男性保護特務警護官~あべこべな異世界は男性が貴重です。美少年の警護任務は婚活です!

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第六章 おいでよ!男性保護省の巻

第六十七話 笠霧寧々音の過去

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 ――二十分後。
 
「嘘……。そんな……ありえない。この私が……手も足も出なかった?」
「いや、ちょっと見くびっちまってたな。一対一タイマンならAランクの連中と変わんねえと思うぜ」

 ショックでがっくりと膝を床についている寧々音は震える拳を悔しさごと握りこむ。そしてそのジト目に力を込め、視線を梅に向ける。

「ふっ、ふざけないで……警護対象の安全エリア確保と誘導、襲撃者への牽制、脅威度の策定も一切無し。そんな男性警護が許されるわけないわ!」
「つってもお前、俺から一度もアウト取れてねえだろ」
「くっ! それは警護任務の基本中の基本――と言いたいけど……そうね、私の実力不足は理解したわ。あっ、それにしても貴女・・
 何か思ったのか、ふいに寧々音のジト目が朝日に向けられた。
「えっ!? ぼ、僕?」
「そう、矢地教官から警護訓練の臨場感を出すための男性役と聞いてたけど、本当に凄いわね」
「そ、そうかな……は、ははは」
「ええ。本当に男性を警護をしてるって感じがして驚いたわ」

 矢地は今回の件を男性警護訓練の内容改良試験と称していた。寧々音はM校生徒代表、そして朝日は訓練に男性役として参加する一般から募集した男性っぽい女性・・・・・・・と伝えたのだ。

(おい矢地。全然普通に朝日と会話してんぞ)
(これ意外と行けるんじゃないっスか?)
(ふむ。そうだな……ちょうどタイミングも良さそうだ)

 事前に弥生から聞いていた『男性の前だと極端に緊張してしまう』寧々音の問題点だが、今のところ影も形も見えない。餡子、梅との訓練中もしっかり朝日を警護対象として対応できていた。これは予定通り『ほら大丈夫だったでしょ? できるじゃない作戦』で任務完了となるのではと思える。

「よし笠霧。そのままでちょっといいか」
「はい」
「実はここからが君の特別訓練本番だ」
「はい……!? えっ!?」

 全体を通して冷静、ほぼ無表情だった寧々音だったが、この矢地の一言には少し困惑と焦りを見せた。

「神崎君。それでは帽子とマスクを外して貰えるかな」
「あっ、はい」
「ふえ? えっ……女性……じゃ、ない?」
「あ、あの……ごめんなさい。僕、本当は男なんです。弥生おばあちゃんから頼まれて笠霧さんの――――ちょっ!?」

 事態の説明をしようとした朝日だが、目の前にいる寧々音の豹変に驚いてしまう。

 まさに一変。常にぼっーとしていた半目は完全に見開き、本来のぱっちりとした可愛らしい形を取り戻す。恥ずかしさからか乳白色だった頬から耳まで真っ赤に染まり、口をパクパクさせながら呼吸が荒くなっている。

「おっ、おとっ、男の人…………あわっ、あわわわわ、わたわたわたし――」
「ちょ!? ちょっと大丈夫?」
「あああっ、はひっ、ふへっ」

 だんだんとその濃紅こいくれないの瞳に涙はたまり、声にならない声を発しながら後退あとずさって行く。そして――。

「ふっ、ふええええええええええええん!!」

 まるで幼い子供のように手をバタつかせながら、猛ダッシュで出口である扉へ向けて走って行った。

「――――ぴぎゃあっ!?」

 訓練時の身のこなしはどこへやら、扉に全身がへばりつかんばかりに激突! 弾かれてそのまま後ろに倒れこんでしまう。ピクリとも動かないところを見ると気絶してしまったようだ。

「……おい、矢地。これどうすんだ?」
「……緊張とかのレベルじゃ無かったっスね?」
「……想像以上だったな」

 特別訓練は続行どころか、むしろこれから開始の空気が漂い始めた。

「おい笠霧? 大丈夫か――」
『きょうもかけっこは、ねねねちゃんがいちばんだ――』
「ダメっスね、完全に伸びてるっス――」
『ねねねはけんかもつよいもんね。なんでもいちばんだね――』

