49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

文字の大きさ
62 / 81

10:不在(6)

しおりを挟む
 しくった。ついてない。イライラする。

……まさか授業中のスマホ使用を見つかるなんて。

 放課後の指導室。翔生は、白い原稿用紙の前で、黄色い髪ごと額を掴んだ。

 没収されたスマホを取り返すには、反省文を書かなくてはならない。

(もう、あのスマホ捨てて機種変しよかな……)

 そんな考えが頭をよぎるが、SIM の引き継ぎなど、元の端末なしでの機種変更を考えると、反省文を書く以上に面倒で時間がかかりそうだ。
 
(あーめんどくさっ)

 気晴らしに窓の外に目を遊ばせると、午後の日差しに次第に意識がぼんやりしてくる。

(早川先生、シングルマザーだったんか……)

 ぼんやりすると、つい早川先生を思い出してしまう。

 さっき、その声で呼び止められたとき、心臓が体から飛び出しそうなほどだった。

 何気なく振舞えただろうか。

 顔が赤くなったり、声がふるえたりしなかっただろうか。

 先生が反省文以外に何か言っていた気がするが、顔ばかり見ていたのでまるで覚えていない。

 早川先生を脳裏に繰り返し再生している翔生は、知らず両手で頬杖をついたり、額をわしづかみにしたり、口元を押さえたりしていた。

 監督している若林先生はそれを、それを“反省文が思いつかなくて悩んでいる”と解釈しているが、同時に「一か月前とずいぶん違うな」とも感じている。

「二回目だからって、無理に違うこと書かなくていいぞ~」

と助け船を出してやった。

(は? 二回目? 俺、初めてですけど?)

 記憶がない間に、反省文を書くようなことを、しでかしたのか?

 現実に引き戻された翔生は、どうでもよくなって、原稿用紙を埋める作業に集中した。

 スマホを使った理由を適当に書き、それが良くなかったと反省し、同じ内容を言い回しだけ変えて三回ほど繰り返す。

 最後は「今後気をつけること」を箇条書きにすることで改行でスペースを稼ぎ、ようやく原稿用紙が埋まった。

 若林がそれを読み、「ふう……ん」と眉をひそめたが、

「まあ、きっちり書いたな。よし」

 とスマホを返してくれた。

 翔生はため息をつきながら廊下に出た。

 そこに――杏奈が立っていた。

「……何?」

 無意識に斜に構えた声が出る。

 * * *

 夏の西日が差す校庭から見ると、体育倉庫の裏は影が濃く、昼間なのに夜のように暗かった。

 そこまで来ると、杏奈が切り出した。

「ショウ、記憶戻ったんだ」
「……ま」

 本当は事故から昨日までの記憶は戻っていない。

 けれど、杏奈が言いたい“あの記憶”については、はっきり覚えている。

「やっぱ見られてたんやね……」
「あのオジの子やろ」

 杏奈はきまり悪そうに、それでも小さくうなずいた。

――事故の前日、土曜日。

 舞の誕生日パーティのため、翔生は佳乃に言われて高級ホテルへ向かった。

 家族の行事は避けたいが、舞だけは別だ。

「おにいちゃま」と慕ってくる幼い義妹には、優しい兄でいたかった。

 そのホテルのロビーで――中年男性と腕を組んでチェックインする杏奈を見かけたのだ。

「『ショウの家で、ショウの赤ちゃんと一緒に、死んでやる!』ってなん? 俺関係ないやん」

「あれはぁ……」

 杏奈は唇を尖らせた。

「ショウが、好きだから」

 翔生は、額に手を当て、わざとらしく深いため息をついた。

「て、お前……」
「ごめん。ショウが事故のあと、記憶障害になっとったから……ワンチャン、彼女になれるかなって。既成事実にしようかと……」

「バカか」

 吐き捨てるように言い、翔生は杏奈をその場に残して歩き出した。

 だが、胸の奥にひとつだけ確かな事実が残った。

――俺、この1か月……記憶障害として暮らしてた。

* * *

 その夜。

 布団に入っても眠れず、翔生はもう一度、早川先生からのメッセージを開いた。

「……海斗」

 その名前をつぶやき、目を閉じる。

 閉じた瞼の裏に、ふわりとホタルが舞った。

 誰かの細い腕が、自分を強く抱きしめている。

 夏の夜のような、湿った温もり。

『寒いと?』

 自分の声が聞こえる。

『うん。少し。でも海斗があったかいけん……』

 見上げてくる顔。頬が少し上気して、目が潤んで――

 それは、早川先生だった。

(俺は……海斗だった……?)

 心臓がどくんと響いた。

 もし本当に、自分が“海斗”だったのだとしたら――。

 翔生は起き上がらなければと思った。

 もっと確かめなければと思った。

 けれど、強烈な眠気が全身を引きずり込み、意識は暗闇へと沈んでいった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】

まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と… 「Ninagawa Queen's Hotel」 若きホテル王 蜷川朱鷺  妹     蜷川美鳥 人気美容家 佐井友理奈 「オークワイナリー」 国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介 血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…? 華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...