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2:初?登校の波乱(2)
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教室のドアを開けた瞬間、それまでガヤガヤしていた喧騒が、まるでスイッチを切ったようにピタリと止まった。
数十人の視線が一斉に海斗――いや、翔生の体に突き刺さる。
そこにあるのは、明らかに「腫れ物を見るような目」だった。
(……なんだ、この空気)
海斗は無意識に、教室全体を鋭い目で見渡した。 自衛隊仕込みの「周囲の状況確認(スキャン)」の癖。
その“観察する視線”が、生徒たちには余計に威圧感を与えていることに、本人は気づかない。
入り口で立ち尽くしていると、背後から弾けるような甲高い声が飛んできた。
「ショウ!」
振り返る間もなく、強い香水の匂いとともに何かがぶつかってきた。長い茶髪をゆるくカールし、完璧なメイクを施したギャル風の女子だ。
「やっぱりショウだぁ! 学校来れたんだ~! ちょ~うれしい!」
彼女は迷うことなく海斗の左腕を抱え込み、胸に密着させた。
「どうして LINE 返事くれんかったと~? 心配したっちゃけんねぇ」
甘ったるい声を出し、潤んだ瞳で上目遣いに海斗を見上げる。
(これが……杏奈か)
まあ、想像通りといえば想像通りのキャラだ。
杏奈は翔生の腕を、自らの胸にぐいぐい押し当ててくる。
腕に伝わるボリューム感と柔らかさは、二十五歳の海斗にとっても目のやり場に困るほどの破壊力がある。
(おいおいおい……!)
どう反応すべきか途方に暮れて、されるがままに立ち尽くしていると、アキトが助け舟を出してくれた。
「杏奈、ショウは記憶障害で、何にも覚えてないらしいわ」
「マジぃ?」
杏奈は驚いたように頭のてっぺんから声を出し、ぱちくりと大きな目を見開いた。その拍子に海斗の腕が彼女の胸の重みから解放される。
「じゃ、うちのことも覚えとらんと~?」
アヒル口を作り、今度は悲劇のヒロインのような表情で詰め寄ってきた。
「う、うん。ごめん。覚えてません」
海斗が戸惑いながら答えた次の瞬間。
「え~~~!!!」
鼓膜が震えるほどの悲鳴が教室に響いた。
「しんじらんな~い! 本当に? 本当に? 本当にうちのこと覚えとらんと~?」
杏奈は、必死の形相で食いついてくる。
海斗は「ハイ~」と小声で言いながら、首をコクコクさせた。
「うそ~……。本当に何も?」
少し落ち着いた声で再度確認してくる。
「はい」
「うそ~……」
杏奈は絶句したように呟いたが、海斗には、不思議とその瞳の奥にわずかな「安堵」の色が混じったように見えた。
そのとき、始業のチャイムが鳴った。
廊下に出ていた生徒たち、席を離れてしゃべっていた生徒たちが潮が引くように一斉に席へ戻る。
海斗もまた、手続き記憶に導かれるまま、窓際の後ろから二番目の席へと腰を下ろした。
杏奈の強烈な存在感で一瞬忘れかけていたが、席に着いた途端、また周囲の視線がざわりと肌に触れた。
クラスメイトたちは、見ないふりをしながらも、どこか落ち着かない様子でこちらをうかがっている。
(……こいつ、どれだけ学校に来てなかったんだ)
その空気の違和感から、海斗は翔生という人間の輪郭をぼんやりと想像した。
斜め前の席に座った杏奈が、くるりと振り返った。 彼女は悪戯っぽく微笑むと、声を出さずに口の動きだけで告げた。 ——『あ・と・で・ね』
教室前の引き戸がガラリと開き――里玖が入ってきた。
数十人の視線が一斉に海斗――いや、翔生の体に突き刺さる。
そこにあるのは、明らかに「腫れ物を見るような目」だった。
(……なんだ、この空気)
海斗は無意識に、教室全体を鋭い目で見渡した。 自衛隊仕込みの「周囲の状況確認(スキャン)」の癖。
その“観察する視線”が、生徒たちには余計に威圧感を与えていることに、本人は気づかない。
入り口で立ち尽くしていると、背後から弾けるような甲高い声が飛んできた。
「ショウ!」
振り返る間もなく、強い香水の匂いとともに何かがぶつかってきた。長い茶髪をゆるくカールし、完璧なメイクを施したギャル風の女子だ。
「やっぱりショウだぁ! 学校来れたんだ~! ちょ~うれしい!」
彼女は迷うことなく海斗の左腕を抱え込み、胸に密着させた。
「どうして LINE 返事くれんかったと~? 心配したっちゃけんねぇ」
甘ったるい声を出し、潤んだ瞳で上目遣いに海斗を見上げる。
(これが……杏奈か)
まあ、想像通りといえば想像通りのキャラだ。
杏奈は翔生の腕を、自らの胸にぐいぐい押し当ててくる。
腕に伝わるボリューム感と柔らかさは、二十五歳の海斗にとっても目のやり場に困るほどの破壊力がある。
(おいおいおい……!)
どう反応すべきか途方に暮れて、されるがままに立ち尽くしていると、アキトが助け舟を出してくれた。
「杏奈、ショウは記憶障害で、何にも覚えてないらしいわ」
「マジぃ?」
杏奈は驚いたように頭のてっぺんから声を出し、ぱちくりと大きな目を見開いた。その拍子に海斗の腕が彼女の胸の重みから解放される。
「じゃ、うちのことも覚えとらんと~?」
アヒル口を作り、今度は悲劇のヒロインのような表情で詰め寄ってきた。
「う、うん。ごめん。覚えてません」
海斗が戸惑いながら答えた次の瞬間。
「え~~~!!!」
鼓膜が震えるほどの悲鳴が教室に響いた。
「しんじらんな~い! 本当に? 本当に? 本当にうちのこと覚えとらんと~?」
杏奈は、必死の形相で食いついてくる。
海斗は「ハイ~」と小声で言いながら、首をコクコクさせた。
「うそ~……。本当に何も?」
少し落ち着いた声で再度確認してくる。
「はい」
「うそ~……」
杏奈は絶句したように呟いたが、海斗には、不思議とその瞳の奥にわずかな「安堵」の色が混じったように見えた。
そのとき、始業のチャイムが鳴った。
廊下に出ていた生徒たち、席を離れてしゃべっていた生徒たちが潮が引くように一斉に席へ戻る。
海斗もまた、手続き記憶に導かれるまま、窓際の後ろから二番目の席へと腰を下ろした。
杏奈の強烈な存在感で一瞬忘れかけていたが、席に着いた途端、また周囲の視線がざわりと肌に触れた。
クラスメイトたちは、見ないふりをしながらも、どこか落ち着かない様子でこちらをうかがっている。
(……こいつ、どれだけ学校に来てなかったんだ)
その空気の違和感から、海斗は翔生という人間の輪郭をぼんやりと想像した。
斜め前の席に座った杏奈が、くるりと振り返った。 彼女は悪戯っぽく微笑むと、声を出さずに口の動きだけで告げた。 ——『あ・と・で・ね』
教室前の引き戸がガラリと開き――里玖が入ってきた。
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