 混濁する意識の中で寧々音の耳に響くのは、現実なのか過去の記憶なのか曖昧な言葉。――ああ、そうだ。過去の記憶だ。その瞬間、眼前に広がるのは子供の頃よく遊んでいた公園。五歳か六歳か……当時の友達が、別の子供たちと揉めている光景であった。

 あの日。寧々音たちが公園で遊んでいると、一人の男児がやってきた。二次性徴前とは言え、この世界の女児たちは初めて見る男児の登場にハイテンションだ。

『ねえねえ、きみおとこのこ? かーわいー!』
『どこからきたの? やっぱりちかくのだんち(男地)?』
『ねーあそぼうよ。あたしとよるのふーふせいかつごっこしよ!』
 実にアグレッシブな女児たちである。

 ところが、それを見ていた年上女児グループが乱入。男児と遊ぶ権利を取り合って小競り合いが発生した。この年齢から”女”の熾烈な競争はすでに始まっているのだ!

 形勢不利だった友達を助けるべく。何より”男”のために、寧々音は単身で年上女児グループの前に立ち塞がる。持ち前の才能を発揮して年齢差、人数差すら関係なしに、一人また一人と叩きのめしては公園から追い出した。

 あっという間に年上女児グループは壊滅。友達から喝采を浴びながら、寧々音は興奮気味に爛々らんらんと輝く濃紅こいくれないの瞳を男の子へ向けて手を伸ばす。

『もうだいじょうぶだよ! わるいやつはねねねがやっつけたから! さ、あそぼ』
『え、え? なにそのめ? あかい……ひかってる……かみのけも、へん……ふ、ふえーーん! おばけこわいよー! ママっ! ママーーーーーっ!!』
『ふえっ?』

 目が赤くて怖い? 髪の色? ……お化け? 男の子が泣きながら親の元へと走り去って行くのを、ただ見送るしかなかった。

 以来、寧々音はより『一番である』ことに固執するようになった。身体的特徴アルビノなど些細なこと・・・・・関係ない・・・・、そう誰もが思える位に一番を目指した。義務教育が終わってすぐにMapsを目指し、M校にも首席合格。もちろん入学後も全科目オールトップ。非常に珍しい民間男性警護会社の男性警護実習受け入れの第一号にも選ばれた――。


 九月某日の実習当日。
 あの時の記憶は忘れていたつもり・・・だった……。 

『おい月美つきみ! アイツは一体どうなってるんだ? さっきから一歩も進めやしないぞ。だいたいなんでボクがこんなメにあわなきゃならないんだよ!』
『主《あるじ》様、仕方ないのですよー。夏の件・・・の絡みで男性保護省から社長ボスに依頼があったのですよ』
『まあねぇ……六宝堂りくほうどうのバアさんからプレッシャーかけられちゃ社長ボスと言えど断れやしないからねぇ~。今日は我慢さね。坊ちゃ~ん』
『こら、暑苦しい胸を押し付けるな万里ばんり! そんなことはわかってるよっ……ママにも言われているしさ。それよりもアイツだよ。アイツ!』
『ふむ……拙者たちと模擬訓練の時は全然優秀でござったのにのう』
 花美はなみが振り向くと十数メートル離れた後方で、おどおど着いてくる寧々音の姿があった。それを見た主が痺れを切らしたらしく小走りで近づいて行く。
『おいオマエ! さっさとこっちへ来いよ! M校で成績一番じゃ無かったのかよ?』
『ひゃい! すっ、しゅみません。しゅみましぇん』
『だ、か、ら! 顔見て話をしろよ』
『ひいっ!? み、見なゃいで、見にゃ――ふうっ』
『気絶した? もうコイツ何がどうなってんだよーーっ!』

 幼少時の心的外傷トラウマ。そして、弥生が朝日に特別訓練を頼むきっかけになった一件である――。
 

 しばらくして気絶から回復した寧々音は、自分の状況を把握はあくする。嫌な記憶を思い出してしまった。根深く残っていた男性への苦手意識。だが、それから何もしていなかった訳ではない。彼女なりに克服する努力はしてきた。

