くすぐりマインドフルネス

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くすぐられるのが怖い女性が、くすぐり精神統一をめざします

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道場の朝は静寂とともに始まる。
陽がさす前の白い光が、障子の紙を透かして、畳にやさしく広がっていた。

沙雪は、白衣に身を包み、香を焚いていた。
その眼差しには、もはや迷いがなかった。

目の前に正座するのは、新たに入門したばかりの若き女性たち。
その中に、ひときわ緊張を隠しきれぬ娘がいた。名を──柚莉(ゆずり)。

「……あの、師範代。私、あの……くすぐられるのが……怖くて……」

その声は、かつての沙雪自身の声そのものだった。

沙雪は静かに微笑み、彼女の目をじっと見つめた。
言葉ではなく、呼吸で語りかけるように。

「大丈夫よ。くすぐられることは、“笑わされる”ことではないの。
 あなたの心のさざ波を、ただ映し出すだけ。
 感じたままを、否定しないで──受け入れてみて」

そう言いながら、沙雪は柚莉の背後に回ると、そっと彼女の肩に手を添えた。
最初は圧などなく、空気の動きだけを伝えるような距離感。
そこから、指の腹でほんのわずかに首筋へ触れ──そのまま静かに、うなじをなぞった。

柚莉の身体が、ぴく、と跳ねる。

「……くすぐったい……っ」
その声は不安で満ちていたが、同時にわずかな好奇心が混じっていた。

「呼吸を忘れないで。吸って……吐いて……くすぐったさの“真ん中”に、意識をおいて」

沙雪は焦らすように、柚莉の背中に細く長く、くすぐったさの軌跡を描く。
笑いの直前で止め、そっと息を吹きかける。

「っふ……くすぐったいのに……ギリギリ笑うほどじゃない……」
柚莉の声は徐々に柔らかくなっていた。

「そう、それが“揺らぎ”──くすぐりの中にいても、心を見失わない。
 やがてあなたは、この震えの中でこそ、自分の静寂を感じられるようになるわ」

次第に、柚莉の肩は緊張を解き、くすぐられていながらも深い呼吸を続けられるようになっていた。
笑わず、逃げず──ただ、そこに在る。

沙雪は、柚莉の背をそっと撫でると、まるで風が抜けるような声で囁いた。

「よくがんばったわ。あなたは、もう第一の扉を開いた」

その言葉に、柚莉はふっと目を閉じ、長く深い息を吐いた。
まるで、涙の代わりに、ひとつの執着が外へ出ていったかのように。

そして──
その様子を見守っていた他の弟子たちもまた、自ら進み出て、くすぐりという未知の修行に、静かに身を委ねていく。

沙雪は思う。
自分もまた、揺らぎの中で救われた。
ならば今度は、その揺らぎの中で、誰かを導く者でありたい。

くすぐりは、ただの快感ではない。
それは、精神を映す鏡。
その波に抗わず、見つめ、ゆだねてこそ──心は深く、透きとおってゆく。
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