49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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8:朝倉翔生の影(2)

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「じゃあ次、朝倉君。ここの文、訳してください」

 里玖の声が、静かな教室に響いた。

「……」
「朝倉君?」

 呼ばれても、「朝倉翔生」は教科書から目を上げない。

 里玖を見ようともせず、ただ沈黙でその場を支配した――完全に無視している。

 教室の空気が少しざわついた。

 「……朝倉君? 聞こえてる?」
 「……。」

 里玖は一瞬だけ眉をすくめ、すぐに教師の顔に戻る。

 「……わからないなら、そう答えなさい。じゃあ次、石川さん。代わって」

 淡々と進む授業。だが里玖の声には、わずかな苛立ちが混じっていた。

 海斗は内心で笑っている。

(里玖先生のお望み通り、距離を置いてみました♪)

 授業が終わると、アキトが不思議そうに席に寄ってきた。ちなみに杏奈は、今日は朝から欠席している。

「ショウ、記憶戻ったと?」
「いや、戻っとらん」
「いや……さっきの早川ちゃんへのシカトっぷりが、事故前のショウっぽかったからさ」 

(なるほど、以前の翔生は、こんなふうに里玖を無視してたのか……) 
 
 里玖の言う「距離を置く」を徹底しようとした結果、まさか朝倉翔生本人の“問題児ムーブ”を再現することになるとは。

 そのとき、スマホが震えた。

 里玖からのショートメッセージ。

-『当てられたら答えなさいよ』

 海斗は化学実験室へ移動しながら返信した。

-『だって、距離を置くんやろ』

 * * *

 あの日曜日、里玖に海斗だと認めてもらってから、数日が経っていた。

 天にも昇る気持ちで月曜日を迎えた海斗は、当然、「恋人」に戻った里玖が、学校でも親しく接してくれるものだと思っていた。

 授業後に質問をしに行ったり、廊下で声をかけたり、海斗からも距離を詰めようと試みた。

 しかし――里玖は、生徒としての線引きを崩さなかった。

(……里玖は、朝倉翔生の姿の俺とは、よりを戻したくないんかな)

 そんな風に不安を覚えるほど、教師としての態度を徹底していた。

 火曜日。ついに海斗は、不安に耐えきれず、里玖へショートメッセージを送った。

-『なんでそっけなくするのかな?』

 すぐに返事が来た。

-『え、なんで電話番号知ってるの?』

-『日曜にそっちからかけたじゃん』

-『そうだった。忘れてた』

-『俺とよりを戻すのは嫌なわけ?』

-『そういうわけじゃないけど。でも学校では生徒と先生だし。距離を置かないと』

 そのメッセージを読んだ海斗は、ソファに寝転がりながら天井を見つめた。

「距離、ねえ……」

 海斗はソファで「むーん」と唸りながら、職場恋愛みたいなものか、と考える。

 自衛隊でも職場恋愛はあった。しかし当然のことながら、規律に厳格な職場に、恋愛中の空気を持ち込む者はいない。

 隊内での「職場恋愛」が発覚するのは、結婚報告か、別れた後の雑談くらいだ。

(……なら、徹底してやるか)

 そう思って、授業中に“翔生らしく”無視を決め込んだのだ。


 * * *

 そして今日。里玖からの返信。

-『距離を置くのは、そうだけど。当てられて無視はやめて』

 海斗はニヤリと笑うと、アキトに「わり、しょんべん」と言ってトイレへ向かった。個室に入り、すぐに続きのメッセージを打つ。

-『じゃ、また週末デートして。蛍見に行きたい』

 数秒後。

-『考えとく』

 その言葉に、海斗の胸が一気に軽くなる。

 里玖の「考えとく」は、相手が海斗の場合に限って、脈あり&前向きのサインだ。

 五年前と変わらない返信に、海斗の心は初夏の太陽のように浮き立った。



 はっきりしない天気ながら、昼前には気温が上がり、雲の切れ間から差す陽射しが、地面に濃い影を落としていた。

 アキトと学食でカレーを食べ、紙パックのジュースを吸いながら教室へ戻る。

 すると――杏奈が登校してきていた。こちらに気が付くと、まっすぐこちらへ歩いてくる。

「……ちょっといい?」

 教室の外へ促す声は、いつもより低く、どこかだるそうだった。
 
 ただならぬ予感に、海斗は身構えながら従った。
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