 冷静さを取り戻し、スッと白金の髪をかきあげて腰に手をあてる。

「ふっ――とて――――男――ね。私と――――が――驚い――しまっ――ど。そ――――特別――練――そう―――ね。矢――官も――悪いわ」
「んな遠くでしゃべっても聞こえねーよ!!」
「訓練室の端っこでカッコつけて無いで、こっち戻って来るっスよーー!」
「はは……思ったより大変そうだね。あの子」

 一定距離さえ離れていれば、男性がいても普通に会話できるまでには進歩していた。ただ、距離的にまったく意味が無いのが残念である。

「ふむ、これは困ったな。どうしたものか……」
「おい矢地。俺に考えがあんだけどよ」

 思案に暮れる矢地に梅が耳打ちをする。
(む!? しかしそれは――)
(ババアもショック療法でいいっつってただろ? ちんたらやってたららちがあかねえぞ)
(うむ……そうだな、仕方あるまい。それで行くか)
(おい朝日。ちょっといいか?)
(うん。梅ちゃんどしたの)
(いや、それがよ……)
 今度は朝日へ何やら耳打ちをする梅であった――。


 その後、朝日が一人で少し離れた所へ移動する。寧々音の周りには梅たちが集まり、改めて矢地から特別訓練の趣旨説明が行われた。

「大和先輩……私に目隠しをさせてどうするつもッ!? ――もしかしてっ」
「そうだよ。見えてなきゃ朝日に近づいて・・・・行けんじゃねえか?」
「ちょっと待って! あんな素敵な男のしとに……近じゅいたら……私」
「こら、まだ近づいてねーっての!」

 訓練内容の説明で寧々音は朝日を完全に男と認識した。しかも、以前見た美形と評判の海土路造船の御曹司すら遥かに超越する美少年である。もはやナイトメアモード以外の何物でもない。

「笠霧、経緯は説明した通りこれは特別訓練だ。失敗を気に病む必要はない。結果はどうあれ非公式であるし、何よりお前の未来を思って閣下からのお心遣いだ。思い切ってやってみろ」
「はい……やって……みます」
「うっし、じゃあ俺が手を取って誘導するぜ」
「わ、わかった……わ」

 目隠しで視界が塞がれた寧々音の両手を、柔らかくて暖かい手がきゅっと握ってくる――あれ? この感触は?

「え? 大和先輩。手のサイズ大きい? それに何か……」
「あっ、あああ、お、俺よ。身体の割りに手が大きいって良く言われんだ」

 そうなのか。と考える間もなく両手がぐっと引っ張られた。仕方なく引かれるままに歩き始める。進むこと十数メートル。

「うっし、もう目隠し取っていいぞ」

 ついに朝日美少年の前に到着したらしい。恐ろしい緊張感が寧々音を襲う――それにしても大和先輩はどうして自分の片手を離さず握ったままなのだろうか? しかも現役Mapsのくせに、やたら柔らかでふわふわな感触の手だ。どうにも気になるが、今はそれどころではない。
「う、ううう――」
 目隠しを握る手が震える。しかし男性への苦手意識を克服する為の特別訓練だ――意を決して目隠しを取り外す。
「えいっ! …………え!? や、大和……先輩?」

 目の前にいたのは、小柄で赤茶色のショートヘア猫娘こと梅であった。……と、言うことは?

「ふえええっ!? まままままままさ……か?」

 寧々音はぎこちなく首を曲げ、視線を誰か・・に握られている左手に伸ばす。そのままプルプルと震えながら、握っている手を辿たどって相手の顔を見上げる。

「笠霧さん。驚かせてゴメンね」
 それはまぎれもなく朝日美少年であった。ヒュー。

 お察しの通り、目隠しをした寧々音が梅たちと会話をしている間に朝日がこっそり移動して誘導役をする。梅のアイデア『実は手を引いてたのは朝日でしたショック療法』である。まさにパワーレベリング。

「あああああ、おっ、おとっ、男のしとと、てててて手をににににぎにぎり――」
「あっ、えと、大丈夫。落ち着――わっ、ちょっと!?」
 寧々音が朝日に握られている手を弾くように手放す。
「やっ!? みっ、見にゃいで、私ダメ――なのっ! ゆ、ゆりゅして……やあああああああっ!!」
 
 絶叫と共に勢い余って床に転がるも、寧々音は寝転がった体勢のままゴロゴロと回転して凄いスピードで離脱して行くのであった。
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