くすぐりマインドフルネス

文字の大きさ
2 / 11

くすぐられるのが怖い女性が、くすぐり精神統一をめざします

しおりを挟む
道場の朝は静寂とともに始まる。
陽がさす前の白い光が、障子の紙を透かして、畳にやさしく広がっていた。

沙雪は、白衣に身を包み、香を焚いていた。
その眼差しには、もはや迷いがなかった。

目の前に正座するのは、新たに入門したばかりの若き女性たち。
その中に、ひときわ緊張を隠しきれぬ娘がいた。名を──柚莉(ゆずり)。

「……あの、師範代。私、あの……くすぐられるのが……怖くて……」

その声は、かつての沙雪自身の声そのものだった。

沙雪は静かに微笑み、彼女の目をじっと見つめた。
言葉ではなく、呼吸で語りかけるように。

「大丈夫よ。くすぐられることは、“笑わされる”ことではないの。
 あなたの心のさざ波を、ただ映し出すだけ。
 感じたままを、否定しないで──受け入れてみて」

そう言いながら、沙雪は柚莉の背後に回ると、そっと彼女の肩に手を添えた。
最初は圧などなく、空気の動きだけを伝えるような距離感。
そこから、指の腹でほんのわずかに首筋へ触れ──そのまま静かに、うなじをなぞった。

柚莉の身体が、ぴく、と跳ねる。

「……くすぐったい……っ」
その声は不安で満ちていたが、同時にわずかな好奇心が混じっていた。

「呼吸を忘れないで。吸って……吐いて……くすぐったさの“真ん中”に、意識をおいて」

沙雪は焦らすように、柚莉の背中に細く長く、くすぐったさの軌跡を描く。
笑いの直前で止め、そっと息を吹きかける。

「っふ……くすぐったいのに……ギリギリ笑うほどじゃない……」
柚莉の声は徐々に柔らかくなっていた。

「そう、それが“揺らぎ”──くすぐりの中にいても、心を見失わない。
 やがてあなたは、この震えの中でこそ、自分の静寂を感じられるようになるわ」

次第に、柚莉の肩は緊張を解き、くすぐられていながらも深い呼吸を続けられるようになっていた。
笑わず、逃げず──ただ、そこに在る。

沙雪は、柚莉の背をそっと撫でると、まるで風が抜けるような声で囁いた。

「よくがんばったわ。あなたは、もう第一の扉を開いた」

その言葉に、柚莉はふっと目を閉じ、長く深い息を吐いた。
まるで、涙の代わりに、ひとつの執着が外へ出ていったかのように。

そして──
その様子を見守っていた他の弟子たちもまた、自ら進み出て、くすぐりという未知の修行に、静かに身を委ねていく。

沙雪は思う。
自分もまた、揺らぎの中で救われた。
ならば今度は、その揺らぎの中で、誰かを導く者でありたい。

くすぐりは、ただの快感ではない。
それは、精神を映す鏡。
その波に抗わず、見つめ、ゆだねてこそ──心は深く、透きとおってゆく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...