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くすぐられながら、精神統一できますか?
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天蓋から淡い布がゆれる道場の一隅。柔らかな畳の香りと、遠くで鳴る風鈴の音が、時の流れをゆるめていた。
薄衣を纏った女弟子──沙雪(さゆき)は、静かに正座していた。
目を閉じ、呼吸を整える。
──吸って……吐いて……
だが、修行はすでに始まっていた。
背後にそっと近づいたのは、師範・宗道(そうどう)。
無言のまま、彼は沙雪の背後に膝をつくと、静かに──あまりに静かに、彼女のわき腹へと指を添えた。
「っ……」
瞬間、身体が微かに震えた。
「心を見失ったな」
師範の声は静かで低く、どこか慈しみに満ちていた。
「これは精神統一の妨げです……っ、くすぐられたら、集中など……」
そう訴える沙雪の言葉を遮るように、指が再び、今度はより繊細に、わき腹から背骨に沿って滑り上がった。
ぷる、と肩が揺れる。
笑ってはいない。だが──心が波立っていた。
「心とは、常に揺れるものだ。
……ならば、その揺れを拒むな。味わい、受け入れよ」
指先は今度、首筋の下──肩甲骨の内側にそっと触れた。
まるで羽毛を這わせるかのように、静かに、肌をなぞる。
「ふっ……ふぅぅ……」
深呼吸を保ちながらも、沙雪の吐息はわずかに震えていた。
だが、不思議と逃げたいとは思わなかった。
──この震えの中に、自分の心の輪郭がある。
──指の感触が、心のざわめきを写し出している。
いつしか沙雪は、くすぐったさそのものが「雑念」ではなく、「気づき」だと気づき始めていた。
師範は次第に指先の動きを変えた。
わざとギリギリ笑いがこぼれない程度に、くすぐりの“緩急”と“間”を操っていく。
「今、何を感じている?」
「……波のように、揺れて……
でも、揺れても、戻ってこられる……
私の中心は、ここにある……」
沙雪の声は深く、そして静かだった。
もはや彼女は、くすぐられているのではなかった。
くすぐりという“波”に、完全に身をゆだね、呼吸とともに“今”だけを感じていた。
くすぐりマインドフルネス──
それは、笑いの発作の直前、身体が最も敏感になる「一点」に、意識を集中させる修行。
くすぐったさは恐れではなく、感覚を澄ませる“門”である。
やがて沙雪は、呼吸の中で、涙をひとすじ流した。
苦しさではない。歓喜と、解放の涙。
そして、師範の指がふっと止まった。
「……ようやく、本当のおまえの静けさに、触れられたな」
薄衣を纏った女弟子──沙雪(さゆき)は、静かに正座していた。
目を閉じ、呼吸を整える。
──吸って……吐いて……
だが、修行はすでに始まっていた。
背後にそっと近づいたのは、師範・宗道(そうどう)。
無言のまま、彼は沙雪の背後に膝をつくと、静かに──あまりに静かに、彼女のわき腹へと指を添えた。
「っ……」
瞬間、身体が微かに震えた。
「心を見失ったな」
師範の声は静かで低く、どこか慈しみに満ちていた。
「これは精神統一の妨げです……っ、くすぐられたら、集中など……」
そう訴える沙雪の言葉を遮るように、指が再び、今度はより繊細に、わき腹から背骨に沿って滑り上がった。
ぷる、と肩が揺れる。
笑ってはいない。だが──心が波立っていた。
「心とは、常に揺れるものだ。
……ならば、その揺れを拒むな。味わい、受け入れよ」
指先は今度、首筋の下──肩甲骨の内側にそっと触れた。
まるで羽毛を這わせるかのように、静かに、肌をなぞる。
「ふっ……ふぅぅ……」
深呼吸を保ちながらも、沙雪の吐息はわずかに震えていた。
だが、不思議と逃げたいとは思わなかった。
──この震えの中に、自分の心の輪郭がある。
──指の感触が、心のざわめきを写し出している。
いつしか沙雪は、くすぐったさそのものが「雑念」ではなく、「気づき」だと気づき始めていた。
師範は次第に指先の動きを変えた。
わざとギリギリ笑いがこぼれない程度に、くすぐりの“緩急”と“間”を操っていく。
「今、何を感じている?」
「……波のように、揺れて……
でも、揺れても、戻ってこられる……
私の中心は、ここにある……」
沙雪の声は深く、そして静かだった。
もはや彼女は、くすぐられているのではなかった。
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それは、笑いの発作の直前、身体が最も敏感になる「一点」に、意識を集中させる修行。
くすぐったさは恐れではなく、感覚を澄ませる“門”である。
やがて沙雪は、呼吸の中で、涙をひとすじ流した。
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そして、師範の指がふっと止まった。
「……ようやく、本当のおまえの静けさに、触れられたな」
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