49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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13:残された時間(4)

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 両親心づくしの夕食が終わると、海斗と里玖、七海の三人は団地にある里玖の部屋へ帰ってきた。

 海斗にとって、名残は尽きない父と母の最後の別れ――それは、後ろ髪を引かれるようだったが、なんとか笑顔を保てたと思う。

 思い出して涙が滲みそうになるのをこらえるため空を仰ぐと、丸い月が白く浮かんでいた。

「お月さま!まんげつ」

 七海が海斗と手をつないだまま、指さした。

「おっ七海、よく知ってるな」

 海斗は、汗ばむ七海の手を握り返した。

 藍色の夏の夜に浮かぶ月は、夜になっても蒸し暑い空気がまとわりつく現世を突き放すように、白く冷たげな色で光っている。


 
 里玖の部屋に戻ってくると、もう 22 時をまわっていた。

 エアコンをつけたままにしておいたので、熱帯夜の外から帰宅すると、部屋の中は天国のような快適な温度だ。 

 帰ってくるとすぐに、里玖は手早く七海の歯を磨いた。その間に海斗はシャワーを浴びさせてもらい、厨房での汗を流す。

 まもなく三人は、七海を真ん中に川の字になって布団に横になった。

 七海は横になっても興奮気味に、今日のアクアワールドでの出来事を話していたが、そのうち買ってもらった「モチスナメリ」のマスコットを握りしめ、寝入ってしまった。

「 18 日になったとたんに……朝倉君に変わっちゃうとかいな」

 スタンドの薄明りの中、里玖がぽつりとつぶやいた。
 
「……さあ。どうなんやろうね」

 さっきから里玖の顔を見つめている海斗は――里玖から視線を離さず答える。声が少しかすれてしまう。

「……もし、日が変わってすぐに朝倉君になるなら……ここにいたらまずいよね」

「……そうだね」

 そう言いながらも、海斗は横になったまま動かずにいた。

「 12 時になる前に……バスがあるうちに帰らないと」

「バスじゃなくて、タクシー呼べばいいよ」

 ここから翔生のマンションまではタクシーで 20分 ほど。
 海斗はスマホを取り出し、タクシーアプリで 23時 40分 に予約を入れた。

 残された時間は、あと一時間ほど――。

 その操作を見つめながら、里玖はふっと立ち上がった。

「……お茶淹れるね。海斗の好きなやつ」

 まもなく、キッチンから漂ってきたのは、懐かしい香りだった。

 ルピシアの「マスカット」。

 五年以上前、海斗が里玖のアパートに通っていた頃、いつも二人で飲んでいた紅茶だ。

 里玖が、ペアのマグカップをテーブルに置く。

「このマグカップ……まだあったんや」

 それは、五年以上前……海斗が里玖のアパートを訪れた時に必ず使っていたものだ。もう何年も前の、海斗からのクリスマスプレゼント。

「今言う? こないだのブランチにも出したよ」
「ああ……そうだっけ?」

 マグカップの縁に指を添えながら、海斗は胸の奥がじんわり熱くなるのを感じた。

 淹れたての紅茶は、夏の夜には熱すぎて、二人はしばらく紅茶が冷めるのを待った。

 ……時計の秒針が静かに、それでも確実に進めゆく時間。漂う紅茶の香りはその緊張感を和らげてくれた。

「里玖、そういえば……伝えたいことがあるって、LINEくれとったよね」

「え、いつやろ?」

「んーと……今からだと五年前かな。俺がまだ生きてるとき。……生きてるときって言うのも変だけど」

「ああ!」

 里玖が目を見開いた。

「それこそ……七海を授かった報告しようと思ってたんよ」

「そうだったんか」

「そうそう。海斗の誕生日に会う約束してたやん」

 そうだった。3 月 21 日のあの任務後は、引継ぎを済ませて退官前の有休消化となる予定だった。

 そして、有休消化中の 3 月 25 日——海斗の誕生日に、二人はデートする約束をしていた。

「もうわかってたと思うけど……俺はあの誕生日デートで、里玖にプロポーズするつもりやった」

「……えーっ。わかってなかったよ」

 里玖は、瞳を大きく見開いて、頬に手を当てた。

「え、まじか。俺は里玖に告白したときから、絶対将来は里玖と結婚するって思っとったけん」

 海斗は、マグカップを口に運ぶと、少しだけ飲んでみる。……まだ熱い。
 
「そんで、 プロポーズに備えて、指輪も用意しとったとよ。ティファニーの。……五十万以上したかな。これくらいだけど、ダイヤもついてるやつ」

 あくまでも記憶頼みだけれど、親指と人差し指の間で、ダイヤのサイズを示す。

 里玖は「えー!!!」と身を乗り出した。

「……ほんとうに? その指輪どうしたの?」

「渡す時まで、肌身離さず持っておこうと思ったから、最後の任務にも持って行ったよ」

 あの時。フライトスーツの左胸のポケットにいれた指輪。
 元の海斗の肉体の心臓のそばで、最後まで寄り添っていたであろう幻の結婚指輪。

「そうなんだ……」

 里玖はため息をつきながら、マグカップに顔を埋めるように紅茶を飲む。
 
「うん。たぶん俺の骨と一緒に、海の底に沈んでるんだろうな……」

 二人は同時に、同じ光景を思い浮かべていた。

 ――深く蒼い海の底。光の届かない静寂の中で、ひっそりと沈んでいるダイヤモンドの指輪を。

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