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8:朝倉翔生の影(3)
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杏奈に連れて行かれたのは、閉鎖されている屋上へと続く階段の踊り場だった。
昼間でも薄暗いコンクリートの階段は、湿った空気がこもっていて、ふだんは生徒が近寄らない“秘密の場所”だった。
階段をあがるとき、杏奈は周囲に誰もいないことを何度も慎重に確認していた。
誰もいないことを確かめると、喉を鳴らすように息を飲み――
「あのね……あたし、妊娠した」
一気に言葉を吐き出した。
「ショウの子だよ」
「……はぃ?」
あまりに意外な言葉に、海斗は数秒間、言葉の意味が理解できなかった。
頭の中は、ついさっきまで里玖との“蛍デート”のことでいっぱいだったから。
杏奈はスマホを取り出し、画面を操作して海斗に突きつけた。
白黒のモニターに映る、複雑な体内の様子。妊娠初期のエコー写真のようだった。
「……今日、病院行ってきた」
そこには胎児、と呼ばれる生命が写っているらしいが、海斗には、その写真の見方すらわからない。
「……本当に、俺の子?」
あまりの現実味のなさに、海斗の口から出たのはそんな言葉だった。
杏奈は一瞬たじろいだが、すぐに目を吊り上げて迫ってきた。
「……ショウしかいないじゃん」
「……ごめん。本当に、記憶にない」
嘘ではない。海斗にとっては、紛れもない真実だ。海斗に、翔生としての記憶があるわけがない。
「はあ!? 記憶障害で覚えてないからって、そんなの通用しないやろ。うちら、何回もやってたじゃん!」
杏奈の声が階段に反響する。その瞬間――チャイムが鳴った。
授業開始を告げる音が、妙に遠く聞こえた。
「……本当やけんね! ちゃんと、責任取ってよね!」
杏奈は言い捨てるように叫び、踵を返した。
階段を降りようとしたそのとき――
「あっ……」
杏奈が立ち止まった。
そこには。——いつからそこにいたのか、階段の入り口に、里玖が立っていた。
杏奈の手には、まだエコー写真を表示したままのスマホが握られている。
杏奈は里玖の脇を、逃げるように走り去っていった。
里玖の視線が、ゆっくりと海斗へ向けられる。海斗は、
「わかってると思うけど、俺じゃないから」
それだけは伝える。
昼間でも薄暗いコンクリートの階段は、湿った空気がこもっていて、ふだんは生徒が近寄らない“秘密の場所”だった。
階段をあがるとき、杏奈は周囲に誰もいないことを何度も慎重に確認していた。
誰もいないことを確かめると、喉を鳴らすように息を飲み――
「あのね……あたし、妊娠した」
一気に言葉を吐き出した。
「ショウの子だよ」
「……はぃ?」
あまりに意外な言葉に、海斗は数秒間、言葉の意味が理解できなかった。
頭の中は、ついさっきまで里玖との“蛍デート”のことでいっぱいだったから。
杏奈はスマホを取り出し、画面を操作して海斗に突きつけた。
白黒のモニターに映る、複雑な体内の様子。妊娠初期のエコー写真のようだった。
「……今日、病院行ってきた」
そこには胎児、と呼ばれる生命が写っているらしいが、海斗には、その写真の見方すらわからない。
「……本当に、俺の子?」
あまりの現実味のなさに、海斗の口から出たのはそんな言葉だった。
杏奈は一瞬たじろいだが、すぐに目を吊り上げて迫ってきた。
「……ショウしかいないじゃん」
「……ごめん。本当に、記憶にない」
嘘ではない。海斗にとっては、紛れもない真実だ。海斗に、翔生としての記憶があるわけがない。
「はあ!? 記憶障害で覚えてないからって、そんなの通用しないやろ。うちら、何回もやってたじゃん!」
杏奈の声が階段に反響する。その瞬間――チャイムが鳴った。
授業開始を告げる音が、妙に遠く聞こえた。
「……本当やけんね! ちゃんと、責任取ってよね!」
杏奈は言い捨てるように叫び、踵を返した。
階段を降りようとしたそのとき――
「あっ……」
杏奈が立ち止まった。
そこには。——いつからそこにいたのか、階段の入り口に、里玖が立っていた。
杏奈の手には、まだエコー写真を表示したままのスマホが握られている。
杏奈は里玖の脇を、逃げるように走り去っていった。
里玖の視線が、ゆっくりと海斗へ向けられる。海斗は、
「わかってると思うけど、俺じゃないから」
それだけは伝える。
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