その花びらが光るとき

もちごめ

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なんだか寝付けなくて、バルコニーに出てみる。

 夜風が頬に当たって気持ちいい。

 漆黒の夜空にところどころ煌めく、赤や黄色やピンクの星たちが綺麗。


「こんな時間にそんな姿で何をしてるんですか」

 !?

 驚いて振り向くと、呆れ顔のエルストがバルコニーに続く下手の前に立っていた。

「ノ、ノックもなしに乙女の部屋に入るのは、いけないと思います」
「何度もノックしました」

 えっ、そうだったの?! 全然聞こえなかった。
 それは悪いことをした。

「あなたがバルコニーにずっと立っているのが見えていたんですが。何なんですか。その恰好は。
あなたは女神でもあり、一応年頃の女性なんですよ。もっと危機感を持ってください」

 い、一応とは、酷いんではないですか……。

 思わず悲しい気持ちになり、エルストを見上げる。
 
 いつもは日の光に反射して煌めく銀髪も、今は闇とまじりあい、仄かに艶めく。
 怜悧なエメラルドグリーンの瞳も、今は何かの熱を孕み怪しげに揺らめいている。
 なぜかその瞳に誘われるように近くへと寄りたくなる衝動に駆られる。

 エルストは、何かに耐えるように、目を逸らして、一つため息をついた。

「はぁ、冗談ですよ。あなたは、とても魅力的です。そんな恰好で外に出ていては、何かよからぬことを考えている輩が寄ってきてしまいますよ」


「それは、エルスト様も……?」
「……そうですね。あなたを前にするとよからぬことを考えてしまいたくなる」




 少しずつ距離が縮まり、淡い期待に瞳を閉じる。
 そっと、柔らかく唇が重なり、背筋が震えた。


 優しいキスは徐々に深くなり、息継ぎのために薄く口を開けば、その隙間を縫って熱い舌が滑り込んできた。

 歯列をなぞり、舌を甘く吸ってはいたずらに這い回る。

 どれくらいの時間夢中になっていたのか。
 ピチャっと水音を響かせながら離れた唇にはお互いの銀の糸が引き、恥ずかしさで、うつむく。

 ふっ、とかすかに笑う声が耳のすぐそばで聞こえた。
 顔を上げようとするより早く、首筋にチリッ、とした甘い痛みを感じ、そこを手で覆う。

 きっと、キスマークだろう。

「おやすみなさい」

 耳元でささやかれた声には優しさと愛おしさが含まれていた。


 部屋から出て行ったエルストを見つめ、キスマークが刻まれた箇所を手で覆う。

 嬉しさと恥ずかしさできっと顔が赤くなっていだろう――。
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