49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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10:不在(4)

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 自宅に戻った翔生は、ソファに寝転がり、しばらく天井を見つめていた。

 親からの提案、夏休みからのアメリカ留学……なかば強制的に承諾させられてしまった。

 面倒すぎるけど、アメリカに行くのは悪くないのかもしれない。

 ただ――胸の奥に、ひとつだけ引っかかるものがあった。

 早川先生のことだ。さっきの脳内映像を思い出すと、いたたまれなくて、思わず立ち上がる。冷蔵庫をあけるとエナジードリンクを一気飲みした。

 十二歳も年上で、しかも担任教師。

 そんな相手に興味を持ってしまうなんて、自分で自分が理解できない。

――でも、もうずいぶん前から、意識していた。たぶん、出会ったときから。

 気が付けば、彼女は翔生の心の中に住みついていた。

 違う、お前じゃない、出ていけ、と何度も頭から追い出そうとしたが、そのたびに自分自身が連れ戻して、胸の中に大事に囲っているような矛盾。 

 彼女の顔をできるだけ見ないように、学校を休んでみることもあった。

 でも、学校に行けばいつも早川先生の姿を探している。いざ目が合うと逃げたくなる。

 「恋」という言葉なんて、あてはめたくなかった。ずっと否定してきた。

 でも最近になって、もう誤魔化すことは欺瞞だと、諦めつつある。

 その代わり、自分でも恥ずかしい、この気持ちを、誰にも気づかれてはいけない。

 早川先生にも、クラスの誰にも。絶対に。

 杏奈が腕を絡めてきても振り払わなかったのは、そのためだ。

 杏奈に興味があるように、杏奈と付き合っているかのように見せる、カモフラージュ。

 自分の気持ちを隠すための、最低な盾——。



――アメリカに行って時間をおけば、自分でも意味わからない、この気持ちも消えるだろうか。

 エナジードリンクの炭酸まじりのため息をついたとき、スマホから聞き慣れない通知音が鳴った。

 ショートメッセージだった。

 ショートメッセージアプリを、翔生はほとんど使わない。

 たまに二段階認証のコードが届くくらいだ。

 画面を開くと――「早川里玖」の名前が表示されていて、心臓がばくん、と強く跳ね上がった。

(なんで……早川先生から?)
 
 何事かと反射的にタップしてしまう。

< 今日 >

-『用事が長引いてる? 何時くらいに来るか教えて?』

< 7月2日金曜日・20:10 >

-『体調はもう大丈夫?』

『ぜんぜん元気。明日、食堂手伝いにいく』

……

「えっ?」

 最初は、早川先生が宛先を誰かと間違えて、メッセージを送ってきたのかと思ったが、今日より前にもメッセージのやりとりが続いている。

 やりとり。つまり、この電話番号から早川先生へ誰かが返信している。

 自分以外の誰かが、早川先生とこの電話でやりとりをした……? 

 混乱する翔生の目に、前のメッセージの上部に表示された日付が目に入った。

――7月2日。

「……は?」

 思わず声が漏れた。あわててホーム画面に戻り、今日の日付を確認する。

 7月4日。

 自分がバイクで事故ったのは、5月30日のはずだ。

 一か月以上がいつの間にか消えている。背筋にぞぞぞっと戦慄が走る。

 アキトなら何かわかるかと LINE を開こうとしたが、手が勝手に震えて何度も誤タップしてしまう。

「ん?」

 ようやく LINE を開くと、杏奈とのトークに新着の通知マークがある。開いてみると

 < 今日 >

あんな『いつまでしらばっくれる気?本当にばらすからね』

 とある。その上部の履歴には

<6月26日・土曜日 20:52 >

-あんな『あたし、今から死ぬから』

-あんな『ショウの家で、赤ちゃんと一緒に、死んでやる!』

 既読になっているが、どちらも見た記憶がない。

「なんだコレ……」

 翔生は、吐き捨てるように呟くと、短く返信した。

-『赤ちゃんて、あのおじの?』

 既読はすぐついたが、当然、返信は来ない。

 そこへ、またショートメッセージの通知音がした。

-『七海が海斗のエビフライが食べたいって。えび買ってきて』

 七海? 海斗?……誰だ、それ。

 とりあえず自分宛ではないようなので『間違ってますよ』と返そうかと思ったが、早川先生のプライベートを覗き見たい気持ちが勝って、指が止まった。

 早川先生からのショートメッセージはその後も断続的に届いた。

『遅くなりそうだから、夕食作りはじめるね』

『夕食、みんなで食べちゃうね』

『おじさんおばさんも海斗が来るの楽しみにしてるよ』

『何かあった? 来れなさそう?』

『七海はもう寝ちゃったよ』

『心配だから、これ見たら返信して』

 早川先生は、誰かを家で待っているのは確かだ。

 そして、その相手は、この電話を自分から抜け落ちている一か月の間に使っていた誰か。

 自分はその一か月、どこでどうしていたのか。

 常識的に考えるのなら、事故にあったのだから意識不明で、病院にいて……それで記憶が一か月分抜けている、のならわかる。
 
 でも、であればなぜ、この電話にさまざまな知らない履歴があるのか。

 そして目を閉じると浮かび上がってくる、鮮やかな映像の断片。

 得体のしれない履歴が入ったスマホを握りしめた翔生の前に、眠れない夜が横たわる。

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