49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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3:シンクロする面影(4)

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 金曜日。
 海斗が「翔生」と呼ばれるこの体で目覚めて、六日目。
 だいぶ慣れた……と言いたいところだが、朝だけはどうにもならない。

 洗面台の前で寝癖のついた金髪を確認し、「ワンチャン……」と淡い期待を抱いては、毎回きっちり裏切られる。

「今日も黄色い……」

 この絶望のルーチンにも、そろそろ慣れてきた自分が海斗は情けない。

 今日は午後から「校外水泳特別実習」がある。三年生は午前の授業を終えると、そのままバスで移動することになっていた。 

 バスの座席、海斗の隣には当然のように杏奈が陣取っている。
 彼女が隣にいる風景にも、少しずつ慣れつつある自分がいた。

 杏奈はいつも隣にいて、ひたすら自分の好きなことを喋り続けている。

「ネイルさ~、次どうしよっかな~」

「昨日ストーリー上げたら知らんやつからDMめっちゃ来てキモかったんやけど」

「夏休みだけ髪色変えよっかな~。でも痛むのやだし~」

 だいたいそんな「自分系の話」ばかりだ。

 海斗はスマホで釣り情報をチェックしながら、「へえ」「そうなんだ」と適当な相槌を打つ。それで実害はないし、彼女もまあ満足げだ。

 ときどき、

「ねえねえ今週末映画いこうよう」
「マーラータンの店いきたい~。連れてってよ~」

 とデートっぽい誘いをしてくるが、「アキトと先約ある」と言えば、意外とあっさり引き下がる。

 ちなみに釣りは、海斗がこの年齢の頃はよく行っていた。
 明日はこの体で迎える初めての休日だ。

 ふと思いついてアキトに「釣りとかする?」と聞いてみたら、

「え、ぜんぜんやる~!てかショウ、いつのまに釣り好きなったん?」

 と妙に喜ばれ、あっという間に明日の予定が決まった。
 だから杏奈への言い訳は嘘ではない。むしろ本当に行く。

 なお杏奈は、まだ翔生の家に上がり込んだことはないらしい。
 つまりアキトより付き合いが浅いということだ。

 翔生本人が「彼女じゃない」と言い張り、杏奈が「自分は彼女だ」と信じている微妙な距離感の正体が、少しだけ見えた気がした。


* * *


 バスが目的地である「アクアパーク」に到着すると、そのままランチタイムとなった。 

 国体にも使われるという近代的な屋内プール施設は、競技用の五十メートルプールをぐるりと観覧席が囲んでいる。

 弁当を持ってきた生徒は観覧席で食べてもいいし、持ってきていない生徒はカフェテリアを利用していいらしい。

「また早川ちゃん見てる」 

 カフェテリアのテーブル、隣に座る杏奈が不満げに声を尖らせた。
 海斗はハッとし、視線を慌てて逸らす。

 カフェテリアの奥、教師たちが打ち合わせをしている一角に、里玖の姿があった。

 今日はスーツではなく、学校ロゴ入りの紺のポロシャツにジャージ。髪を後ろでひとつにまとめ、タブレットを片手に他の教師と話している。

 機能的な格好が、かえって彼女の健康的な美しさを際立たせているようだった。

「見とらん」
「見てたー」

 杏奈がしつこく突っついてくるので、海斗は窓の外のプールへ視線を向けてごまかした。
 青く光る水面にはまだ誰も泳いでいない。天井の高い空間に声が反響している。

「もう、ショウってば年増好みだもんね」

 杏奈は唇を尖らせて揶揄するように笑う。

「前、女優の〇〇が好きって言ってたじゃん。」

(……コイツ、そんなこと言ってたのか)

「早川ちゃん、〇〇にちょっと似てるもんね」

 〇〇といえば、大河ドラマの主演も務めるような、華やかな実力派女優だ。

 だが、海斗からすれば、里玖とは似ても似つかない。

 里玖はもっと庶民的で気が強くて、それでいて少しもろいところがあって……その魅力は海斗だけが知っている個人的なものなのだ。

「全然にとらんわ!」

 杏奈が「えっ」と驚いたように目を丸くした。 

「そんなムキにならなくても。 冗談だってば……」

 海斗自身も驚いていた。
 こんなふうに感情が漏れるなんて、らしくない。
 
 胸の奥がざわつく。
 里玖の姿が、視界ギリギリで揺れる。教師の里玖は、真剣で凛としていて、どこか近寄りがたい。

(……やっぱり、近いのに遠い)

 その距離が、たまらなく苦しかった。
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