【R18】君は僕の太陽、月のように君次第な僕(R18表現ありVer.)

茶山ぴよ

文字の大きさ
204 / 427
第11章 18歳の誕生日

第198話 相合傘(1)

しおりを挟む
「じゃ、あさって水曜日、9時に迎えに来るから。……モーニングコールは8時でいいわね。

学校の方は私から電話しておくから。……ああ、そう、明日はジムと演技指導だから、わかった?」

武藤が運転席から顔を出して、降りた将に繰り返す。

すべて車の中で一度言い渡されたことばかりだ。

「台本は読めるところだけでいいから、いちおう目を通しておいてね」

「ホイホイサー」

将はもらった台本とスケジュールをひらひらさせて、そっぽを向いた。

「んもうっ。ほんとにわかってる?……じゃ、明日忘れずにねっ」

と武藤の運転する車は、夜の中に走り去っていった。

もう夜9時を過ぎている。

ちなみに将が手にしている台本は『ばくせん2』のものではない。

△△さんの紹介で、プロデューサーに挨拶に行った将は、そこでもかなり気に入られたらしい。

ただ、演技経験はほとんどない、というところで、本当にその役をできるのかどうか試すことになった。

つまり、プロデューサーが今クールで担当している連ドラのゲストのチョイ役で急遽出演させて、様子を見ることになったのだ。

「女弁護士モノでね。将くんは、冤罪を被せられた不良少年の役。あまりしゃべらない役だけど、そこそこ演技力は必要だから頑張って下さいよ」

とプロデューサーはにこにこと笑った。

5月3週目放送ということで、あさってから早くも台本(ほん)読みが始まり、今週中にリハーサルがあり、来週には撮りが行われるという。

放送日まで1ヶ月足らず、である。

テレビドラマの収録が意外にせっぱつまって行われるのが将には意外だった。

「最近は主要キャストだけ先に決めて、ストーリーはあとからつくる、というドラマも多いの。『ばくせん』のような人気シリーズの2作目なんかは別だけどね」

と、帰り道、武藤が車を運転しながら説明する。

今日台本を渡されたこのドラマも例外でなく、おかげでスケジュールがおせおせなんだという。

「これも、飲酒喫煙の奴の代役?」

と将が聞くと、武藤は平然と

「いいえ。プロデューサーのごり押し。今ごろ、どっかのプロのペーペーのコが泣いてるはずよ」

と言ってのけた。つまりすでに決まっている配役をプロデューサー権限で将に変えたのだ。

「そんなこと……しょっちゅうあるの?」

将はなんだか罪悪感のようなものを感じて武藤に訊いた。

「あまりないね。まあ、今回は、もともと決定済みの子が少しPのイメージと違っていたっていうのもあるから……

もっとも、そのプロダクションにも局のほうで埋め合わせを用意するだろうから、将が心配しなくても大丈夫」

「ふーん」

将は窓の外を流れていくとりどりの街の灯に目を移した。

別に将はテレビやドラマに出たくて出るわけじゃない。

そりゃ『ばくせん』の中田雪絵や、今回の女弁護士ドラマの主役を演じる人気女優にじかに会えるのはまんざらでもない。

だけど本気で俳優になりたいわけでもない。なりゆきでどんどん道が出来ていくから進んでいるだけだ。

そんな将だから、他人の役を奪ってしまったというのが少しせつなかった。

 
 

武藤の車が見えなくなると、将はさっそく聡に電話を掛けようと携帯を取り出して電源を入れた。

今まで武藤の命令で電源を切っていたのだ。

待ちきれない足は駐車場のほうに向いている。

「あ、アキラ?今からそっち行くけど」

有無をいわせない言い方をしながら車のキーを解除する。

「……そのようすだったら、すっかり元気になったみたいね」

プライベートな、低めの聡の声。いつもの声だけど久しぶりのような気がする。

「ご飯は食べた?」

聡のほうから訊いてくれるのが、むずむずするほど嬉しい。

運転席に乗り込むと、勢いよくキーを差し込む。

「……食べた。けど食べたい」……ほんとうは聡を食べたい。

「何ソレ」

と笑いを含んだ聡の声。

すっかり元通りなのが嬉しく、また不安になる。

――昨日のことは、幻だったんだろうか。

綿菓子のように……甘い記憶も感触も溶けてしまって、何も残っていない将である。

「昨日……」と将はいったん舌に乗せかけて

「いいや、直接言う……じゃすぐ行くから」

と一旦電話を切った。

シートベルトを装着し、アクセルを踏もうとしたとたん、留守番電話センターからの着信音が派手に鳴った。

電源を切っている間の着信。もしかしたらハルさんかもしれない、と将は再び携帯を手にとる。

メッセージはやっぱり、ハルさんだった。

『何度かおかけしたのですが、出られないようですので、こちらに失礼します。

巌様の意識が戻られました。ご心配されていたと思いますので、取り急ぎお伝えしておきます。また掛けなおします。失礼します……』

丁寧の上に、さらに丁重を重ねるような口調でもたらされた、巌の無事の一報に将は心からホッとした。

とりあえず、自分のせいでヒージーが死ぬことは避けられた……。

ハルさんに掛けなおそうかとも思ったが、もう9時、年よりは寝ている時間なので明日にしようと、将はより明るい気分で、アクセルを踏んだ。

 
 

