49 Daysー絶対死んだと思った自衛隊員が、最愛の彼女の教え子(問題児)として目覚めてしまい!? ★アルファポリスVer

茶山ぴよ

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最終章:祭りのあと(2)

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 朝食を終えると、海斗はすぐに東恩寺へ向かった。

 日曜日の午前中ということもあり、寺の境内は黒い礼服姿の人々が行き交い、線香の香りが濃く漂っていた。

 案内をしていた女性に「住職に面会を」と告げると、受付の女性は申し訳なさそうに

「本日は、法事が立て込んでおりまして……住職との面会は十四時以降でないと難しいかと」

 と頭を下げた。しかし、海斗はなおも食い下がった。

「僕は、朝倉翔生といいます。……以前、スーパーでお会いした、と伝えていただけますか」

 "朝倉"と聞いて、事務員の女性の表情が一瞬で変わった。

「少々お待ちください」と奥へ消え、数分後に戻ってきたときには、その態度はさらに丁寧なものになっていた。

「……今行われている法事が終わり次第、十五分だけお時間をいただけるそうです」

「ありがとうございます」

 その応対の変化に、裕福な朝倉家だから、お布施の額も相当なのかもしれないな、と海斗は想像する。

「本来は書院へお通しするのですが、本日は法事の方々で塞がっておりまして……。
少し雑然としておりますが、寺務所の打ち合わせスペースでお待ちください。
他のお客様と顔を合わせることもございませんので、かえってお話もしやすいかと存じます」

 案内されたのは、寺務所にある小さな打ち合わせスペースだった。

 折りたたみ机とパイプ椅子が並び、壁には法事の予定表が貼られている。

 冷房の音だけが静かに響いていた。

 しばらく待つと、廊下に衣の擦れる音が響き、安光和尚が姿を現した。

 スーパーで出会った時のパーカー姿とは一変し、今日は金糸の入った豪華な袈裟を纏っている。

 その姿は、高僧としての威厳が満ち溢れていたが、海斗――いや、翔生の姿を見るなり「あ」と、口を丸く開けた。

「沖島海斗です」

「え~~っ。あの世に行けんかったの? まじで?」

 重厚な見た目とは裏腹なカジュアルすぎる口調。

 安光はドサリと椅子に腰を下ろすと、事務員が運んできた紙パックのリンゴジュースを手に取り、ストローを「ちゅーちゅー」と音を立てて吸い始めた。

「はあ……おかげさまで、まだ生きてます」

 なんのおかげだか、と思いつつも、ふるまわれた同じジュースを口にする。

 外の暑さで喉が渇いていたので、一口飲むと冷たさと甘みが染み渡った。

 安光はしばらく、

「え~~なんでやろ。おかしいなあ……」

「ほんとは、行けるはずやったんやけどなあ……」

 安光は、立派な袈裟の袖を揺らしながら、首を傾げて「おかしい、おかしい」と繰り返している。

 その姿は高僧というより、難解なパズルに頭を抱える少年のようだった。

 だが、ジュースを飲み干したところで、

「あ!」

 安光は突然、手を打った。

「お前さん、巌さんの法事の時に、一度翔生君に戻ったやろ?」

 巌といわれても、海斗は一瞬わからなかったが、数秒後に

(ああ、翔生を可愛がったといってたひいじいさんか)

と思い出した。

 確かにあの法事の直後に『喝!』をされて二日間意識が飛んだ。

「……はい、確かに。あの時は二日間ほど、俺の意識はありませんでした」

「それや! ロスタイムだわ!」

「ロスタイム……? サッカーの……?」

 海斗は眉をひそめた。

「つまりな、お前さんが翔生君の体を借りて現世にいられるのは、四十九日間という決まりがある。

……けど、お前さんの意識が途切れて、翔生君自身に戻っていた二日間は、そのカウントが止まっとったんや。止まっとった二日間は、そのまま後ろ倒しになったってことや」

「え~~……」

 つまり、結局あの世へは行くのか。胸の奥がずしりと重くなる。

「つまり、お前さんがあの世へ行き、その体が翔生君に戻るのは――7月 20 日!」

「7月 20 日……? あさってやん」

 肩を落とす海斗が目に映ってないのか、安光は

「……待て。7月 20 日って……翔生君の誕生日やん」

「そうだけど、なんで和尚さんが知っとうと?」

「"翔生"の名前をつけたのは、ボクやもん。……あ~!わかった! 謎が解けたわ!」

 安光は、クイズの難問を解いた時のような晴れやかな声を上げた。

「なんだよ……俺、結局、死ぬんやろ」

 安光の能天気な様子に、海斗は自嘲気味に吐き捨てる。

 安光は、ジュースのストローをくわえたまま、ゆっくりと首を横に振った。

「お前さんは“死ぬ”んやない――あの世へ旅立つだけたい」


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