
『かわりにぼっちゃんが利息を払ってくれてもいいんだけど』
年配のヤクザがタバコに火をつけた。
『……そんなの、ありません』大悟はうつむいた。
『ウソつきは』
若いチンピラが大悟の首根っこをつかむと
『泥棒の始まりって』
そのままその顔を殴った。
『やめろ!』
思わず将は立ち上がって叫んだ。若いヤクザはまったく感知せず、倒れた大悟を蹴っている。大悟は身を丸めて耐えている。
『お友達のボク、このコはいつもウソをつくんだよね』
年配のヤクザが将に向き直る。
『うそつきにはお灸を据えないと――』
そういって、年配のヤクザは吸っていた煙草を大悟の肩に押し付けた。
『うあああっ』
じゅっと小さく音がして、大悟が悲鳴をあげた。
その恐ろしい様子を見てしまった将は思わず、その年配のヤクザに飛びつくと……とうとう一発殴った。
こんな風に人を殴ったのは初めてだった。ヤクザは油断していたのかそのまま倒れこんだ。
『小僧――』
若いチンピラが、大悟を蹴るのをやめて将に鉄拳を振り上げた。
大悟がそれを止めようとチンピラの腕にしがみつきながら、
『払います、払いますから』と叫んだ。
将は、起き上がった年配のヤクザに一発仕返しをされた。上級生のパンチなどとは違う。
将の頬から眼窩にもろに決まり将は壁まで飛ばされた。目から火花が散った。おかげで気絶する寸前だったのに
『これでも手加減してやったんだぜ、気をつけろや、ボクちゃん』
と見下ろされた。
大悟はポケットに残っていた札のうち1枚は自分のところに残して、2枚を出した……父から送ってきた全額にあたる。
すると若いチンピラは、2枚を受け取ると、大悟が残そうとした1枚も引っ張った。
『迷惑料だよ』
と凄んだので、大悟は指を離さざるをえなかった。
さらに、チンピラはまわっていた扇風機のコンセントも引っこ抜くとそれを抱えて、ようやく帰ってくれた。
殴られて倒されたままの将に、大悟が振り返った。
『ごめん。将。……あいつらたまに来るんだ。オヤジが利息を払ってないとかで』
将は何もいえなかった。殴られた目が開かない。
しかし、次に大悟は、ニヤッと笑って指差した。
『でもこれだけは見つからなかったぜ』
さっき畳にねじこんだ万札。
将は大悟の笑顔を見て、指を立てて弱弱しく笑顔を返した。
殴られた目は腫れあがり、完全に治るのに1週間以上を要した。
しかし、それ以来、将は人を躊躇せずに殴れるようになった。もともと基礎があった将である。急に強くなった。
おかげで、自分より弱そうな不良からカツアゲをするようになって、金回りもよくなった。
悪い仲間も増え、その年のうちに女も覚えた。
だけど、大悟との友情はずっと続いた。15歳で離れ離れになるまで。
今も……大悟とさまざまな冒険をした13歳の夏は将にとって忘れがたい思い出だった。
あんなことはあったけれど、かけがえのない友情はこれからも続く、と将は信じたかった……。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる