49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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12:君を置いて(4)

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 ふと、ちゃぶ台の上に置かれた一枚のチラシが目に入った。

 『第 57 回 〇〇団地・夏祭り開催!』  

 ピンク色の紙面には、質素な一色刷りながらも、特設ステージやフードコートの案内が躍っている。

 出店リストに目を走らせると、見慣れた名前があった。

「……沖島食堂、出すんだ」

「今頃なにいってんの。昨日、波多野さんが一生懸命説明してたやん」 

「……そうだったっけ」 

 曖昧に返しながら、開催日を確認する。

 ―― 7月 19 日。  

 その日付を見た瞬間、胸の中にむなしい風が吹き抜ける。

 自分はこの世にもういない日にち。

 安光によれば、18 日の零時になった瞬間、自分という魂はあの世へ移動しこの世から消えるのだから。

「お祭り定番の焼きそばと、最近人気の『バル沖島』からフィッシュアンドチップスを出そうかって言ってたやん」  

 里玖がアイスティーを飲みながら補足する。

『バル沖島』とは、波多野の監修で始めた土曜夜の多国籍メニューのことだ。

 定食屋の枠を超えたおしゃれで本格的な味は大好評で、今度、地元テレビ局の取材が来るらしい――。

 これらは全部、昨日の反省会で波多野が言ってた内容のはずなのに、はじめて聞いたような気がする。

 19 日の話だと、もういない世界の話だからなのか、脳にノイズが走って理解が薄まるようだ。

(……意識したら駄目だ) 

 こみ上げてくる絶望を振り払うように、海斗は無理やりメニューの方に意識を飛ばした。

「フィッシュアンドチップスねぇ。暑いし、衛生的に揚げ物がいいんだろうけど」

 「フードコートだし、衛生面はそこそこ自由なんじゃないかな。生でさえなければ」

 「うーん。だったらもうちょっと、面白いものを出したいねえ」

 「そうだよね。私もそう思った。海斗、何かいいアイデア考えてよ」

 「……わかった。任せとけ」

 軽く言ってみせたが、胸の奥が小さく痛む。

(……7月 17 日までの命ってことは、父ちゃんや母ちゃんにも会えなくなるってことやん)

 つまり、これが両親にできる、最後の親孝行になる。

 ……最後の親孝行だと思って、いいメニューを考えよう。今後の店の宣伝にもなるように。

 海斗はそう自分に言い聞かせた。



 その両親には、すぐに顔を合わせることになった。 

 里玖と七海は、週末の夕食を「おじいちゃんおばあちゃんち」――つまり、沖島食堂の家族卓で囲むのが恒例になっていた。

 今日は定休日の日曜日。

 海斗は里玖たちと共に、店の裏玄関から「実家」へと足を踏み入れた。

「あー、いらっしゃい。今日も暑いねえ」 

 出迎えた母・圭子と父・晃の顔を見ただけで、海斗の喉の奥に熱い塊がせり上がってきた。 

 外は、梅雨明け宣言こそまだだが、早くも夏本番を思わせる猛暑が続いている。

 食卓には、いかにも夏らしい献立が並んでいた。 

 薬味の種類も豊富な山盛りのそうめん、夏野菜とキスの天ぷら、そして揚げたての唐揚げ。

 飾り気のない家庭料理が、里玖親子がここに“家族”として馴染んでいることを物語っている。

「そうめんがのびないうちに食べちゃいましょう」

 圭子がそうめんのつけ汁を並べながら皆を促す。

「里玖ちゃん、ささ」

 晃が慣れた手つきで瓶ビールを差し出した。沖島家では、店で扱う瓶ビールをそのまま飲むのが常だ。

「海斗は……あ、そうか。まだ未成年か」 

「……いや、もらうわ」 

 七海以外の全員が「え?」という顔をした。

「あ……いや。あまりに暑かったから、つい。一杯だけ」 

 咄嗟の言い訳に、晃がハハハと快活に笑った。 

「まあ、中身は二十五歳やけんね。特例や、特例」 

 晃が海斗のコップに、金色の液体をなみなみと注ぐ。

 海斗はそれを静かに見届けると、ごく自然に父から瓶を受け取り、両親のグラスへと順に注ぎ返した。

 そして七海のコップには、丁寧にビールに似た色のリンゴジュースを注ぐ。

 里玖は、海斗の一連の動作を、貼りついたような笑顔で見つめていた。

 自分の中にぽっかりあいた喪失感を無視して、海斗は明るい声を上げた。

「乾杯」

 賑やかな乾杯とともに、食卓が動き出す。 

 久々のビールは、未成年の肉体だからか、思った以上に強烈に感じられたが、その苦味と刺激がなんとも心地よい。

 今は確かに生きているという実感が、喉を通り過ぎる炭酸とともに身体中を駆け巡る。

 そうめんには、麺つゆのほかに、ごまだれ、そしてなぜかガスパチョが用意されていた。

「これ、昨日の残りなんだけど、波多野さんに聞いたのよ。そうめんと食べると美味しいって」 

「へえ、斬新だな」 

 試してみると、ガーリックとトマトの酸味が効いて、まるで冷製カッペリーニのような味わいに変わる。

「うまい!」 

 七海が思わず叫び、里玖に「おいしい、でしょ」とたしなめられている。

 海斗は、ふっと心がやわらぐのを感じた。

 美味いものを、愛する人々と食べる。ただそれだけのことが、こんなにも幸福だなんて。さっきまでの悲壮感は確かに薄まっている。

――やっぱり、美味しいものはいい。

 海斗は本当に実感した。切なさと同時に。

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