薄手の寝巻きに着替えた聡は、風呂上りなのか、ピンク色の頬のままのすっぴんだった。

瞼の水色もない。そんな聡にほっとして、将は玄関先で聡を抱きしめる。

「ちょっと……、将、苦しい」

きつく抱きしめすぎたのか、聡が小さく悲鳴をあげた。

寝巻き越しでも昨日の感触が蘇るかと試したのだが、力を込めすぎたようだ。

残念ながら、この柔らかさやぬくもり、甘い香りが昨日と同じかどうか判別できない。

いつもの聡であることは変わりないけれど。

「ごめん……」

「いちおう、ご飯だけあるよ。それともコーヒーがいい?」

聡が将を中に招きいれる。そんな態度も普通だ。

「あ、うん。……じゃあ、コーヒー」

将の顔をみた聡が、ふっと笑った気がした。

 

「今何してたの?」

背を向けて、コーヒーの準備をしている聡に、将はできるだけ何気なく声をかけてみた。

聡は、豆が入ったドリップペーパーに湧いたお湯をたらたらとかけながら

「お風呂から出たところ。髪乾かしてた」

と答えた。その答え方も別に特に変わったところはない。

その淹れ方がつもよりことさらに丁寧な気がするのは、テレビの音がしないからだろうか。

「昨日さ、俺……」

将はせっかちにも、本題を切り出すことにした。

聡はちょうど、淹れ終わったコーヒーポットとカップを持ってくるところだった。

思わずその胸元に目が行く。

今日はブラジャーをしているようだ。薄手のパジャマの生地にその線がわずかに透けていた。

ここのところ将と二人きりのときは、ノーブラのことも多いのに。

「そうだ。将」

コーヒーを注いでいた聡は、目を見開いて将の顔を見た。

黒糖飴のような瞳の大きさに思わず見とれた将だが、次の瞬間、聡はくるりと背中を向けると、飾り棚の前にあった小さな紙袋を持ってきた。

「ハイ。これ。18歳の誕生プレゼント」

今度は将のほうが目を見開いた。

「マジ!」

「うん。遅くなっちゃってごめんね。土曜日に渡せばよかったんだけど……」

将は紙袋を嬉しげに見つめた。

見たこともない店名だが、厚手の紙で出来た濃い色の袋はいかにも高級そうだ。

「ありがとう……うれしー。あけていい?」

聡も微笑んでうなづく。

シックな包装紙を爪をたてて丁寧に剥いで、その中の箱を慎重にあける。

中には上品な色合いの万年筆が入っていた。

「万年筆!」

将は、聡の顔を見つめた。聡は万年筆を見つめながら

「何をあげたらいいか、わかんなかったから。これだったら邪魔にならないでしょ。

今は使わなくても、とっといたら将来使うだろうし」

と控えめに選んだ理由を声にする。

好きな人からのプレゼント。

それだけでも嬉しいのに、このプレゼントが一生ものになりそうな高級品だというのは将にもわかる。

ペンの握り心地を試したり、色艶をいろいろな角度から見る将に、聡も嬉しそうに

「でね……このインクが実はイカスミなんだよ」

と付け加える。

「へえー、イカスミ。どんな色なんだろ。さっそく書いていい?」

将は瞳をくるっと動かして聡の顔をのぞきこんだ。

「もう使うの?」

「アキラ、手帖持ってきて」

「え?」

「このペンで最初に書きたいことがあるんだ。だから、はやくー」
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

灰かぶりの姉

吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。 「今日からあなたのお父さんと妹だよ」 そう言われたあの日から…。 * * * 『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。 国枝 那月×野口 航平の過去編です。

独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました

せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~ 救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。 どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。 乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。 受け取ろうとすると邪魔だと言われる。 そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。 医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。 最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇ 作品はフィクションです。 本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

オオカミ課長は、部下のウサギちゃんを溺愛したくてたまらない

若松だんご
恋愛
 ――俺には、将来を誓った相手がいるんです。  お昼休み。通りがかった一階ロビーで繰り広げられてた修羅場。あ~課長だあ~、大変だな~、女性の方、とっても美人だな~、ぐらいで通り過ぎようと思ってたのに。  ――この人です! この人と結婚を前提につき合ってるんです。  ほげええっ!?  ちょっ、ちょっと待ってください、課長!  あたしと課長って、ただの上司と部下ですよねっ!? いつから本人の了承もなく、そういう関係になったんですかっ!? あたし、おっそろしいオオカミ課長とそんな未来は予定しておりませんがっ!?  課長が、専務の令嬢とのおつき合いを断るネタにされてしまったあたし。それだけでも大変なのに、あたしの住むアパートの部屋が、上の住人の失態で水浸しになって引っ越しを余儀なくされて。  ――俺のところに来い。  オオカミ課長に、強引に同居させられた。  ――この方が、恋人らしいだろ。  うん。そうなんだけど。そうなんですけど。  気分は、オオカミの巣穴に連れ込まれたウサギ。  イケメンだけどおっかないオオカミ課長と、どんくさくって天然の部下ウサギ。  (仮)の恋人なのに、どうやらオオカミ課長は、ウサギをかまいたくてしかたないようで――???  すれ違いと勘違いと溺愛がすぎる二人の物語。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...