49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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13:残された時間(2)

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 あと一週間――。

 一分一秒、片時も離れたくない。

 それが二人の想いだったが、現実には容赦なく、営むべき日常が横たわる。

 夏休みが始まるのは二十日の終業式からで、里玖には教師としての務めがある。

 ゆえに、海斗もまた「朝倉翔生」として登校しなくてはならない。

 里玖がいるホームルームと英語の授業だけは生きている実感を感じられたが、その他の授業—―里玖の姿が見えない時間は、ただただ空虚だった。



 せめて夜だけは一緒にいたいと、海斗はこの一週間、里玖の部屋で暮らすことに決めた。

 車で出勤する里玖と、バスで通学する海斗。

 時間差があるから、同じ家から出ても怪しまれない。

 夕方、里玖と七海が帰宅すると、三人で連れ立って「実家」である沖島食堂へ向かい、両親と共に食卓を囲む。

 それがこの数日間の、守るべき大切なルーティンとなった。

 朝倉家への工作には、家政婦の志乃さんが協力してくれた。 

「留学までの間、別れを惜しみたい年上の彼女がいるんです。たった一週間だけ、親にごまかしてもらえませんか?」

 志乃さんは、驚くほどあっさりと頷いた。

「まあ……青春ですねえ。任せてください」

 その優しさが胸にしみた。



「海斗、教師としてはあるまじき発言だけど……」 

 ある夜、里玖が少しいたずらっぽく、けれど真剣な目で言った。 

「もし学校をサボってでも、生きているうちにやりたいことがあったら遠慮なくやってね。悔いがないように」

 やりたいこと。

 そう言われて考えてみたが、驚くほど何も浮かばなかった。

 生前の海斗は、釣りが好きだったし、ゴルフもした。ドライブもだし、もちろん料理は店を出したいほど好きだ。趣味はそこそこある男のつもりだった。

でも――。

 改めて考えてみても、やらないと心残りになるほどのものはない。

 死を目の前にして、心に浮かぶのはただひとつ。

――里玖と七海と一緒にいたい。できるだけ長く。

 シンプルにそれだけだった。

 料理だって、自分が思う美味しさの追求だけじゃない。誰かが喜ぶ顔が見たいから工夫してきた。

 つまり、海斗にとっての喜びは、常に「誰か」――里玖や家族――と共にあるものだったのだと思い知る。



 学校では、アキトが週末のブレイキンの大会に向けて本気で調整していた。

 ランチは、いつもの学食 A 定食をやめ、サラダチキンバー、オイコス、おにぎり二個。

 授業の合間には BCAA を溶かしたドリンクをあおる。

 そんなアキトは、翔生がアメリカに行くと知って、ひどく寂しがった。

「……実はな」

 海斗は、そんなアキトだけに、真実を話してみる。冗談めかして。

「……俺、朝倉翔生じゃないっちゃが。俺の正体は、五年前から来た、二十五歳の自衛隊員なんよ。バイク事故で意識を失った翔生くんに乗り移ったと」

 「……はは、なんそれ。ウケる」 

 案の定、アキトは冗談だと受け流すようにいったんは笑った。

 しかし、すぐにその笑いを途中で止めて

「……でも、言われてみれば、事故前のショウと違いすぎるんよね。まさか……ほんとだったりして」

 といぶかしげに海斗を見た。海斗は続ける。

「で、俺はもうすぐいなくなって、もとの朝倉君に戻る。朝倉君はアメリカ留学するけど……たまには連絡してやってん」

 アキトはしばらくあっけに取られたように海斗を見ていたが、少しだけ視線を逸らし、鼻をすすると、

「よくわからんけど……でも、最近のショウ、俺好きだったよ。元の世界に戻っても元気でな……なんちって」

 言い終わると照れて、茶化すように海斗の肩を小突いた。いつものように。

 その拳の痛みと温かさに、海斗の胸が熱くなる。

 自分の存在を覚えていてくれる人間が、ここにも一人増えた。

 砂時計の砂は止まることなく落ち続けているが、その一粒一粒に、確かな愛着が刻まれていくのを感じていた。

 こうして、海斗の“最後の一週間”は、静かに、確実に、終わりへ向かって進んでいった。

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