くすぐられて目覚めた夜

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執事からのはじめてのくすぐり

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ひと雨あがった春の夜だった。
風はしっとりと濡れていて、綾乃の長い髪のすそを、まるで誰かの指先のように撫でてゆく。
彼女は十八の春を迎えたばかりで、まだ制服を脱いだばかりの年頃だった。

「……綾乃お嬢様。お戻りですか」

迎え入れた声は、いつものように低く、優しく、それでいてどこか底の見えない深さを持っていた。
礼司――彼は、屋敷の執事でありながら、綾乃の私的な教育係でもあり、何よりも彼女の“変化”を敏感に察する男だった。

「ただいま、礼司さん……。今日は、ちょっと歩きたくなって」

「雨に濡れるのはお好きではなかったはず。なにか……心が、揺れていらっしゃる?」

その言葉に、綾乃は思わず視線を逸らす。
幼いころから彼に見透かされることには慣れていたはずだったのに、今夜ばかりは、彼の眼差しがやけに刺さる。

「べ、別に……そんなこと……」

「ならば――お身体を温めましょう。特別に、私がお世話いたします。……いつものように、ではなく」

その言葉に、綾乃の胸が小さく跳ねた。
“いつものように”――礼司が使うこの言い回しは、彼なりのやさしい布告だ。
今夜は、ただ温めるだけでは終わらない。彼女の“変化”を確かめるつもりなのだ。

ふたりきりの離れの間で、濡れた制服を脱ぎ、バスローブへと着替えさせられる綾乃。
礼司の指先がごく自然に、首筋にかかる髪をかきあげ、タオルでそっと水滴をぬぐってくれる。
その手のひらの温度が、どこか落ち着かない。

「……くすぐったい」

綾乃が小さく笑うと、礼司の口角が静かに上がった。

「そう、それです。……その“感覚”を、今日はもっと深く味わっていただこうかと」

「え……?」

「綾乃お嬢様は、“くすぐったい”という感覚を、まだ単なる反射としか捉えておられない。けれど――それは、快感へと至る入り口でもあるのです」

彼の声は低く、どこまでも滑らかだった。
そのまま綾乃の背後にまわり、首筋を、指先で――やさしくなぞった。

「ひゃっ……!」

首がすくみ、思わず肩が跳ねる。
だがそれすらも彼には計算の内だったようで、すかさず両手が綾乃の脇の下に差し入れられた。

「やっ……! ちょっ、やめ――くすぐった……!」

「お嬢様。どうか、抗わず、受け入れてください。これはただの戯れではありません――
 貴女様の身体が、初めて感じる悦びを、丁寧に探していく行為なのです」

礼司の声は穏やかだった。
だが彼の指は、綾乃の柔らかな脇の下を、くすぐるように、なぞるように、ひたすら“慈しむ”。

くすぐったい。
けれど――それだけじゃない。

喉から漏れる声が、自分でも信じられないほど艶を帯び始めていた。
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